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世話焼き侍従と訳あり王子 第七章

2-2 心の整理あるいは無心のために

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 先月、苗を植え付けるために使った移植ゴテを、今回は株を掘り起こすために手に取る。

 別に、花がかわいそうだとか、そう言う傷つき方はしていない。エリオットにとって庭の植物はあくまで鑑賞物であって、人間と同じように痛みを感じるだとか、話しかけると成長が早いだとか、そんなファンタジー思想で付き合う相手ではないから。では、なにに落ち込んでいるのかと言えば、自覚しないまま管理がおろそかになっていたこと。さらには、それに気付けなかったことだ。

 バッシュが押しかけてきてからこちら、がらりと変わってしまった生活の中でも、自分はちゃんとやれていると思っていた。いくつもある問題は、いままでの日常に上積みされるだけで、根底の部分は揺らがないと。でも、それが強がりでしかなかったことを、こんな形で思い知らされたのが悔しい。
 無自覚に倒れたひとつの牌が次の牌を倒し、影響は次々と現れてくる。バッシュに怒鳴り、イェオリに無用な心配をかけた。

 イェオリのやつ、おれが身投げでもするんじゃないかって疑ってる顔だったもんな。

 さて、彼は実際のところ、バッシュに直接頼まれて部屋着のような格好で飛び出して来たのだろうか。それとも、侯爵に捕まったときのように侍従長を経由する正規ルートだったのか。

 いずれにせよバッシュは、爆発したエリオットを一晩放っておくと言う選択をしなかった。たぶん、勤務中で身動きが取れない自分に代わり、最良の人物を寄こしてくれた。ちょっと冷静に振り返ってみれば、一方的に電話を切ってからイェオリが玄関の鍵を回すまで、三十分もなかったと思う。ここまでの即対応は以前、冷静になるのを待とうとして王宮に突撃された教訓かもしれない。

 寝不足で気力が尽きてなきゃ、たしかに一晩ヘインズの屋敷に逃げ込むくらいしたかも。

 ワンパターンな自分の行動に自分で笑いながら、エリオットは花壇の脇にしゃがみ込んだ。首を伸ばし、地面を覆うビオラとパンジーの葉に白い粉が付着している株と、そうでない株の境界線を慎重に観察する。
 幸運にも、病気はまだ広がっていなかった。り患している株と周りの数本を抜いてしまえば、土の消毒までは必要なさそうだ。

 エリオットは吟味して掘り起こした株を、土がついたまま準備したビニール袋に入れて口を縛る。コンポスターに入れたら、その中で病気が広がって堆肥になるどころではなくなってしまうから、こいつはリサイクルではなく破棄だ。

 コニファーのほうは、処分保留にした。剪定をして高さを調整しているが、こんもりした木はエリオットの身長を頭ひとつ分くらい越えている。伐採するのも枝を落として細かくするのも、それなりの時間がいりそうだから、準備が整うまで持ち越しだ。

 ぼこぼことした土をならすと、花壇は花の中にいびつな穴が開いたようになる。見上げた晴天とはうらはらに、エリオットの心にも、同じだけぽっかり隙間ができたように感じた。
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