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第10章 交際を申し込む

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2人の間で、どうしたらいいか分からない私。

「エリク。人の物を取ってはいけないと、教えられなかったか。」

「ええ。知っています。しかし、相手がオラース様では、アンジェリク嬢が傷つくのは、明白です。」

「どうして、僕が相手だと、アンジェが傷つくんだ。」

「それこそ、オラース様の方が、知っているのでは?」

そして、またまた二人の距離が近づく。

「もう、二人共!落ち着いて!離れて!」

私は間に入って、強制的に二人を引き離した。


「アンジェ。君はどうなんだ。僕とエリク、どちらを取るんだ。」

オラース様は、真剣な顔で、私を見つめる。

「アンジェリク嬢。騙されてはいけない。オラース様は、女性を平気で捨てる人だ。アンジェリク嬢もきっとそうなる。」

エリクは、私の肩を掴んだ。

「僕は、アンジェを捨てたりしない!」

「へえ。証拠でもあるんですか?」

気が付くと二人は、睨み合っている。


「ちょっと、待った。」

その時間に入ったのは、私ではなくコラリー様だった。

「私がいない間に、どうなっている訳?」

コラリー様を前に、二人はそっぽを向く。

「まずは二人を引き離すわ。エリク。アンジェと一緒に、お茶の用意をして。」

その瞬間だった。

私はオラース様に、後ろから雁字搦めにされた。

「今、エリクとアンジェを一緒にする訳には、いかない!」

オラース様を見ると、私を見つめてくれる。

胸が、キュンとする。

ああ、オラース様の綺麗な瞳が、私を見つめている。


「いいから!まずは、オラースから話を聞くわ。」

そして私は、コラリー様によって、オラース様から引き離された。

「さあ、エリクとアンジェは、行って。」

私がちらっとエリクを見ると、ふいっと顔を背けて、部屋を出て行こうとした。

「エリク、待って。」

私がそう言うと立ち止まってくれて、部屋のドアを開けてくれたエリク。

「ありがとう。」


部屋を一緒に出ると、エリクは早足で、キッチンに向かった。

「待ってよ、エリク。私も、あなたに話があるわ。」

走ってエリクの腕を掴んだ。

「エリク!」

振り向いたエリクは、顔を真っ赤にしていた。

「エリク……」

「らしくないとか言うなよ。俺だって、好きな女に告白した時くらい、こんな顔をするんだ。」

「えっ……」

慌てて腕を放すと、こっちまで照れてしまった。


「あの、私が好きだって事、本当なの?」

「公爵家の令嬢を前にして、侍従の俺が嘘をつくかよ。」

「そうだけど……何て言うか、実感が湧かなくて。」

その瞬間だった。

エリクの唇と、私の唇が重なった。

目を開けていても、しっかりとエリクの唇の感触が分かる。

えっ!?

私、エリクとキスしている!?


「嫌ッ!」

私はエリクを引き離した。

「どうして!」

「実感がないって言うから。キスしたら、実感湧くだろ。」

「それでも、急にキスするなんて!」

するとエリクは、私を抱きしめた。

「他にどんな方法で、君を好きだと教えればいい?」

息が止まった。

「……まさか、本気なの?」

「本気だよ。本気で君を手に入れたいと思っている。」


まさか、エリクが本気で私を好きだなんて。

「だって、今まで全然、そんな素振り見せなかったじゃない。」

「こっちは侍従だからな。身分の差を感じて、言わなかったんだよ。」

「だったらどうして、こんな時に……」

エリクの抱きしめる力が、強くなる。

「オラース様が、相手だと知ったからだよ。」

エリクが、泣きそうな声で言う。

「俺、オラース様のせいで、泣いて傷つく侍女達を、たくさん見てきた。アンジェリク。君だけは、絶対泣かせたくない。」

エリクの気持ちが、真っすぐ私の心に伝わって来る。

「だからアンジェリク。俺と一緒にいてくれ。いつか、お父様のフェーネル公爵殿下にも、結婚を申し込む。」

「エリク……」

「許して貰えないかもしれないけれど、俺、負けないから。絶対君を幸せにするから。」

エリクの強い気持ち。

ものすごく伝わって来る。

どうしよう。

エリクの本気の気持ちに、負けそうになる。

だってまさか、結婚まで考えているなんて。


「お父様は、私が幸せになれれば、本当は相手は誰だっていいと思う。」

「えっ……それって……」

エリクが身体を離して、私を見つめる。

「でもね。私がダメなの。私、オラース様の事が好きだから。」

「アンジェリク。」

「ごめんなさい。私、傷ついてもいいから、オラース様の側にいたい。」

エリクの本気の気持ちに申し訳なくて、涙が出てきた。

「ごめんなさい、本当にごめんなさい。」

こんな私を好きになってくれる人なんて、いないと思っていた。

でもエリクは、私を心から好きになってくれたんだね。


「泣かないで、アンジェリク。こっちこそごめん。泣かせたくないのに、結果君を泣かせてしまった。」

「ううん。気にしないで。」

エリク。本当にありがとう。

私、少し自信がついたみたい。

そして、エリクとお茶の用意をして、コラリー様の部屋に向かった。

そこには、オラース様もいた。

なんだか、イライラしている。


「どう?エリクとは話がついた?」

コラリー様は、ワクワクしながら尋ねてきた。

「はい。その……」

エリクを見ると、平然とオラース様にお茶を淹れている。

「まさか、この中に毒でも入ってやしないだろうなぁ。エリク。」

「オラース様。そこは一応、我慢しました。」

その会話を聞いて、コラリー様は笑っている。

「ねえ、面白いでしょ?この2人。」

「そ、そうですね。」

さすがに私は、笑えなかった。

「小さい頃からいつも一緒なの。だから、好きになるタイプも一緒なのよね。」

2人はまだ、顔を背けている。

「エリクが好き侍女が、オラースと付き合っているなんて、今までたくさん聞いてきたわ。」

「えっ!」

私は驚いた。

結局、このパターン、私が最初じゃなかったの?


「でも、エリクがこんなに執着するなんて、初めてだけどね。エリク、アンジェに対しては、本気みたい。」

「コ、コラリー様。」

エリクがまた照れている。

そこにまた割って入ったのが、オラース様だった。

「だからと言って、アンジェを渡す気はない。僕だって今回は、本気だからね。」

ここでもコラリー様は、笑っている。


「その言葉も、何度か聞いたけれど。」

「ちょっと、姉さん!」

オラース様は、困った顔で私を見る。

そうか。オラース様も、そうなんだね。

なんだか、男性不信になりそう。

「アンジェ。不安にならないで。僕は本気を出す。父上を通して、フェーネル公爵に、アンジェとの交際を申し込むつもりだ。」

「へえ。」

コラリー様もこれには、驚いているみたい。

「交際を申し込むって言う事は、将来結婚するって事?」

「当たり前さ。」

「だったら、交際じゃなくて結婚でもいいんじゃない?」

私の事なのに、オラース様とコラリー様で、話合っている。

私の出る幕は、ないのだろうか。

「よし!そうしよう。フェーネル公爵に、アンジェとの結婚を申し込む。」

エリクは不機嫌そうな顔をする。

「その……エリクも、私との結婚を申し込みたいのよね。」

「なに!?」

オラース様は、急にエリクに顔を向けた。

「エリク。そこまでアンジェを。」

「当たり前です。結婚する前に、アンジェリク嬢に手を出したあなたとは、違いますよ。」

「えっ!?」

これには、コラリー様が驚いた。

「結婚する前に、身体を許したの?アンジェ。」

なぜかコラリー様と共にエリクも、私をじーっと見ている。

「す、好きな人と結ばれたいと思うのは、自然な事です。」

「でも、結婚できなかったら、どうするの?純潔じゃなかったら、誰もお嫁に貰ってくれないわよ?」

辺りがシーンと、静まり返った。

「オラース様と、結婚すればいいんです。」

「断られたら?」

また、辺りがシーンとなる。

「そんな、悲しい事言わないで下さい。コラリー様。」

「あっ、ごめんなさい。」

でもその時、エリクが咳ばらいをした。

「大丈夫です。その際は、私がアンジェリク嬢を引き受けます。」

言ったエリクが、かぁーっと赤くなっている。


「本当、二人共似ているわよね。」

コラリー様は、呆れて紅茶を飲み始めた。

「あら、アンジェ。これ、オリジナルブレンド?」

「お気づきになりました?ちょっと試してみました。」

「アンジェ~。」

コラリー様は、私を抱き寄せた。

「いっそ、ずっと私の側にいたら?」

「ははは……」

コラリー様からも、ずっと側にいたいって、私、どれだけモテるんだろう。


「分かった。アンジェ、これから二人で、僕の両親に挨拶しに行こう。」

「ええっ!?」

これから?なんて突拍子もない。

「こういうのは、早い方がいいんだ。」

オラース様は、私の腕を掴んだ。

「待って下さい、オラース様。」

「待てない。」

「ちょっと……」

私はオラース様に引き連れて行かれ、部屋を出た。

「いいんですか?こんな早々に。」

「いいに決まっているだろう。これで僕の結婚相手も、決まると言うモノだ。」

胸が熱くなる。

私が、オラース様の結婚相手。

どうしよう、嬉しい。


そして私達は、オラース様のご両親がいる部屋に、向かった。

「アンジェ。何を言われても、僕に従うって言ってね。」

「分かりました。」

私はゴクンと息を飲んだ。


オラース様が、部屋をノックする。

「はい。」

お母様の声だ。

「オラースです。少し話があって来ました。」

「入っていいわよ。」

そして部屋のドアが開き、オラース様の両親がソファーに座っている姿を見た。

「おや、どうしてアンジェリクも一緒に?」

オラース様のお父様が、私を見て不思議がっている。

「父上、母上。今日は、アンジェリク嬢との結婚を承諾して頂きたく、お部屋に参上しました。」

オラース様の言葉に、ご両親は目を大きく開けた。
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