女装と復讐は街の華

女装と復讐 -街華編-

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…時刻は午前10時30分を過ぎた。いつもの僕らなら、もう瀬ヶ池へ出掛けてる時間なのに…。
アンナさんはまだ電話中。《おばタク》に電話さえも、まだできてない。


『…分かったわ…うん…それは仕方ないもの。うん…うん…そうね。じゃあ…ありがとう。ナオ…』


あ、やっとナオさんとの電話が終わったみたいだ。
ノートパソコンで《カラフル》をチェックしていた僕と詩織は、アンナさんをじっと見た。


『金魚、詩織…』

『はい』
『どうだったの？』


アンナさんは苦虫を軽く噛んだような表情を見せる。


『今日の視察員情報…全く、何も分からないらしいの。何も…』

『えっ？』
『どういうことなの？』


ナオさんの妹さんが意地悪をして、視察員…鵜鷹目の情報を教えてくれない…ってことじゃない。

出没場所も…その時刻も…今日の鵜鷹目が誰なのかも…ほんとに《何も情報が入ってこない》《全く分からない》ってらしい。


『アンナさん。じゃあ…私たち、どうしたらいいの？』

『うん。だけど２人には、瀬ヶ池には行ってもらうわ』


鵜鷹目の情報がないから…って、確かにそんな理由だけで《今日は瀬ヶ池には行かない！》なんてわけにはいかない。

でも…今日はなんか雰囲気が…ってゆうか、いつもの感じと何かが違う…気がする。なんだろう…。

…よく解らない、変な胸騒ぎ…。


『…金魚？』

『？』


僕はふと我に返って、振り向いて詩織を見た。


『金魚…凄く不安気な顔をしてる…』

『えっ！？そ、そう…かなぁ…』


僕の顔を心配そうに見ている、今の詩織のほうが不安気だ…って僕からは見える。


『なによもーぉ。金魚！大丈夫だってばぁ！今日は記念すべき《自分メイク》のデビューの日でしょ！』

『あ、うん。そうだった』


一転して、急に明るい笑顔に変わる詩織。

いつも敏感に何かを僕から感じ取ると、詩織はこうやって必ず僕を気遣って、元気付けようとしてくれるんだ。

時々、結構キツいことを僕に言ったりするけど、本当はこんなにも優しい…優しさのある詩織。


『今日がダメでも《G.F.》デビューのチャンスはまだまだあるんだし…時間もね。安心なさい』


…そう言ってニコニコ笑顔のまま、僕の頭をぽんぽんぽんぽんする詩織…。


『…。』






『ちょっと！金魚！詩織！大変よ！！』

『？』
『えっ…何！？』


iPhoneを左手にぎゅっと握り締め、僕らの目の前で、独り慌てふためいているアンナさん…？