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199:戦いが終わって

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 魔人が黒い霧となって消えた瞬間、周囲から怒号とも唸り声とも取れるような歓声が聞こえた。

「カハッ! やったじゃねえか坊主! 坊主の精霊達はすげえぜ」

 僕の背中をバンバン叩きながらザザさんがそう大声で吹聴するので、否が応でも目立ってしまい、さすがに恥ずかしくなってきた。

「実際のところ僕は何も出来なかったのが残念です」

 周囲の義勇軍の老騎士やエルフィーデのエルフ達、ガザフの騎士達から色々と声をかけられた。だが結局のところ肝心の場面で精霊達に助けられてばかりだったという思いがあった。

「確かに攻撃面では貢献出来なかったかもしれないけど、防御の面では十分過ぎるくらい貢献したんだし自信持ちなさいよ!」

 サラまで、ザザさんのように僕の背中を叩いてそう言った。

「土魔法もニースの力なんだけど……」

 ザザさんとサラに連続で背中を結構な勢いで叩かれて、多少むせ返りながらも言葉を漏らした。

「あらあ~、ユーリはそんな事を気にしてるの? 精霊にとっては加護を与えている者が自分の力を使ってくれるのは嬉しいことなのよ~」

 フィーネがそう言って僕の頭を子供にするように撫でた。

「フィーネの言う通りだな。それにユーリ、君の精霊達への感謝の気持ちは十分伝わっているさ。だからこそ皆一生懸命共に戦ってくれるのだ」

 撤収の準備を進めていたリサさんがやって来て僕を諭してくれた。

「あらリサ姉さん、部隊の指揮は大丈夫なの?」

 忙しい筈のリサさんが僕達の所に来たことが不思議だった。

「ええ、伝える事があるから来た。ラルフ殿が十二層入口付近で倒れているとセルフィーナが教えてくれた」

 僕はラルフさんがいないという事にリサさんに指摘されて、今更ながらようやく気がついたのだ。

「そういえば……戦い終わってその場を離れたのは見て気が付いていたんですが……」

 この騒ぎと気が抜けた事ですっかりラルフさんが、その場を離れた事を失念していたのだ。

「直ぐに向かいます!」

 僕はゼダさん達に声をかけ、ラルフさんが倒れているという十二層入口に向かったのだった。
 
◻ ◼ ◻

 僕とサラ、そしてゼダさん達が到着してみると、そこにはマリアさんとディーネ、そして上位精霊のセルフィーナの姿があった。

「ラルフさんは無事なんですか?」

 慌てたように問い掛ける僕に――

『ある意味では弱体化してしまったとも言えますが、普通の状態に戻って安らかな眠りに落ちているとも言えますね……憑依していた闇精霊から解放されたのです。人間とっては健全な状態と言えるでしょう』

 セルフィーナの説明はとても分かりにくかったが、ラルフさんは、ただ疲れて気持ちよく眠っているだけだという事は何となく分かった。

「なんだ? 取り敢えず無事って事で良いんだよなゼダ?」

 ザザさんがまどろっこしそうな表情でゼダさんに尋ねた。

「ああ、そうらしいな。マリア嬢ちゃんも同じ見解か?」

 ラルフさんに近寄ったゼダさんが、ラルフさんの容態を確認した後、そう近くにいたマリアさんに尋ねた。

「はい、魔素の塊がその方から吹き出し、黒い狼の形になって抜け出したのを、この目で確認しました」

 マリアさんはその場にいて一部始終を見ていたようだ。何故この場所に居たのかは分からなかったが。

「どうやらかなり衰弱しているようだ。このまま放置する訳にもいかないな……俺達でとにかく遺跡にあった拠点に運ぼう」

 僕達はとにかくラルフさんを丈夫な布に載せ、四人がかりで十層の拠点まで運ぶことにしたのだった。

◻ ◼ ◻

 十層の拠点に戻ると僕が作った小屋にとにかくラルフさんを運び込んだ。

 拠点に戻るとキャロ達四人もここに戻ってきていた。十一層で魔石を熱心に拾っている所を、エルフィーデのエルフ達に声をかけられ戦いが既に終わった事を知ったらしい。

「ラルフおじさん大丈夫かな?」

 心配そうに覗き込んだリーゼがそう言い、ルナも同様に様子を伺っている。二人はラルフさんの面倒を見てくれていた。キャロは疲れているのか、ラルフさんの隣で一緒に眠っていた。

 四人の拾った魔石は軽く二千個を越えていて凄まじい収穫だった。四人はミリア様が倒した物だからと頑なに受け取ろうとしなかったので、この魔石は一旦エルフィーデの預かりとなったらしい。

 僕はとにかくラルフさんが目を覚ますまで付いているつもりだった。ラルフさんは家族もいないので誰かに知らせる相手もいないのだ。

(僕も一緒だな、何かあっても知らせなければならない人もいない……)

 僕がそんな事を考えながら、小屋の隅で休んでいると「ユーリこれ、さっき預かった白い狼の角……返す」

 それは、歓声の喧騒が起こっている時に、ディーネから貸すように言われた白狼の角だった。

 三層で戦った時に手に入れたままポーチに放置してすっかり忘れていた変異種の素材だった。

「え、何? 返してくれるの? 何かあったの?」

 僕は言葉少ないディーネが意味もなく角を借りて行ったりしないと思ったのでそう尋ねた。

「うん、狼の精霊が眠ってる……地上に戻ったら起こしてあげて」

 普段は表情の少ないディーネが、少し嬉しそうにそう答えたのだった。
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