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40 壊れていく人格
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「もう、いらん」
「いらないのー」
布団の上で子供のように足をばたつかせている。
かあさんは、いじけて自分を放り投げようとしてる。
俺はそんなかあさんを見てて、正気ってむごいなと思う。
かあさんは、離人症のようになっているとべそをかいている。
おそらく、自分の状態が納得できず、
折り合いをつけることができないのだろう。
お金に対してのほとんどの記憶がないようだ。
月曜日に7000円貰って。
木曜日に足らなくて、12000円貰いにいって。
計19000円。
4日間で、見事に全部使ってしまった。
「スイカが食べたい、桃が食べたい」
あんなに食べたがっていたフルーツは、
糖尿病だからと自制を働かせて買ってこなかったという。
そこまで、記憶がきちんとあるのに、
いったい何が起こっているのだろう。
この前の記憶のない40何万円もこんな感じで使ったのかな。
お米や醤油なども買ってきている。
レシートもちゃんと持っている。
買ったお店の記憶もある。
このまま、アルツハイマー一直線なのかな。
俺にはどうしてあげることもできない。
「1000円貸して」
と、いうから1000円くらいならいいかと
貸したんだけど。
レシートを見せてもらったが、
無駄使いをしているようには見えない。
お酒を飲んでいるわけでも、薬物を使っているわけでも、
処方のODをしているわけでもない。
そんな状態でも、必死に小説を読んでいる。
たぶん、自己肯定感がないから、
自分の小説は書くことはできないけど、
他の人の書いたものを読むのはOKということなのだろう。
みてると、けなげで痛々しくて、
映画の『半落ち』を思い出す。
アルツハイマーの奥さんの人格破壊を見ていられなくて、
殺人を犯してしまう映画なのだが、
俺は俺を保つことにもっと力を注がなきゃいけないのかもしれない。
共依存で、お茶を飲むことさえ禁じられたときがあったのだから。
「オイッス!」
俺の名前は、沼田 和俊(ぬまた かずとし)43歳。
無職である。
重度の統合失調症で、毎週、病院に通っている。
母、小宮 富子(こみや とみこ)66歳。
母は、父と離婚した後、別な戸籍になり、
旧姓に戻った。
母もまた重度の精神障害者である。
二人は、子供の頃から幻覚、幻聴に悩まされていた。
( ´•̥ו̥` )
壊れていく人格。
と、いっても今に始まったことじゃないのかもしれない。
だって、かあさんを見れる医者がいないほど病気のデパートと言われていたのだから。
「今、生きていることが奇跡」
と、かあさんは時たま、仏様みたいなにこにこした顔でいう。
そうだよな。
こんな状態で子供のときから、ずっと生きてきたんだろうな。
3歳のときに近所の高校生のお兄ちゃんに監禁されてから、
ずっと『いなげな子』と、自分を思ってきたようだ。
周りも腫れ物に触るように接してきたんだろうし、
3歳じゃ、本人もどう対処していいのかわからなかったのだろうし。
性的ないたずらをされたわけではなかったようだが、
その日以来、お嫁にいけないと思ってきたらしい。
一人の人の本のいたずら心が、
ここまで人間を壊してしまうのかと恐ろしくなる。
その日を境に、解離性同一性障害、
かあさんの中にもう一人の人格が生まれた。
あれから、63年間。
かあさんは、ずっと壊れてる。
人間洗濯機とかあったらいいのにね。
どんなにかあさんが、過去を捨て、過去を許し前を向いて歩こうとしても、
フラッシュバツクして泣き喚く。
それでも、今は小説という楽しみがあるから、
まだ生きていけるのかな。
灰色の雲は、湿度と温度をつれてくる。
それでも、冬のそれとは比べ物にならないほど明るい。
8月に入っても梅雨の明けない朝、小鳥たちはそ知らぬ顔で
さえずりおしゃべりを楽しみ、青春を謳歌している。
俺が自分のマンションに帰るというと、
寂しそうにタオルをかじって布団をかぶり、
むせび泣いている。
かわいそうに自己肯定感がないから、
承認欲求でごまかそうとしている。
どんなにうまくいかなくても
もう無理だって
わたしにはできないって
思いそうになっても
わたしは私を見捨てない
わたしは私を投げ出さない
わたしは私を諦めない
不慣れでも不器用でも
こんなに一生懸命
がんばろうとしているよ
大丈夫 結果は必ずついてくる
心が先 現実があと
鏡は先に笑わない
笑顔同封
笑顔歯磨き
感謝行トイレ掃除
今が一番幸せ
ありがとうございます
せーの 👍
「いらないのー」
「ううん、そんなことないよ」
確かめるように、俺の答えを待っている。
俺はマザコンじゃない。
でも、そんなかあさんをそっと包んであげたいくらい愛おしい。
꒰* ॢꈍ◡ꈍ ॢ꒱.*˚‧
ラジオ体操が終わりそうな時刻には
空一面に覆われていた雲が途切れ途切れになり
青空が見えてきた。
ほら 明るいきらきらしたお日様さえ笑顔で挨拶してくれている。
いつの間にか油蝉からミンミン蝉のコーラスに。
どんなに奇妙なわけのわからない現象も
長い目で見れば時は流れ季節は旬と彩を添えて移ろっていく。
決してそのままということではないのだ。
かあさんだって、精神科に通い続けることは無理だと思われていたのに
もうすぐ、2年になるよ。
もっとよくなる。
きっと変わる。
ねー、そうだよね。
「いらないのー」
布団の上で子供のように足をばたつかせている。
かあさんは、いじけて自分を放り投げようとしてる。
俺はそんなかあさんを見てて、正気ってむごいなと思う。
かあさんは、離人症のようになっているとべそをかいている。
おそらく、自分の状態が納得できず、
折り合いをつけることができないのだろう。
お金に対してのほとんどの記憶がないようだ。
月曜日に7000円貰って。
木曜日に足らなくて、12000円貰いにいって。
計19000円。
4日間で、見事に全部使ってしまった。
「スイカが食べたい、桃が食べたい」
あんなに食べたがっていたフルーツは、
糖尿病だからと自制を働かせて買ってこなかったという。
そこまで、記憶がきちんとあるのに、
いったい何が起こっているのだろう。
この前の記憶のない40何万円もこんな感じで使ったのかな。
お米や醤油なども買ってきている。
レシートもちゃんと持っている。
買ったお店の記憶もある。
このまま、アルツハイマー一直線なのかな。
俺にはどうしてあげることもできない。
「1000円貸して」
と、いうから1000円くらいならいいかと
貸したんだけど。
レシートを見せてもらったが、
無駄使いをしているようには見えない。
お酒を飲んでいるわけでも、薬物を使っているわけでも、
処方のODをしているわけでもない。
そんな状態でも、必死に小説を読んでいる。
たぶん、自己肯定感がないから、
自分の小説は書くことはできないけど、
他の人の書いたものを読むのはOKということなのだろう。
みてると、けなげで痛々しくて、
映画の『半落ち』を思い出す。
アルツハイマーの奥さんの人格破壊を見ていられなくて、
殺人を犯してしまう映画なのだが、
俺は俺を保つことにもっと力を注がなきゃいけないのかもしれない。
共依存で、お茶を飲むことさえ禁じられたときがあったのだから。
「オイッス!」
俺の名前は、沼田 和俊(ぬまた かずとし)43歳。
無職である。
重度の統合失調症で、毎週、病院に通っている。
母、小宮 富子(こみや とみこ)66歳。
母は、父と離婚した後、別な戸籍になり、
旧姓に戻った。
母もまた重度の精神障害者である。
二人は、子供の頃から幻覚、幻聴に悩まされていた。
( ´•̥ו̥` )
壊れていく人格。
と、いっても今に始まったことじゃないのかもしれない。
だって、かあさんを見れる医者がいないほど病気のデパートと言われていたのだから。
「今、生きていることが奇跡」
と、かあさんは時たま、仏様みたいなにこにこした顔でいう。
そうだよな。
こんな状態で子供のときから、ずっと生きてきたんだろうな。
3歳のときに近所の高校生のお兄ちゃんに監禁されてから、
ずっと『いなげな子』と、自分を思ってきたようだ。
周りも腫れ物に触るように接してきたんだろうし、
3歳じゃ、本人もどう対処していいのかわからなかったのだろうし。
性的ないたずらをされたわけではなかったようだが、
その日以来、お嫁にいけないと思ってきたらしい。
一人の人の本のいたずら心が、
ここまで人間を壊してしまうのかと恐ろしくなる。
その日を境に、解離性同一性障害、
かあさんの中にもう一人の人格が生まれた。
あれから、63年間。
かあさんは、ずっと壊れてる。
人間洗濯機とかあったらいいのにね。
どんなにかあさんが、過去を捨て、過去を許し前を向いて歩こうとしても、
フラッシュバツクして泣き喚く。
それでも、今は小説という楽しみがあるから、
まだ生きていけるのかな。
灰色の雲は、湿度と温度をつれてくる。
それでも、冬のそれとは比べ物にならないほど明るい。
8月に入っても梅雨の明けない朝、小鳥たちはそ知らぬ顔で
さえずりおしゃべりを楽しみ、青春を謳歌している。
俺が自分のマンションに帰るというと、
寂しそうにタオルをかじって布団をかぶり、
むせび泣いている。
かわいそうに自己肯定感がないから、
承認欲求でごまかそうとしている。
どんなにうまくいかなくても
もう無理だって
わたしにはできないって
思いそうになっても
わたしは私を見捨てない
わたしは私を投げ出さない
わたしは私を諦めない
不慣れでも不器用でも
こんなに一生懸命
がんばろうとしているよ
大丈夫 結果は必ずついてくる
心が先 現実があと
鏡は先に笑わない
笑顔同封
笑顔歯磨き
感謝行トイレ掃除
今が一番幸せ
ありがとうございます
せーの 👍
「いらないのー」
「ううん、そんなことないよ」
確かめるように、俺の答えを待っている。
俺はマザコンじゃない。
でも、そんなかあさんをそっと包んであげたいくらい愛おしい。
꒰* ॢꈍ◡ꈍ ॢ꒱.*˚‧
ラジオ体操が終わりそうな時刻には
空一面に覆われていた雲が途切れ途切れになり
青空が見えてきた。
ほら 明るいきらきらしたお日様さえ笑顔で挨拶してくれている。
いつの間にか油蝉からミンミン蝉のコーラスに。
どんなに奇妙なわけのわからない現象も
長い目で見れば時は流れ季節は旬と彩を添えて移ろっていく。
決してそのままということではないのだ。
かあさんだって、精神科に通い続けることは無理だと思われていたのに
もうすぐ、2年になるよ。
もっとよくなる。
きっと変わる。
ねー、そうだよね。
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