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第11章 僕を信じて

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「アンジェリクとの、結婚の承諾?」

お父様は、顔を歪ませていた。

「あなた達、一体いつからそんな仲に?」

お母様は、身体を震わせていた。

「少し前からです。でも、アンジェリク嬢を想う気持ちは、誰よりも強い。」

オラース様は、はっきりと言ってくれた。

「待て待て。落ち着こう。」

「そうね。落ち着きましょう。」

お父様とお母様は、お互いをなだめる。


きっと、どうしてそうなったのかを、考えているんだわ。

やっぱり私は、この家に相応しくないんじゃないかしら。


「オラース。なぜ、アンジェリクに目をつけた?」

「アンジェリク嬢は、誰よりも優しい。そして努力家です。一緒にいて楽しい。そんな女性は、アンジェリク嬢だけです。」

隣で聞いていて、首元がこそばゆくなった。

こんなに褒められていいの?私。

「うーん……」

お父様は、すごく悩んでいる。

「アンジェリクの気持ちは?」

「私も、オラース様と同じ考えです。」

私は、オラース様に言われた通りに、言葉を伝えた。

だけど、お父様とお母様の表情は、変らない。

「オラース、アンジェリク。二人が同じ気持ちなら、応援したい気持ちはあるのだが……結婚となるとな。」

「そうね。悩んでしまうわね。」

うんうん唸っているお父様とお母様に対して、胸が押しつぶされそうになった。


結婚は、本人達の気持ちよりも、家の繋がりを重んじるものね。

アルノ―家としては、貧乏なフェーネル家とは、繋がりを持ちたくないんだわ。

そう言えば、一番最初に私の社交界デビューの時も、力になってくれたアルノ―家だけど、結局自分のところのパーティーにも、呼んで下さらなかった。

私がこの家のパーティーに来て、オラース様とカップルになったら、困るからだわ。


「あのね、アンジェリクが良い娘だと言う事は、知っているのよ。」

「ああ、そうだ。アンジェリクを非難している訳ではない。」

そう言われると、余計貧乏な実家が問題だと、言われているみたい。

そして、そんなご両親に、オラース様もイライラしているみたい。

「オラース。おまえが結婚の話をしてくれた事は、嬉しい。だが、本当にアンジェリクでいいのか?」

胸にグサッと、何かが刺さった。

「今までのおまえの振る舞い、口にはしなかったが、よく見ていた。いろんな侍女に手を出していたようだが、アンジェリクもコラリーの侍女だから、手を出したのではないか?」

「いいえ。僕はアンジェリク嬢を、一度も侍女だと見た事はないです。」

「うーん。」

そうか。お父様は、今までのオラース様の相手と、私はあまり変わりないと思っているのね。

コラリー様やエリクもそうだった。

オラース様は、いろんな女性と恋をしていた。

今回だって、一緒だって。


「どうして皆、オラース様の事を信じてくれないの?」

涙が出てきた。

「オラース様は、いままでの女性とは違うと言ってくれています。結婚を考えてくれたのも、私が初めてです。なのにどうして、今までの恋と同じだと言うのですか。」

私は泣きながら、オラース様の気持ちを伝えた。

「アンジェ、泣かないで。ありがとう、そう言ってくれて。」

オラース様は、私の背中を摩ってくれた。

「分かった。アンジェリク。ちょっと、席を外してくれないか。」

「はい。」

私は立ち上がると、部屋を出て、ドアの隙間から中の様子を聞いた。


「オラース、おまえの今回の気持ちは分かった。だが、アンジェリクとの結婚は、諦めてくれ。」

「どうしてですか!?」

オラース様は、立ち上がった。

「アンジェリクの実家のフェーネル家とは、格が違う。」

「一緒じゃないですか。同じ公爵家だ。」

ハラハラする。

やっぱり、私の実家が貧乏なのを、ご両親は気にしているんだ。


「オラース。同じ公爵家でもね、経済力がある家とない家があるのよ。」

「フェーネル家に経済力が無くても、アルノ―家で支援すればいい事でしょう。」

「そうはいかない。他家に資財を持って行かれれば、アルノ―家だってどうなるか分からない。」

「そうよ、オラース。だからあなたも、アルノ―家よりも経済力のある家と、婚姻をして……」

するとオラース様が、テーブルを叩いた。

「どこまでも、金の事ですか!」

オラース様の息遣いが、荒くなっている。

「金で繋がった家なんて、金が無くなれば終わりでしょう!」

ご両親は、ふーっとため息。

あくまで、オラース様を世間知らずだと、思っているらしい。


「オラース。愛で繋がったとしても一緒だ。愛が無くなればそれで終わる。だが、格式はずっと同じだ。無くなる事はない。」

「僕とアンジェの愛は、無くならない。」

「何を言っても、今はダメだな。一度頭を冷やして来い。」

オラース様は、ご両親に背中を向けると、部屋を出て来た。

そして戸の影に隠れていた私を見て、驚いていた。

「アンジェ。聞いていたのか。」

「はい。」

2人で下を向いた。

「ごめん。君を傷つけてしまって。」

「いえ。私の実家が貧乏なのは、本当の事ですから。」


そう言うしかなかった。

でも、これでよく分かった。


どうして実家は公爵家なのに、貧乏と言うだけで、こんなにも蔑まれるのか。

他の公爵家も、同じなのね。

今の資財を守るだけで、必死なんだわ。

だから、もっと経済力のある家と、婚姻関係を結びたいのね。

お金のない私の実家には、公爵家という名前しか残っていないんだ。


「アンジェ。」

泣く私を抱きしめてくれるオラース様。

その温もりに、私は甘えてしまう。

「僕を信じてくれ。必ず両親を説得させて見せるから。」

「はい。私は、オラース様を信じています。でも……」

「大丈夫だから。」

オラース様は、私をきつく抱きしめてくれた。


「ああ、もう我慢できない。アンジェを抱きたい。」

オラース様はそう言うと、私を連れて行く。

「オラース様、どちらへ?」

「僕の部屋だよ。」

そう言うとオラース様は、自分の部屋に私を入れて、鍵をかけた。

「これで、誰も入って来ない。」

そしてオラース様は、私にキスをくれた。

深い深い、舌が絡まるキス。


「アンジェ。愛している。」

「私もです。オラース様。」

オラース様に服を脱がされ、私はベッドに押し倒された。

「アンジェ、いつまでも一緒だよ。」

「はい、オラース様。」

そして身体と身体が繋がる。

「ああ、アンジェ。気持ちいい……」

「私も……あぁ……」

部屋の中に、私の甘い声が響き渡る。


ずっと、ずっとオラース様とこうしていたい。

私には、オラース様しかいないの。


そして終わった後、オラース様はこんな事を話した。

「そうだ。アンジェのお父様に、味方になって頂こう。」

「私のお父様に?」

私はオラース様を見た。

笑顔になっているオラース様を見ると、心が軽くなる。

「そうね。お父様だったら、オラース様の事きっと好きになってくれるわ。」

私は信じていた。

お父様がこの結婚を、後押ししてくれることを。


数日後。

実家のお父様から、手紙がやってきた。

「そんな!」

手紙の内容は、あまりいい内容ではなかった。


【深い関係になる程、愛し合っていると言っているが、無理矢理関係を迫られたのではないか?】

そう書かれていた。

【どちらにしても、深い関係になってしまった以上、そのオラース殿に娶って頂かなければ、他に嫁に出す事はできない。結婚は許そう。】

味方になってくれるどころか、仕方ないとまで想われてしまった。


「アンジェ、お父さんの、フェーネル公爵の返事は、どうだった?」

私は頭を横に振った。

「ダメだって?」

「ダメとは言っていないけれど……」

オラース様は、お父様からの手紙の返事を読んだ。

「仕方ないって感じだね。」

「そうなの。」

するとオラース様は、私の肩を叩いた。

「でも、反対ではないんだし。いいじゃないか。」

でもその笑顔は、少し歪んでいた。


「ごめんなさい。私、深い関係になっているって、余計な事書いたから。」

「本当の事なんだから、いいと思うよ。」

無理に笑顔を作っているオラース様を、見つめる事ができなかった。

そんな私を、オラース様も感じ取ってくれているみたい。

「アンジェ。言っただろ。誰が何と言おうと、僕はアンジェと一緒にいたいって。」

「うん。」

「その気持ちは、今も変わらないよ。」

そして私を抱きしめてくれたオラース様。

「私もです。私も、一緒にいたい。」

「同じ気持ちでよかった。」

「うん、そうだね。」

2人、同じ気持ちだって事が、胸をざわつかせる不安を拭った。


「お取込み中、ごめんなさい。」

急にオラース様の部屋に、コラリー様が入って来た。

「どうしたの?姉さん。」

「あのね。二人に言っておきたい事があって。」

コラリー様は、笑顔で私達を見ている。

「何?言いたい事って?」

「ふふふ。その様子だと、アンジェのご両親にも、あまりいい返事は貰えなかったみたいね。」

私とオラース様は、顔を見合わせた。

「でもね。二人共、私がいる事を忘れないで。」

コラリー様は、私達の手を握りしめた。

「私は二人の事、応援するわ。二人に、結婚してほしい。」

「姉さん!」

「コラリー様。」

コラリー様の笑顔を見ると、安心してくる。

「だから二人共、負けずに愛を貫くのよ。」

「ありがとう、姉さん。」

嬉しくなっているオラース様と、笑顔で私達を応援してくれるコラリー様を見ると、この姉弟がいかに仲がいいかよく分かる。

それを見ると、私も心が和んでくる。

「アンジェ。改めて言う。僕を信じてくれ。」


正直、オラース様だけだったら、本当に大丈夫かなって思ったけれど、コラリー様が味方なら、心強いわ。

「はい。一緒に頑張りましょう。」

「アンジェ、ありがとう。」

オラース様は、また私を抱きしめてくれた。

コラリー様の前だと、なんだか照れくさい。

「あー、アンジェが私の妹になるなんて、夢のようだわ。」

「姉さん、気が早いな。」

「あら、両親たちに許して貰えたなら、直ぐ結婚するんでしょ?」

コラリー様の言葉に、ドキドキしてきた。

「結婚かぁ~。」

2人の前で、私は1人ぽや~っと、空中を眺めていた。

「ここにも、気が早い人がいるわよ。」

「アンジェはいいんだよ。」

その時は、オラース様の部屋に、笑いが響き渡った。
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