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吉原二番手(三十五話)

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 吉原の客引きをしとる牛太郎は、女に研がれ過ぎた男じゃ。今はここで、やり手婆の男版みてえのをやっておるがのう。仲ようなってからは、女遍歴のこつをいろいろと聞かせてもろうたわ。

 オラ 「牛ちゃん、こん前ん時の花魁道中で、吉原三番手の姉さんのこつ聞かされたのう。先歩いてた一番の大御所、あん五十路はやり手婆から聞いたんだどもの。そんじゃ、二番手は四十路だそうだども、どげな女じゃ?」
 牛太郎「サワだ。あん女は、母性の塊よ。男は癒され過ぎて、子猫みてえになんだ。すけべ爺も、あん女の前では赤子に帰るっぺ。いつまでもしゃぶりついてて、離れねえんだ。やわ肉好きの男は、手が痛くなるまで、もみまくるんだな。何やっても受け入れてくれっから、荒くれどもはイノシシんなんど。羽目はずし過ぎて、ぎっくり腰なんのも出るっぺさ」
 オラ 「そりゃ、男泣かせどころじゃ、ねえなや。こん世で、本当の観音様に会えるってこつかいの。牛ちゃんや、銭がかかるんやろ。なんかええ手はねえろか?」
 牛太郎「あるべ。オレと同じ潮来の出だ。実は隠れてオレに会ってくれてるんだな。値が高くて、そんじょそこらん男には、手が出ねっぺよ。てるやん、話つけてもええど。駄賃はずんでくれっか?」
 オラ 「わかったわな、オラと牛ちゃん仲や、たのむぜよ」

 こん牛太郎は、酒飲みながら聞いたこつには、常陸は潮来の産じゃ。幸か不幸か、坂東女の色里、潮来遊郭で生まれ育った。女に目覚めるんも早かったし、数はこなすはで、どっぷり極楽に浸かってた。そんで、とろけるにとろけて、今はもう骨抜き男になってしもうたんや。なんやら、研がれ過ぎたってこつかいや。
 でもって、江戸に出てからは、客引きして渡世をおくっとる。牛ちゃんは、同郷のよしみで、吉原二番手と睦んでおるんやと。うらやましい話よのう。運のええ男もいるもんや。
 オラも運がええかも、牛ちゃん絡みで、お手合わせが出来るわい。さあ、腰がもつかいの。いよいよじゃ。

 サワ「あんた、牛ちゃんから話聞いたんやな。そうや、うちら潮来からや」
 オラ「そうとうの色里やて、オラ行ってみたくなったて」
 サワ「そこは水郷での、小舟に乗って村ん衆がたんとくるわ。江戸からは利根川渡って来る、みちのくからも、ぞろぞろや。人懐っこい娘衆が、きゃあきゃあしとるんよ。あとの、江戸や上方からの流れ女もいるでよ。訳あり女もしこたまや。あたりの若い衆は、ここで筆おろしやっての、女体めぐりを始める。旅人は、憂さ晴らし、垢落としをやるんやで。常陸の桃源郷や」
 オラ「さっそく行くて。居ても立っても居られなくなったて」
 サワ「はいな、男やったら、そこで土娘、みちのく娘、流れ女と遊んでこいや。そいと牛ちゃんのこつやけどな、女遊びが高じ、ああなっちまったんや。でも、そいもあり思う。女に研がれ過ぎて虚ろになんのも、ありやで。そんだけ女を知れば、男として惚けるんも、一理も二理もありや。ワテは、そんな牛ちゃんが愛おしくての、隠れて会っとるんやで」
 オラ「姉さんや、ようわかったわ。女に研がれるんは大事じゃが、兼ね合いがのう」
 サワ「まあ、ええわいの。話が長くなったわ。ここは、女と遊ぶとこや。あんたも、牛ちゃんみてえに、ワテの体で赤子に帰ったらええ。朝んなんまで、ワテを寝かせんでもええ、好きにしてのう……」



 オラも赤子に帰ったわ。
 乳繰りあって、とろけあって、一つんなった。さすがは、吉原二番手、ええ女や……
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