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第6話 無事の帰還

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 森を歩いて3時間ほど。それなりに結構を倒した。
 といっても一分に一度遭遇するような高密度ではなく、だいたいは5分、10分に一度遭遇するぐらいだったが。

 全てのモンスターが一撃、ないしは二撃で葬れるので、戦闘時間は大したことはない。
 どっちかと言えば歩く時間の方が多い

 だがその分、いくつか考えごとも出来たがそれはさておき。

「3時間……ちょうど良いし一回帰るか」

 それなりにモンスターも狩れたし、一度ここらへんで帰還することにする。
 レベルも、つい先程3に達したところだ。
 ここでももう1つ積めるが、また次回で良いだろう。

──────────────────
名前:高杉謙信
レベル:3
職業:剣士
スキル
 《剣術Lv.1》
 《斧術Lv.1》
 《学習効率Lv.3》
 《写身》
──────────────────


 ついでに、《剣術》と《斧術》がそれぞれ生えてきた。
おそらくそれぞれの武器を使ってモンスターを倒したのが経験値となったのだろう。

「スキルのレベルごとの性能はどんな感じなんだ? 後で調べてみるか」

 俺が少し使っただけで生えてきたことを考えると、レベル1は本当に大したことが無いものなんだろう。

「次は《写身》の実験してみるか」

 戦力の確認は基本事項だが、まずは冒険というものをやってみたかったので後回しにしていたのだ。

 今日は切り上げることにしたので、一度道のある場所まで戻って、そこから道を辿って森を歩く。
 地図があることで現在地がわかるものの、既に開拓されたエリアゆえか普通に道があるので結局地図はほとんど開いていない。

「次は《写身》で道の終点まで走ってみるか?」

 そんな考えをしつつ、俺はゲートへと向かった。
 
 森の浅いところへ行くと、人間の集団とすれ違った。
 大体15人ほどか? 
 男女問わず若い、あるいは幼く見える者3~4人に対して1人の割合で大人が混じっている。
 中学生、高校生とその引率の冒険者といったところか。

 モンスターが弱いエリアとはいえ。
 いや弱いエリアだからこそ、学生に冒険者というものを体験させるのに向いているのかもしれない。
 
 俺はそのまま森を出てゲートをくぐってギルドに帰還し、先日同様ロビーに向かう。あいも変わらず閑散として人気がない。
 夕方になれば学生や仕事帰りの人が増えたりするのだろうか。

「フロンティアから戻ってきたんですけど、アイテムってここで預けるんですよね?」
「はい。一度預かってこちらで確認をした後、持ち帰るか売却するか選んでもらいます。次回以降の冒険に使うもので持ち帰れないものはギルド預かりにすることも出来ますよ」
「じゃあ、取り敢えず武器を」
「はい、お預かりします」

 まずは腰に吊っていた剣と斧を預ける。裏に倉庫があるらしく、坂井さんがそっちへ運んでいった。

 今更だが、俺坂井さんともうひとりの藤澤さん以外でここの職員見たこと無いな。

「それでは次はアイテムですね。並べてくださってありがとうございます」

 裏に坂井さんが行っている間に、持って帰ったアイテムを並べておいたのだ。

「初めてにしては多いですね」
「そうなんですか?」
「はい。初めての方は大抵戦うことの経験もない方が多いので。1、2度戦ったら疲れてしまうという方も多いんです」

 それは確かにあるかもしれない。いくら相手が弱い、楽に勝てるモンスターばかりとはいえ、冒険者でもない日本人は大抵武器を動物や人を傷つけるという経験はない。
 初めての戦闘で、武器を振って生物を傷つけるという行為に緊張し、高揚し、大きな疲労感を感じる人が多いのだろう。

 知識としてそれはわかるが、じゃあ自分がそう感じるかというとそういうわけでもないのだが。

「あ、ちなみに聞いておきたいんですけど」
「はい?」
「新人の冒険者の人って、あそこのモンスターでも苦労したりしますか?」

 ネットで細かく調べていないので、そういう世間一般的な常識が気になる。

「そう、ですね。本当に人によるとしか。早い人はそれこそ最初から一撃で倒せますけど、慣れていない人はまず武器を振る、相手を殴る、というところから始まるので……倒せないことは無いですが、時間がかかる人はかかると思います。高杉様はどうだったんですか?」
「大体一撃か二撃ですかね。一応剣道やってたこともありますし、友人に教えてもらってるので」

 『腰が入っとらん!』『腕じゃない、身体で振らんか!』
 たった一週間のしごきだったがどれほど聞いたことか。

「初めてでそれなら、とても素晴らしいです」
「ありがとうございます」

 そう言われると照れる。が、まあそれなりにいる部類だろう。
 あそこのモンスターなら、それこそヤンキーが金属バットでぶん殴れば普通に倒せるレベルなのだ。

「はい、確認が終わりました。特に問題のあるアイテムはありませんね。持ち帰りと売却、どうされますか?」
「それぞれどんなアイテムかとか、値段とか聞けたりします? それとここで売却するのと他所で売るのって、どっちが得なんですかね」

 俺がそう言うと、少々お待ち下さいと坂井さんは一度奥に消えて、その後資料を持ってやってきた。

「一応こちら公開されているものですが、《モンシャスの古代遺跡》までにドロップが確認されているアイテムで、かつ値段が一定となっているものです」

 数枚の資料には、写真とアイテム名、簡単な説明に値段が記載されている。

「まずはこの薬草ですね。これは1つ400円です。そしてこの色違いが眠り草。こっちは600円です。後はこの岩の塊、異なる鉄で『異鉄』って名前つけられてます。これが一塊200円。ここまでが今確認されているスライムからのドロップ品です。眠り草は特にレアですね。異鉄もドロップはレアではあるんですが、こっちは普通に採掘出来るので値段が低いです」

 レアドロップもあるのか。
 取り敢えずスライムはレアドロ含めてコンプリートだな。

「次にゴブリンですね。ゴブリンも薬草、異鉄と、そしてナイフですね。薬草と異鉄はスライムと同じ値段で、ナイフは700円です。
 そしてこれはウルフの爪ですね。ウルフのドロップは少々特殊で、爪と牙どちらかが複数ドロップします。今回は爪なので、個数掛ける400円、7個あるので2800円ですね。牙なら個数掛ける500円でした」
「ウルフだけ高くないですか?」
「その代わり遭遇数が少なかったんじゃないですか? ウルフはスライムやゴブリンと比較して遭遇しづらいですから。ちなみにウルフは何体倒しました?」
「1体しか遭遇しなかったですね。レアだからかな」
「それぐらいの遭遇頻度が低いですから。それに、1体から7個爪がドロップしたのはかなり幸運ですよ。ある程度調べられてますが、大抵2~4個です。牙も似たようなものですしね」
 
 なるほど、それならウルフ1体の討伐で1000~2000円に落ち着くのか。
 
 それでも普通にバイトするよりはかなり高い。そりゃあ多少やる気のある人はみな冒険者に手を出すよな。
 
「全部で18700円です。一応ギルド職員目線で言うと、《始まりの森》で4時間の活動で18700円は普通より少し多い程度ですね。量を見ればもう少し高くてもおかしくないのですが、異鉄が多いのでその分減ってますね」

 なるほど、そんなものなのか。

「それと、アイテムの売却に関していくつか説明をしますね」
「あ、はい」
「まずアイテムをギルドで売却するか、他所のショップで売却するかどちらが得かという質問ですが、基本的にはギルドと他所のショップでの買取価格は変わりません。変わっても10円とかですね。ですので、ギルドでそのまま売却したほうが楽です。
 ただ、一部価格が一定ではない非常に珍しいアイテムがあります。例をあげるとすれば、回復ポーションとかアイテムバッグの元になるオーブなどですね。これらは希少なので値段が変動しやすく、また買取も高価です。ギルドもしっかりと評価をして購入していますが、ショップによってはギルドより高いといった場合もあるにはあります。ギルドの方が高いということも普通にあるので一概には言えないんですけどね」

 レアアイテムを引き当てない限りは、ギルドで売り続けて問題はない、ってことか。
 まあ《始まりの森》でレアアイテムは出ないだろうが、高価なアイテム一覧など調べておこう。

「他にも、フロンティアのアイテムを売買するオークションもあります。ギルドに申請していただければ出品が出来ます。回復ポーションやアイテムバッグなどは、こちらで出品した方が高値になる場合もあります」
「オークションですか。武器なんかも売ってたりします?」
「はい。数打ち品ではない刀工の手によるものや、フロンティアでドロップした性能の良い魔法杖や防具、武器などはオークションに出品されることが多いです」
「……後で調べてみます」
「はい、収入のためにもある程度の知識を蓄えておくことをおすすめします」

 何だよ魔法ジョウ。錠剤か? 何かバフのかかる薬だったりするんだろうか。

「さて、アイテム売却の話に関連して、後2点ほどあります」
「お願いします」
「まず、アイテムの鑑定方法についてです」

 鑑定、というと、どのアイテムがどれか、といった判断のことだろうか。

「通常アイテムの確認には《鑑定眼》というスキルが必要です。大きなギルドにはこれを持った者が大抵います。ですので、希少なアイテムなどでも問題無く確認できます。ですが、この支部には私を含めて《鑑定眼》持ちの職員がいません。そのため、例えば今回高杉様が獲得した薬草が、ただの薬草ではなく効能の高い上位種であっても、私達では判断できません」
「そういう可能性がある、ってことですか?」
「現在のところ、《始まりの森》、《ガラックの岩場》、《モーリシャスの古代遺跡》については、通常ドロップ、採集されるアイテムは全て確認されており、また統計の結果特殊なドロップは確認されていません」 

 なら別に気にしなくても良いか?
 アイテムの鑑定が出来ない、すなわち高く売れるアイテムを安く買い取られる可能性があるかとおもったが、そうでもないのか。

「少なくとも《アーシャンの陸珊瑚》まで進むまでは大丈夫ですが、お伝えするように決まっているので伝えさせていただきました」
「そこまで進んだらどうしたら良いんですかね?」
「ギルドの方でも、ドロップアイテムや採取されたアイテムを記録し画像などで判別出来るように進めてはいるので、ほとんどは大丈夫でしょう。ただ万一ということもあります。気になるようでしたら、申し訳ありませんが、より大きなギルドに移っていただく他ないですね。うちではどうしようもないですから」

 小さな地方ギルドの弱さ、か。《鑑定眼》スキルを持ってる人はそれなりに希少なのだろう。
 結果、大きなギルドに高待遇で引っ張られて小さなギルドにまで回らないといったところか。

「わかりました。考えておきます」
「ありがとうございます。それでは最後に、アイテムの買取価格に関してです」
「はい」
「まず、本日の高杉様のアイテムの査定ですが、通常の倍以上の価格となっています」
「倍ですか」

 18700円で倍ってことは、戻せば9000円? 
 でも半日で9000円なら、それはそれで十分美味しいような気もする。

「これは、レベルが4に到達するまでの、新人冒険者への手当となっています」
「ああ、そういう。新人を捕まえておくために最初の報酬を良くしてるんですか」
「そこまであけすけに公表しているわけではありませんが、概ねそうです。おそらく体感されたと思いますが、《始まりの森》でアイテムを得るのは非常に楽ですし、安全です。そこで稼いだアイテムがそれほど高価になるわけもない、ということですね。高杉様は次回冒険でレベル4になると思いますが、レベル4になる前に入った冒険まで適応されますので、次回も今回と同じ査定となります」

 まあ、せやろな。あんな楽に普通に企業づとめするより良い金が入るなら本当に全員冒険者になるだろう。
 そうではないから、普通の職業につく人もたくさんいるのだ。

「それじゃあ次も《始まりの森》で、その次から次のエリアに行った方が良いんですかね?」
「次のエリアからは命の危険が大きくなるので、複数人のパーティーで、というのを推奨していますが……ここには人がいませんからね」
「ですねえ。俺も知り合いにあては無いですし。まあぼちぼちやりますよ」

 坂井さんにお礼を言って、受付を離れる。
 さーてこの後はどうしようかねえ。まずはギルドでシャワー浴びて私服に着替えて。

 またおじじの所行くか。
 


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