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雌犬品評会
しおりを挟む「毅のバカぁぁぁぁ」
涙目で布団にくるまる円香に、毅は土下座していた。
「いやっ、ほんっとに御免っ!!」
先程までの酷い蹂躙で彼女の腰は砕けていた。
もちろん比喩だが、重く鈍い痛みが腰にのし掛かり、中も外もズキズキする。
う~~~っと呻く円香を心配気に見つめ、毅は予め購入しておいた湯タンポを円香の腰周りに置いた。
「温かくした方が良いらしいから。あまり酷いようなら、ブギーマンに頼んでお医者様呼ぼうか」
「いやーーーっ!」
円香が顔を真っ赤にして拒絶するのを狙っていたかのように檻の扉が開く。
「はーいっ♪ 呼ばれましたかぁー? お医者様を連れて、ブギーマン、参・上っ!!」
何時もの派手な衣装の彼の後ろには、白衣の男性二人と黒服五人。
彼等はズカズカ部屋に入り、黒服らが円香を押さえつけて拘束する。
寝間着の前をはだけられて下着を脱がされ、円香はあれよあれよという間に医師らしき者の前で脚を大きく広げさせられていた。
まんぐり返しのような形に拘束され、彼女は絶叫する。
「きゃーーーっ! やだやだやだっ! 離してっ、あっち行ってぇぇええーーーっ!!」
その口も黒服の大きな手で塞がれ、身動き出来ない円香の秘処に器具を差し込み、医師達は黙々と診察していく。
唖然と事の行方を見ていた毅に、ブギーマンがにんまりとほくそ笑んだ。
「奴隷は大事な商品ですからね。無茶をしたと思った時には適切な処置をします。無料なんで御安心を」
変なところだけアフターケアが利いている。
カチャカチャと中をまさぐられて苦しそうな円香に駆け寄り、毅はその手を握った。
「苦しい? 嫌だよね? でも我慢して? 円香が壊れてたら、俺、泣くに泣けないから。ごめんね、俺のせいで」
握った手を額づけ、祈るように謝る毅を見て、円香はフルフルと小さく頭を振り、最奥まで器具を突っ込まれて治療されるおぞましさを必死に我慢して力を抜いた。
「ほぅ? 良い子だね。すぐに終わらせてあげるから」
身体から力が抜け、治療しやすくなった医師が微かに微笑む。
円香の中は細かい傷があったらしいが、重篤なモノはなく、安静にしていれば治るとの話に、毅はあからさまな安堵の息をついた。
そしてゾロゾロと出ていく医師らを見送り、未だソファーに座るブギーマンを見つめる。
「あんたは行かないのか?」
「ん~~? 彼等は次の奴隷らの処置もあるので。一応全員回るよう指示してあります。君らが無茶したんで気が気じゃなくてね。ついつい付いてきてしまっただけですよ、わたくし」
今回の賞金は二千二百万。プラス、リクエストの御布施で二千八百万。
合計五千万で、こちらの手取りは一千万。円香は完全に自分の身代金を稼いだ。
これで彼女は安心だ。胸を撫で下ろす毅を眺めつつ、ブギーマンは卑な笑みを浮かべる。
「初花を散らした翌日から一週間は休みになってましてね。明日奴隷達のレクリエーションがあります。強制参加です。要項はタブレットに送ってありますのでよく読んで参加してくださいね」
そう言い残し、ブギーマンは一礼して去ってゆく。
それを無言で見送り、毅は言われるままタブレットを確認した。
そこには雌犬鑑賞会の文字。
自分のパートナーを艶やかに着飾らせ、品評する会らしい。
……下品な。
しかし、これも観客に視聴され、投げ銭が期待出来ると書いてある。
円香を着飾らせるか。何が良いだろう?
この部屋のクローゼットにはオールシーズン系の普段着が入っていた。
汚れたら指定のボックスに投げ込み、洗濯されたモノが同じボックスに戻ってくる。シーツやタオルなんかも同様だ。
プレイルームの方には、拘束系の淫猥なレザーやゴム衣装。あるいはベビードールといった、まあ、それ系なモノばかり。
「どれもイマイチだな。.....そうだっ」
毅はカタログを手にして、衣装を探す。
「コレだ。明日までに用意出来るかな」
タブレットで注文してみたところ、朝イチにお届け可能とあり、毅は即座に注文した。
「毅ぃ.....」
ぐずぐずと鼻をすする円香に微笑み、毅は同じ布団に入ると彼女を優しく抱き締めた。
「ここにいるよ。絶対に円香を守るからね」
「うん」
ぎゅっと抱き締め合い、二人は深い眠りに落ちる。
目覚めたら夢だったなんて温い希望は三日で朽ち果てた。
今は石に噛りついてでも生き残る。それしか考えられない二人である。
「これはまた..... 悪趣味な」
目の前に並んだ十数個の檻。その中に並べられる女性達。
それぞれ凝らした服装だが、中にはストリップのようなあられもない格好の者もいて、毅は眼をすがめた。
服を着ている者も下着が見えるような短いスカートとか、マイクロビキニみたいに、ただ引っかけてあるだけのような布切ればかり。
まともに着ている者はいない。
扇情的な格好で観客を煽り、投げ銭を得るつもりなんだろうけど、毅には見るに堪えない醜悪さ。
仕切りのあるガラスケースみたいな鑑賞席に座らされた男性らは、やけに満足気である。
こちらは普通に服を着ていた。見たところ二十歳前後の者ばかり。毅らが最年少だろう。
次々と檻に入れられていく女性達が、最後の一人に眼を見張る。
最後の檻に入れられたのは円香。
品のよい薄紫の小紋に同色の半襟。足袋をはいた足には西陣織の草履。
髪には摘まみ細工の菊が飾られ、如何にも良家の御嬢様といった風情である。
首元から足先までぴっちりと隠すその姿に、一人の男性が吐き捨てるような口調で呟いた。
「はっ、色気も素っ気もねぇな」
その声につられ、鑑賞席から軽い嘲笑が湧く。
見たところ大学生みたいな男性だ。少しチャラい今時な感じが、毅を鼻白ませる。
「円香の肌を見るのは、俺と観客だけで良い。もったいない」
毅も負けずに呟いた。
その呟きに円香が頬に両手を当てて朱に染まる。
檻につけられた賞金メーターがいきなり回転を始め、他の男どもも驚嘆に眼を見開いた。
「なんでだっ? こんな小便臭いような小娘の七五三姿に、なんで御布施が来るんだよっ!」
「皆様、良い御趣味をしておられますねぇ。諸出しじゃあ、興醒めですものね?」
毅の台詞に、同意を示すような好意的な笑いが観客らから零れ落ちる。
そう、予想の範囲に過ぎないが、この観客らは、財産は言うに及ばず、地位も名誉も持つ者達だろう。
そういった者達が一番大切にするのが品格だ。如何にも慎ましく初々しいモノを暴き汚す。その行程が大事なのである。
股をおっぴろげて、誘われても何も愉しくない。
嫌がり、羞恥に身悶える者を巧みに言いなりにさせる。それこそが、調教の醍醐味だろう。
恥じらいもない女など、それこそ雌豚だ。恥じらいつつも身体を開く従順さ。そこに毅は、全身を歓喜に震わせるのである。
己のパートナーを、うっとりと見つめ、微笑む毅。
結局、品評会では毅らに七百万が入り、他は御愛想なのか、数十万ていどが入るに終わった。
着物一式と草履と髪飾りで二十万ほど飛んだが、その価値はあった。
手取り百四十万か。悪くない。
ほくそ笑む毅を睨み付ける周囲の男性陣。
仕切りがなくば、今頃飛びかかっていても可笑しくない殺気があたりに満ちていた。
するとそこへ参上したのはブギーマン。
女性らの檻の前に立ち、声高に挨拶する。
「ここからは奴隷の皆様だけの秘密の御話ですっ、心してお聞きくださいねっ♪」
一斉にブギーマンを見る男性陣。
「ここからパートナーの売買を解禁します。無論、タダではありませんよ? それ相応の料金はいただきます♪」
思わず固唾を呑んだ人々を一瞥し、ブギーマンは説明を始めた。
いわく、男性側が値段をつけ、女性が了承すれば売買は成立する。
「たとえば、この女性に誰かが五百万をつけたとします。そこでこの女性がOKをすれば値段つけた者の所有となるのです」
「そうなったら、男性はどうなるんだ? 一人ではゲームを続けられなくなるじゃないか」
「はい♪ なので救済措置もございます。この女性のパートナーが、つけられた値段以上をつけた場合、売買は成立せず、両方の提示した金額は主催に没収されます」
その説明で部屋の中の空気が、ざわりと蠢いた。
つまり、売買は賭けなのだ。カウンターを食らえば成立せず、無意味に所持金を失うだけ。
「馬鹿なっ! それじゃあ所持金の高いものが有利じゃないかっ!」
先程のチャラ男がブギーマンに噛みついた。
「んふー♪ だからパートナーとの関係が大切なんですねぇ。女性が了承しなければ無効なので♪」
ばっと女性らを見つめる男性陣。女性のうち数人はその真摯な眼差しから眼を背ける。
「最近、少し眼に余る男性方がおられますのでぇ。女性に救済措置ですねぇ。ただ、この場合、身代金の金額も人数分増えます。売買は慎重に考えて行ってくださいませね♪」
そうだ。二人なら二千万だが、三人になれば三千万。
しかも所持金が減るからゲームランキングの成績にも響く。
複雑な顔で考え込む毅の耳に、信じられない言葉が聞こえた。
「なら、このガキに売買だっ!! 七百万っ!!」
円香を指差して吠えたのは先程のチャラ男。
「若い女のが需要あるしなっ、コイツがトップで稼いでいるのも、この女のおかげだろうっ!」
ニタリと下卑た嗤いを溢す男に、毅の頭が沸騰した。
「ふざけるなっ! ならこちらは八百万だっ!!」
すかさずカウンターしようとする毅に、呆れたかのようなブギーマンの声が聞こえる。
「皆様、血気盛んですねぇ。まずは彼女の意見でしょう?」
.....そうだった。
情けない顔で振り返る毅に、円香も呆れ顔。
「んもぅ。私のパートナーは毅だけに決まってるじゃない」
「はい、即決~♪」
ブギーマンがにこやかに帽子を振る。
ヘナヘナと崩折れる毅を余所に、チャラ男が仕切りを殴り付けた。
「何でだよっ! そんなガキより、俺の方が逞しくてカッコいいだろうがっ!! 大人しく言う通りにしろっ!!」
「言う通りにしたら、速攻でカウンター食らいますよ。毅君、お金持ちですから♪」
「結局は金かよっ!!」
「はい♪ そういうゲームです♪ ついでに言いますと、貴方、七百万も出せませんからね。貴方がたの所持金のうち半分はパートナーのモノなので♪」
「なっ?!」
眼を見開く男性陣。
それに悪辣な嗤いで応え、ブギーマンは男どもを奈落に突き落とす。
「これより賞金を半分に分けて管理します。専用のタブレットも用意しますので、くれぐれも不正な事は行わないように。実は今まで部屋の中も監視していたんですよ」
何人かが、ぎょっと眼を剥いた。
「ふふん♪ お心当たり有りますでしょう? 特に毅君達♪」
そこでようやく賞金メーターの増額の理由に毅は思い当たった。
ずっと見られてたってかぁぁぁーーーっっ!!
「んふふふっ♪ 観客からクレームも来てましてね。パートナーを愛でない者を参加させるなと。雌犬は愛でて躾て可愛がるモノです。虐待するだけのサンドバッグではないのですよ? 皆様方」
いつも飄々としているブギーマンの眼が、ギラリと剣呑に輝いた。
その凄まじく冷たい眼差しに見据えられ、疚しい心当たりがあるらしい男どもは揃って凍りつく。
こうして鋭い一撃を食らい、ゲームは新たな展開を見せ始めた。
それが善いことなのか悪いことなのか、分からない毅である。
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