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90 さみしい
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さみしい……。
さみしい…。
子離れしないといけないんだよね。
さみしい。
和俊は、昨日、通院して富子のアパートによって、ご飯を食べて
自分のマンションに帰ってしまいました。
和俊が、富子のことを過度に心配して離れられなくなりそうだったから
これはとってもいいことなのに、
さっきから涙が止まらないのです。
さみしい……。
さみしい…。
さみしさが、洪水のようにごうごうと音を立てて防波堤にぶち当たり
しぶきをあげて浪の花をつくる。
あぶくのようにぶくぶくと。
風に吹かれて浜辺に打ち上げる。
早く死んでしまえばいいのに。
PLAN 75のように死ぬ日を選べたらいいのに。
尿漏れパットと紙おむつとの併用は、結局うまくできなくて
紙パンツの中で尿漏れパットがあっちにいったりこっちでももぐれたり。
行方不明。
うまくいかないな~。
(暇だからいけないんだ)
富子は、壊れたデジタルカメラをもってお花の撮影へと向かいます。
ピラカンサスの実が燃えるように赤く集い合っています。
商店街の鉢にビオラが並べられ、にぎやかに色とりどりのおしゃべりを始めました。
「寂しいのは誰です?」
11月初めの晩秋だというのに小春日和のような優しい風がそよそよと頬を撫でます。
ピラカンサスの大仰な赤い群れの実はにぎやか。
小さな濃い緑の葉をプルプル震わせて、
必死に富子の機嫌を取るように話しかけてくれるのですが、
自己憐憫の深い谷にいまにも溺れそうな彼女にとっては、
陰キャが眩しそうに遠くから陽キャを見ているようなもの。
すべては、うたかたの夢のように消え去っていくのです。
スーパーに自転車を止め、よせばいいのにストロングチューハイを二本、籠に入れます。
お買い物できるカードの中には、1000円ちょっとしかありません。
(肴はあぶったいかがいいんだけどな)
そんなものはどこを探してもありません。
ボイルしたタコならあるのですが、たこといかでは大違い。
(いかんな~)
さむいさむいダジャレを一人で飛ばして滑っています。
結局、アルコール依存症者のようにおつまみを買わず、お酒だけをゲット。
(しょぼ~ん)
低級老人のアルコール依存症も多いと何かで見た覚えがあります。
さみしい……。
富子には孫がいるのですが、まだ一度もあった事がありません。
養護施設に生まれてすぐに預けられています。
富子が用意した赤ちゃんの服は渡せないまま押し入れの中に入っています。
(孫でもいればな~、一緒に片付けやお料理を楽しめるのに……)
ぎこぎこと鳴り響く自転車をこいで、アパートにたどり着くと、
しゅうまくんとおじいちゃんとともちゃんとおかあさんが公園のアメリカン花見月の実と戯れています。
二人とも就学前に元気な男の子。
(ああ、わたしも子供や孫と一緒に遊びたかったな)
こうして、じぶんの至らなさを肴に今日も酒に溺れるのです。
早く死にたい。
さみしい……。
さみしい…。
さみしい。
音を立てて、糸車は今日も回ります。
さみしい…。
子離れしないといけないんだよね。
さみしい。
和俊は、昨日、通院して富子のアパートによって、ご飯を食べて
自分のマンションに帰ってしまいました。
和俊が、富子のことを過度に心配して離れられなくなりそうだったから
これはとってもいいことなのに、
さっきから涙が止まらないのです。
さみしい……。
さみしい…。
さみしさが、洪水のようにごうごうと音を立てて防波堤にぶち当たり
しぶきをあげて浪の花をつくる。
あぶくのようにぶくぶくと。
風に吹かれて浜辺に打ち上げる。
早く死んでしまえばいいのに。
PLAN 75のように死ぬ日を選べたらいいのに。
尿漏れパットと紙おむつとの併用は、結局うまくできなくて
紙パンツの中で尿漏れパットがあっちにいったりこっちでももぐれたり。
行方不明。
うまくいかないな~。
(暇だからいけないんだ)
富子は、壊れたデジタルカメラをもってお花の撮影へと向かいます。
ピラカンサスの実が燃えるように赤く集い合っています。
商店街の鉢にビオラが並べられ、にぎやかに色とりどりのおしゃべりを始めました。
「寂しいのは誰です?」
11月初めの晩秋だというのに小春日和のような優しい風がそよそよと頬を撫でます。
ピラカンサスの大仰な赤い群れの実はにぎやか。
小さな濃い緑の葉をプルプル震わせて、
必死に富子の機嫌を取るように話しかけてくれるのですが、
自己憐憫の深い谷にいまにも溺れそうな彼女にとっては、
陰キャが眩しそうに遠くから陽キャを見ているようなもの。
すべては、うたかたの夢のように消え去っていくのです。
スーパーに自転車を止め、よせばいいのにストロングチューハイを二本、籠に入れます。
お買い物できるカードの中には、1000円ちょっとしかありません。
(肴はあぶったいかがいいんだけどな)
そんなものはどこを探してもありません。
ボイルしたタコならあるのですが、たこといかでは大違い。
(いかんな~)
さむいさむいダジャレを一人で飛ばして滑っています。
結局、アルコール依存症者のようにおつまみを買わず、お酒だけをゲット。
(しょぼ~ん)
低級老人のアルコール依存症も多いと何かで見た覚えがあります。
さみしい……。
富子には孫がいるのですが、まだ一度もあった事がありません。
養護施設に生まれてすぐに預けられています。
富子が用意した赤ちゃんの服は渡せないまま押し入れの中に入っています。
(孫でもいればな~、一緒に片付けやお料理を楽しめるのに……)
ぎこぎこと鳴り響く自転車をこいで、アパートにたどり着くと、
しゅうまくんとおじいちゃんとともちゃんとおかあさんが公園のアメリカン花見月の実と戯れています。
二人とも就学前に元気な男の子。
(ああ、わたしも子供や孫と一緒に遊びたかったな)
こうして、じぶんの至らなさを肴に今日も酒に溺れるのです。
早く死にたい。
さみしい……。
さみしい…。
さみしい。
音を立てて、糸車は今日も回ります。
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