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新たなる始まり

第292話-ヤンの任務-

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「まぁなんでもいいから、ついてこい」

 有無を言わさずにヤンは私たちを引っ張って町の中を進んでいく。ただし、表は通らずに、裏道を進んで人目を避けている様に思えた。
 辿り着いたのは一軒の宿。あまり綺麗とは言えない趣のある建物には今にも落ちそうな看板がここが宿であることをアピールしていた。
 中に入るとヤンは店主に目配せして私たちと奥の部屋へと足を踏み入れた。
 シンプルな部屋の中には二人分のベッドがあって、中央には小さなテーブルがある。

「そこ座れ」

 さっき同様にこっちの意見などお構いなしと言った様子で私たちをベッドに座らせた。

「急にどうされたんですか?」

 この場の事を聞いたのはユリィだった。
 怒る様子もなく、淡々とこの状況を聞いた。

「あんたに聞きたい事がある」

 飄々とした声色ではなく、問い詰めるような圧迫感のある雰囲気が伝わってくる。
 それを私でも感じ取れるくらいで。ただ、視線はユリィの方に向けられていた。
 ユリィもヤンの放つ圧迫感を浴びたせいか細い首が少し動いた、彼女が唾を飲み込んだのが分かった。

「何でしょうか」

 それでも毅然とした態度でヤンに返す。

「あんた何でソボール領の人間を巻き込もうとした?」
「フランソワ様なら力になってくれると思いました」

 怖気付く事なくユリィは答えた。

「仮にだ、領主が良くても領民が反対する事は考えたか?」
「考えたことはあります。それでも説得すれば、少しでも、少しずつでも賛成が貰えると私は思ってフランソワ様を頼ったんです」
「そしたらよ、あんたが来る事で領主の評判が、今までの信用が崩れるとは考えなかったか?」

 その問いにユリィは詰まった。

「私が……?」

 想定外の事だったと言った感じで言葉を捻り出している様に見えた。
 さっきまでの毅然とした態度は消えていた。見えるのは焦りだった。

「あんたが二回も押しかけた事で領主が反魔法派なんじゃないかって言われ出してる」
「そんな事はありません!」
「事実なんだよ」

 反魔法派。言葉だけなら魔法を嫌う人たちの事だろう。憶測だけど。
 どんなものにもアンチはいる。私は少なくともそう思っている。この世界でも例外ではないらしい。

「それが広がったら今までの苦労が水の泡になるよな」

 確かに言葉の通りなら領主の信頼は落ちてしまう。この世界は魔法で生活が豊かになった、それを手放してしまうとなれば、領民は反発するに違いない。そんなの私でも分かる。

「だから俺は領主の命令でここに来た」
「命令とは?」
「あんたを……殺せってよ」




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