かあさんのつぶやき

春秋花壇

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41 葉月夏空

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麦わらの帽子の君が
揺れたマリーゴールドに似てる
あれは空がまだ青い夏のこと
懐かしいと笑えたあの日の恋

かあさんが、あいみょんのマリーゴールドを口ずさんでいる。

いつだって、老いの不安を笑顔同封で生きようとするかあさんの

健気さが愛おしい。

「夏のにおいがするね」

「そう?」

「うん、入道雲のにおい」

ミンミン蝉がコーラスを奏でる。

今年の梅雨明けはとても遅く、葉月1日もまだ

しとどに道路をぬらしていた。

ラジオ体操の会場のマスクの数も少しずつ、

体操中は苦しいのかはずしている人が多くなる。

貼り付けたような灰色の雲がもこもこと盛り上がり、

積乱雲、ふわふわの綿菓子のような夏の雲に変わっていく。

陽光も明るさと強度を増し、きらきらと輝いている。

入道雲の上にデッキチェアを置いてサングラスかけて

マイタイ飲めたら幸せかな。

ハイビスカスで飾ったブルーハワイにオレンジをアレンジして涼やかに。

ミントの葉を一杯アレンジしてモヒートもさわやか。

ガラス製の風鈴が軽やかな音を奏でる。

こじゃれた感じにダイキリ。

うーん、トレビアン。

これはどちらかという、カクテルラウンジのピアノのスウイングと遊べそう。

新型の感染症は、湿気と温度で下火になるかと思われたが、

恐ろしい勢いで数を増していった。

「東京来るな」

かなしいのー。

お金がなくても、江ノ島辺りに行って

サザエのつぼ焼きでも食べてきたかったんだけど。

行きつけのお寿司屋さんは、かあさんのことを

「静はゲテモノ食いだからな」

と、笑いながら言う。

サザエのきもやナマコのワタ、鮑の肝が大好きだからだろう。

今はお金が無くて、お寿司屋さんにもいかれないみたいだけどね。

こうなると、かあさんの行き場所はただひとつ。

こりもせず、お花屋さんである。

しかも、また借金して一杯買ってきた。

懲りないやつ。学習能力のないやつ。

クロサンドラのオレンジの花が嬉しそうに揺れている。

マリーゴールドを買いに行ったのに、

一鉢も手に入らなかった。

あいみょんが消えていく。

黄花コスモス、観賞用とうがらしで彩を添える。

あんなにがんばって片付けたテーブルの上はいつの間にか、

配達のヨーグルトの瓶とペットボトルで埋め尽くされる。

「出したら元に戻す」

これさえできれば、もう少しごみ屋敷から解放されるはずなのに。

「なんでこうなるかな」

ぶつぶついいながら、ごみ屋敷寸前のテーブルの上を片付けている。

お花だって、結局毎日片付け。

咲き終わった花を摘み、掃除する。

水をやる。

肥料を上げる。

雑草を抜く。

虫と病気のチェック。

咲いた花をゆっくりめでたことなど、

ほとんどなかった。

こうなると、次から次へと文句ばかり出てくる。

与えられたものに感謝するのではなく、

ないものねだりの自己憐憫。

そして、多分いつも最後には

生きているのが嫌になるのだ。


「オイッス!」

俺の名前は、沼田 和俊(ぬまた かずとし)43歳。

無職である。

重度の統合失調症で、毎週、病院に通っている。

母、小宮 富子(こみや とみこ)66歳。

母は、父と離婚した後、別な戸籍になり、

旧姓に戻った。

母もまた重度の精神障害者である。

二人は、子供の頃から幻覚、幻聴に悩まされていた。

( ´•̥ו̥` )


「あああ、やめやめ」

「借金も財産のうち」

確かにそうなんだろうけど><

アフタヌーンティースタンドが1000円くらいで買えるらしい。

糖尿病のかあさんは、3段もお菓子を並べることさえ

良心の呵責を覚える。

治療を始めたとき、パニックのかあさんががんばって

電車に乗って内科を受診した。

そのとき、自分ごほうびでグリコのアーモンドキャラメルを

一つ買って、それを主治医に伝えたらものすごく叱られた。

「何でそんなものを買うの」

ぐすん。あああああ、

もう何にも考えたくない。

ザブーン。

壊れた頭でうだうだ考えるのはやめにして、

「あああ、しあわせ」

積み立てのミントをお風呂に浮かべてご満喫。

またまた借金しちゃって、あとで覚えてないとかなりませんように。

ユーチューブの動画でアボガドの皮のむき方を見ている。

便利な世の中だよね。

お金がなくてもどんどん新しい有益な知恵を知ることができる。

ラジオ体操と同じように掃除の時間、定期的になったらいいのにな。

毎日少しずつでもやれば、注意欠陥障害でも

少しはましなお部屋になるかもしれない。

自涜については、少し勝利できているから

掃除チャレンジしてみようかな。

突然の来客にも、

「どうぞ」

と、言えたらいいな。

お花の手入れをして、お掃除を少しがんばったら、

「みずぶろー」

ゆっくり、お風呂を楽しんで、少しお昼ね。

最近、かあさんは、視野狭窄がひどい。

かすみ目まで加わって、注意力がよけいに持続できない。

体をだましだまし使っていくしかないよね。

はだかんぼうの膝頭がつややかに光を帯びている。

「まだまだいける」

一人ご満悦。

内腿をなでて、

「きめは細かいんだけどな」

自己吟味している。

「うるおいがなー」

年を取るということは、潤いやつやがなくなるということなのだろう。

「さみしいのー」

蚊に刺されたあとが、やけに赤く腫れ上がっている。

薬を丁寧に塗るが、時たま思い出したようにかゆい。

1匹の雌の蚊が1秒間に200回ないし500回羽ばたきながら近寄ってくる。

ラジオ体操、庭の手入れをしていると、

4.5箇所、毎日さされる。

「虫よけ対策しないとね」

足を洗うとだいぶ違うみたいだけど。

蚊の多い庭にありがちなこと。

下草。遊具。

遊歩道の草刈、今年はしてくれないみたい。

少しずつでも勉強して、できるだけ

かゆくない夏をすごしたい。


「いざ、尋常に勝負」







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