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潮来道中、女船頭のお世話に(三十六話)
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坂東の色里、潮来遊郭にさっそく行かねばなんね。オラん玉袋を、こん前に牛ちゃんと、サワ姉が刺激してくれたからのう。しばし江戸での打ち方やめで、温存じゃな。潮来までは、日本橋から松戸まで歩き、船ん乗り江戸川を関宿までのぼって。そんで、こんだ利根川をゆらゆら下るんやな。この際、遊郭だけでのうて、東国三社にも参ってこよう。
秋雨の十月、オラは佐原で船を降りて香取神宮にお参りをした。ここは、おごそかなとこで、姿形のええお宮さんじゃたわ。こっからは潮来は近いども、遊びより先にお宮参りや。そんで、また船ん乗り、小見川まで行って鯉の甘煮を味わったのう。対岸は息栖神社や、そこ行ったら鹿島神宮、晩には潮来遊郭や。
あらら、雨が強くなって来たなも、かなり濁った流れよのう。さすが坂東太郎、向こうまで川幅が広いわ。渡し舟が出るんやろうか、なんとか渡りてえもんよのう。いろんな小舟があっけど、みんな渋ってるの、どうしようかい。
ああ、あん女船頭が客を呼んでるやんけ、舟出すんやな。
オラ 「アネサ、対岸まで舟出せっけや?」
アネサ「ほかん舟は、川が荒れてて出さんどもの、ええよ、出すよ」
オラ 「危なくねえけ? オラは晩には潮来に泊まるんや」
アネサ「なあに大丈夫だ。長いこつ船頭やっとる、それに稼がねばなんね。旦那がどっかに消えての、子供はいねえども、糧がいるすけの。心配ねって。こん川、坂東太郎はワイの旦那みてえのもんや。ええとこ、あぶねえとこ、みんな良く知っとるわい」
オラ 「じゃ、向こうまでたのむわ。気い付けての」
アネサ「まさせんかい。おめさん一人やな。舟が出るっぞ」
秋雨で流れは早いは、幅は広いわで、そいに女船頭だしの。ほかん舟が渋って出せんから、仕方ねえなや。どうか無事に着かんとの。
アネサ「お客さん、東国三社参りやな。目の前ん息栖神社から鹿島やな」
オラ 「かっこつけた名目はそんだな。夜は別じゃ」
アネサ「ははっ、お宮参りの垢落としは、潮来遊郭が相場やの。固いのの次は、やわらこうて、ええとこへ行くんやな。ほんに、男はしょうがねえの、はははっ」
オラ 「んだな。遊郭めあてじゃよ。少のうとも、三人は喰わんと」
アネサ「そいは江戸から、はるばる来たんや、女に狂いなはれ。さあ、もう岸に着くで、揺れっから気付けや」
そん時、川に渦が巻いた。小舟は急に傾き出した。おいおいおい、泥水が入って来たぞい。揺れ過ぎじゃろ。こりゃ、やべえんじゃねか、やべえよ。
オラ 「アネサ、何とかしろって」
アネサ「えかや、かかんで舟にしがみ付け、立つんでねえど。おいっ、ワラにしがみ付くなって、動くなって、動くな」
オラ 「だめじゃ、沈むじゃ、アネサ、助けてくれて」
アネサ「ワラにくっつくなって、漕げねえじゃ。向こうさ行け、立って行くなって、立つなーー、ああっ、ひっくり返るーー」
わおぅ、オラが立ったせいで、舟はひっくり返り、アネサと川ん中。
幸い、二人は泳げるすけ岸までたどり着いた。泥だらけ。
アネサ「だけん、立つなゆうたやろ、舟ん中では、船頭しか立っちゃだめなんや。ああ、こげん泥だらけではいけん、ワラん家で水浴びしていけ」
オラ 「たびたび、悪いのう。そうさせてもらいま」
アネサ「そこや、近いで。あれっ荷物は?」
オラ 「荷物はもともとねえ、手ぶらで来たんや」
アネサ「何? 着替えなしかや」
オラ 「ふんどしは、毎夜に宿で洗って乾かし、朝にしめるんやけん」
アネサ「一枚しかねえのかや。しょうがねえ、ワラが洗うわな。水浴びしたら、帰ってくりょ。ああそっか、ふんどしがこれしかねえけ。しばらく乾かんの、晩に近くはなるしの、どうすっかな。おめえ、今晩のうちに潮来に着かんけんな。行くんけ?」
オラ 「遊郭がオラを待ってんだども、三人は味わんこつには」
アネサ「けけっ、三人じゃのうて、ワラを足して、四人味わえばええ。そもそも、ワラんお客さんや。こうなったいじょう、ワラはええで」
オラ 「今晩、泊めてくれるだけでのうて、のっかってもええんけ?」
アネサ「お客は大事にすんのや。二人して泥おとしたら、寝床で汗まみれになろうや。ワラは旦那が消えてってから、ずっーと男日照りやったわ。あんたさんの、若汁で潤してくらんしょ。お願いや……」
ああ、舟は転覆、オラは泥だらけ、潮来遊郭には着けず。
息栖神社の前の、利根川の女船頭のとこで、昼まで寝てたのう。
今日は、鹿島神宮を参ってから、必ず潮来遊郭や。ふんどしは、とうに乾いちょる。
秋雨の十月、オラは佐原で船を降りて香取神宮にお参りをした。ここは、おごそかなとこで、姿形のええお宮さんじゃたわ。こっからは潮来は近いども、遊びより先にお宮参りや。そんで、また船ん乗り、小見川まで行って鯉の甘煮を味わったのう。対岸は息栖神社や、そこ行ったら鹿島神宮、晩には潮来遊郭や。
あらら、雨が強くなって来たなも、かなり濁った流れよのう。さすが坂東太郎、向こうまで川幅が広いわ。渡し舟が出るんやろうか、なんとか渡りてえもんよのう。いろんな小舟があっけど、みんな渋ってるの、どうしようかい。
ああ、あん女船頭が客を呼んでるやんけ、舟出すんやな。
オラ 「アネサ、対岸まで舟出せっけや?」
アネサ「ほかん舟は、川が荒れてて出さんどもの、ええよ、出すよ」
オラ 「危なくねえけ? オラは晩には潮来に泊まるんや」
アネサ「なあに大丈夫だ。長いこつ船頭やっとる、それに稼がねばなんね。旦那がどっかに消えての、子供はいねえども、糧がいるすけの。心配ねって。こん川、坂東太郎はワイの旦那みてえのもんや。ええとこ、あぶねえとこ、みんな良く知っとるわい」
オラ 「じゃ、向こうまでたのむわ。気い付けての」
アネサ「まさせんかい。おめさん一人やな。舟が出るっぞ」
秋雨で流れは早いは、幅は広いわで、そいに女船頭だしの。ほかん舟が渋って出せんから、仕方ねえなや。どうか無事に着かんとの。
アネサ「お客さん、東国三社参りやな。目の前ん息栖神社から鹿島やな」
オラ 「かっこつけた名目はそんだな。夜は別じゃ」
アネサ「ははっ、お宮参りの垢落としは、潮来遊郭が相場やの。固いのの次は、やわらこうて、ええとこへ行くんやな。ほんに、男はしょうがねえの、はははっ」
オラ 「んだな。遊郭めあてじゃよ。少のうとも、三人は喰わんと」
アネサ「そいは江戸から、はるばる来たんや、女に狂いなはれ。さあ、もう岸に着くで、揺れっから気付けや」
そん時、川に渦が巻いた。小舟は急に傾き出した。おいおいおい、泥水が入って来たぞい。揺れ過ぎじゃろ。こりゃ、やべえんじゃねか、やべえよ。
オラ 「アネサ、何とかしろって」
アネサ「えかや、かかんで舟にしがみ付け、立つんでねえど。おいっ、ワラにしがみ付くなって、動くなって、動くな」
オラ 「だめじゃ、沈むじゃ、アネサ、助けてくれて」
アネサ「ワラにくっつくなって、漕げねえじゃ。向こうさ行け、立って行くなって、立つなーー、ああっ、ひっくり返るーー」
わおぅ、オラが立ったせいで、舟はひっくり返り、アネサと川ん中。
幸い、二人は泳げるすけ岸までたどり着いた。泥だらけ。
アネサ「だけん、立つなゆうたやろ、舟ん中では、船頭しか立っちゃだめなんや。ああ、こげん泥だらけではいけん、ワラん家で水浴びしていけ」
オラ 「たびたび、悪いのう。そうさせてもらいま」
アネサ「そこや、近いで。あれっ荷物は?」
オラ 「荷物はもともとねえ、手ぶらで来たんや」
アネサ「何? 着替えなしかや」
オラ 「ふんどしは、毎夜に宿で洗って乾かし、朝にしめるんやけん」
アネサ「一枚しかねえのかや。しょうがねえ、ワラが洗うわな。水浴びしたら、帰ってくりょ。ああそっか、ふんどしがこれしかねえけ。しばらく乾かんの、晩に近くはなるしの、どうすっかな。おめえ、今晩のうちに潮来に着かんけんな。行くんけ?」
オラ 「遊郭がオラを待ってんだども、三人は味わんこつには」
アネサ「けけっ、三人じゃのうて、ワラを足して、四人味わえばええ。そもそも、ワラんお客さんや。こうなったいじょう、ワラはええで」
オラ 「今晩、泊めてくれるだけでのうて、のっかってもええんけ?」
アネサ「お客は大事にすんのや。二人して泥おとしたら、寝床で汗まみれになろうや。ワラは旦那が消えてってから、ずっーと男日照りやったわ。あんたさんの、若汁で潤してくらんしょ。お願いや……」
ああ、舟は転覆、オラは泥だらけ、潮来遊郭には着けず。
息栖神社の前の、利根川の女船頭のとこで、昼まで寝てたのう。
今日は、鹿島神宮を参ってから、必ず潮来遊郭や。ふんどしは、とうに乾いちょる。
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