箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

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世話焼き侍従と訳あり王子 第七章

3-1 衣装合わせ

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 二度目となるブランシェールとの打ち合わせは、身ぐるみをはがされるところから始まった。

 ずいぶん気合が入っているようで、エリオットが約束の時間にハウスへやって来たときには、色付きめがねをかけたデザイナーと、その尻を叩く関係にあるお針子はすでに書斎で待ち構えていた。

 挨拶も早々に、エリオットは新しい衣装を抱えたお針子――メルと言ったか――によって、着替えのスペースに追い込まれる。わざわざついたてを運び入れて書斎のすみに作った簡易更衣室には、靴も脱げるように小さなラグと、脱いだスーツを放り込んでおくカゴまで用意されていた。

「お手伝いは必要でしょうか」

 エリオットに押し付けられたビニールの衣装袋を見て、イェオリがお針子へ尋ねる。

「いえ。ご希望通り、おひとりでも着られるように作らせていただいております」

 助かった。花嫁のウェディングドレスみたいに後ろにファスナーがあるとか、ボタンがあるとかだったらどうしようかと思った。

「モデルは違うわ、デザインからやり直しだわ、注文の多いお客さまですよ」
「こちらの手違いで大変なご迷惑をおかけし、申し訳ございません」
「おかげで、久しぶりに腕の鳴る仕事でしたけど」

 接客をお針子に任せ、優雅にお茶を楽しんでいたブランシェールが嫌味にしては楽しそうに言い、渉外担当のベイカーが穏やかに受け流す。そのようすからは、一度目からきょうまでに彼らが何度か打ち合わせを重ねていたことがうかがえた。侍従が手を出さなくても着られるようにと言う希望も、ベイカーから出されたものだろう。

「さぁ公爵、本番までに調整して縫製と刺しゅうをしなきゃなりません」

 白い仕立てのシャツにペイズリー柄のスカーフを巻き、涼しげな五分袖のノーカラージャケットをいかにも芸術家っぽく着こなしたブランシェールが、まだついたての前に立っているエリオットを見て指を鳴らす。

「のんびりしている時間はありませんよ。早くわたしの作品を着て見せてください」
「……はい」

 専門家には逆らわないのが吉だ。エリオットは衣装袋を手に、ついたての裏へ回る。
 がさがさとかさばる袋を開け、やたらと布の多い衣装を引っ張り出したエリオットは、既視感のある色と形に困惑した。

「あの、サー・ブランシェール……」

 ついたてから頭だけ出して、デザイナーを呼ぶ。

「なにか?」
「これ、大丈夫なのか? いろいろと」
「もちろん。デザイン画の時点で許可は取ってあります。なんの問題もありません」
「えー……」

 エリオットが視線を向けると、ベイカーも力強くうなずいた。

「わたくしのほうでも、各方面に確認をしておりますので、ご安心を」

 事前に知ってたなら、それとなく予告しておいてくれよ。
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