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第7話 武を捧げる器

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「おお、帰ったか。どうやった?」
「おう、おじじ。まあ、ぼちぼち? 相手が弱いわ」

 おじじのところに行く前に、せっかくなので今日の稼ぎで何か買っていこうかと思い、日本酒を一升瓶で2本ほど、近所の酒蔵で買ってきた。
 良い肉にしようかと思ったけど、おじじ猟師やってるから大抵肉が既にあるんだよな。

 おじじに一升瓶を渡した後、まだ夕方になったばかりのなので、揚げたじゃがいもをつまみつつ俺の初めてのフロンティア冒険の反省会をする。
 それなりに仲良くしているとはいえ、他人の反省会に付き合ってくれるおじじは、やっぱりなんだかんだ言いつつ優しい。

「じゃろうな。最初んとこは弱いのばっかじゃったからのお」

 そして俺の感想を聞いてからのおじじの言葉がこれである。
 おじじのしごきの方が遥かに凶悪だし命の危険を感じたわ。

「おじじってさ、フロンティアでなんの武器使ってたの?」
「ん? わしか?」
「おじじの話聞いてなかったなって思って」

 多分おじじのしごきを考えると、冒険者としてそれなりに強かったんだろうし。
 今丁度自分の武器をどうするかで悩んでいるので、先輩冒険者としてのおじじの話が聞いてみたい。
 もちろん後でインターネットでも他の冒険者や高ランク勢の情報を調べてみるつもりではある。

 今のところ俺の武器や戦闘に関する知識は、昔趣味で調べた中世の戦争とかファンタジーの知識ばっかりで、実際にどういうのが多いのか気になるのである。

「昔の思い出を話すつもりはないぞ」
「そうなん?」
「あれは……わしのもんだからな」

 そう言うおじじは、どこか遠い所を見るような目をする。
 それで、このひとは確かに、フロンティアに真剣に向き合ってきた人なんだなというのが感じられた。

「だがまあ、武器ぐらいは話してもええか」
「うん、そういう思い出じゃなくて技術みたいなやつが聞きたい」

 おじじの思い出はおじじの思い出。俺はこれから自分で思い出を積み上げてくわけだからね。

「わしは刀を使っとった。本差と脇差の2本じゃ」
「刀って、日本刀? それとも外国の?」
「なんじゃお前、詳しいんか」
「知識がちょっとあるだけ。何がどんな使い心地か知りたいから、詳しく教えてくんろ」

 厨二病だったからね。どんな武器があるかとか、世界中の武器とか調べたことは普通にある。
 日本刀に近い形の刀でも、中国や中東なんかで湾曲した形状の刀は普通に使われている。
 ちなみに刀の定義は片刃の剣なので、直刀も湾刀も全部刀である。

「日本刀じゃ。良い斬れ味でなあ。ずっと使っとったわ」
「日本刀か、なるほどなあ」
 
 ベタだが、技術が伴うならありだよな。
 というか純粋に斬るという点においては、多分直剣とかより軽いし強いんじゃないだろうか。
 
 俺の買った5万の直剣を考えると結構重たかったし、日本刀の方が振りやすくはありそうだ。
 まあそもそも武器種として日本刀の方が全体的に軽量なので取り回しという点においては優れているのだが。

「なんじゃ、お前さんも日本刀使ってみるんか」
「武器何にしようかと思ってて。色々知っておきたいと思ってな」
「今は何使っとるんや?」

 俺は、自分が一番安かった直剣と林業で使っていた斧を持ち込んでいるが、しっくりくるかどうかもまだわからないと答えた。

「そんで? お前さんのことだからなんか考えとるんじゃろ?」
「なんでわかんの?」
「何するにも『なんでじゃー』『どしてそうなるんじゃー』言うとったやろうが」

 はい、俺の癖ですね。何するにしても原理とかその理屈とかが気になってしまうのだ。
 特に動物の捌き方とか皮の扱い方とか炭の焼き方とか。
 いろんな場面でおじじに教えてもらい、その中で疑問を投げかけ続けていた。

「まず、メインの武器をどうするかってのもあるけど、サブをどうしようかと思って」
「脇差みたいなもんか?」
「かなあ……今日俺、ウルフに噛みつかれたんだよな。反応が遅れたのもあったけど、片手を噛まれてて懐まで入り込まれててさ。剣を腰から引き抜けなかった」

 あのときは咄嗟に対応したものの、後で考えて肝が冷えた。
 剣は近接攻撃なんて言われるが、間合いを測って戦う武器であるのだ。

 完全に密着されたときに、剣は全く役に立たない。

「そんで、どうしたんじゃ?」
「左手で腰から斧抜いてそれで倒した」

 腰後ろからすっと取り出せる斧の方が、鞘から引き抜かなければいけない剣よりは速かった。

「でも斧だろ? まず今使ってる斧が林業用で刃渡りが小さいから、もう少し同じ大きさだけど刃渡りがでかいやつが良いかなと思ってる」
「続けい」
「後はサブ武器の役割だな。俺の理想としては、両手とも咄嗟に引き抜けるようにしたい。そう考えると、腰の後ろってのはまずリュックがあるから駄目だし」

 左手は斧を抜けたとして、あのとき左手に噛みつかれていたら?
 右手では腰の後ろにつけていた斧の向きからして使えないし、片手で剣を抜くのは難しい。

「リュックは当面持ち歩くことになるから、それなら、こう太ももの横につる感じはどうかなとか。後はそういう使い方をするなら、斧じゃなくてサバイバルナイフとか鉈とかの方が使いやすいのかなとも思ってる」

 正面から戦うなら剣や日本刀でも良いのだ。
 だが今日のように、不意打ちや不意の遭遇などまたあるかもしれない。
 そう考えたときにより対応力の高い殺傷能力を持っておきたい。

「それも1つの手ではあるな」
「おじじはどうしてた?」
「わしは勘が鋭かったからの。刀の間合いの中に踏み込ませたことはない。組み付かれたときは蹴っ飛ばしとったかのお」

 やはり間合いの管理か。アニメとかでも鍔迫り合いから押しのけて距離取るとかあるけど。

「よし。ちょうどええ、わしが付き合うたるわ」
「ん? 何に?」
「わしは刀が一番得意だっただけで、何でも使えたからの。何がお前さんに向いとるか一緒に探したる。外出て待っとれ」

 そう言っておじじは家の奥に行ってしまった。
 また訓練をすることはわかったので、俺も水筒に水を汲んでから外に出て待つ。

 しばらくして、色んなものを抱えておじじが出てきた。

「どうだ。わしが今日作った木製の武器じゃ」

 木刀だけでなく、木剣に木槍、木斧。剣や刀にはそれぞれいくつかの長さ、大きさのものがあり、長物も槍だけでなく薙刀もある。

「これ全部今日作ったの?」
「前からちょこちょこじゃ。これで、ちくとわしが武器の振り方を見せたる。その後はわしと手合わせじゃ」
「い、ええ?」
「安心せい、怪我はさせんわい」

 

 

******



 その後1時間ほどかけて、おじじが全ての武器を振ってみせてくれた。
 想像はしていたが、おじじの強さ、そして技術はとんでもないということがわかった。

 剣先が本気で見えない。突き出す槍が一撃かと思ったら、ボボッと空気の音と同時に2発突き出されていたり。
 振り回しているはずの薙刀が踊るように手元に綺麗な位置に戻ってきたり。

 そしてそんなおじじと、俺は打ち合いをすることになった。

「お前さんの思うようにやってみい」
「まじでえ?」

 そう言いつつ、俺も木の武器を手にする。
 抜き身の剣を手に持ち、腰の後ろにはホルスターで斧を一本吊った。
 
「よし、準備出来た」

対面では、3メートルほどの距離を開けておじじが木刀を片手に立っている。 

「ほい、いつでもかかってこいや」
「んじゃ遠慮なく……!」

 ガンダッシュで距離を詰めて剣を振る。
 剣を軽く前に下げどこから来ても対応出来るようにしつつ、そして振り抜くのも冗談ではなく正面からになるように。

 まあ当然のように受け止められたが。

「ほれ、もっとこんかい」
「ふんっ!」

 一歩足を引くと同時に剣を引き、側面に回るように仕掛ける。

「んぎっ!?」
「反撃もあるぞ」

 直線でおじじの木刀が目の前を掠めていって攻撃を中断した。

 いや今嫌な予感がして踏み込み浅くしなかったら顔いってたよな!?
 おじじはそこまで織り込んでの今の攻撃か!?

 その後もあちこちから打ち込むが、全て受けられ、受け流され、しまいには軽く弾き返されて俺ばかり体勢を崩してしまう。

「やっぱ剣じゃきついな!」
「あほう」

 おじじが何か言っているが、テンションの上がっている俺には聞こえない。
 今は少し、この戦いに集中させてくれ。

 再度突っ込んで剣を振り上げる。
 そして今度は、まだ剣の間合いには一歩遠い距離感で剣をぶん投げる。

 そして上から圧をかけるように、腰から斧を抜きつつおじじに飛びかかった。

「ほう!」
「打ち合うかよ……!」

 振り下ろすふりをした斧を迎え撃つように振り上げられた刀を辛うじて躱して、いや肩は持ってかれた気がするが。
 その手首を掴み、左手の斧を振り上げる。

「甘いのお」

 しかしその斧は振り下ろせなかった。

 掴んでいたおじじの手首がひねられて、俺の手を軽く外し。そのままもう刀どころか拳ですら近すぎる間合いに入っていたのに、次の瞬間には頭にコツンと軽い衝撃が加えられて。
 おじじは俺から5メートルは離れた場所に立っていた。

「ええー……?」
「かっかっかっ、まだまだじゃのお」

 いや、今瞬間移動しなかった?
 
「間合いのうちに入ったらいけるかと思ったんだけどな」

 俺が今日ウルフにやられたことをそのままやってやろうと思った。
 刀を振るには近すぎる距離で、こちらは短い獲物を振る。

「簡単な話じゃ」
「ん?」
「全て想定してこその剣術。それだけの話じゃよ」

 おじじのその一言で、なぜわざわざおじじがこういう立ち会いをしたのかわかってしまった。

 懐に入られては使えないのが刀、剣ならば、『懐に入らせない』戦い方も、『間合いを保つ』戦い方も剣術である。

「……俺もサブ武器とか考えんほうが良いかな」
「それは違うじゃろ」

 綺麗に真上に弾かれて俺の真横に落ちてきた木剣を拾いならつぶやくと、おじじから否定の言葉が飛んできた。

「極めた1の隣に支える2と3を添えるのはええ。わしもそうする。だが、1を極めぬままに2と3で補って満足するっちゅうのは浅い話じゃ」
「……なるほどねえ。ちょっと先が見通せてなかったか」

 これから先の冒険を考えたときに、俺の武器を何か。

 『何を俺の武器として、育てれば良いか』。

 今持っている武器で考えるなら、未熟な剣術にそれをカバーする小道具、サブ武器がいる。
 剣一本で切り開けるほど俺はすごくない。 

 だがこれから先の冒険を考えた時に、サブ武器の存在に甘えてメインの武器を磨かないというのは、選択として無しだ。

 それだけでも全てに対応できると言えるほどの剣に、それをカバーするサブ武器を持つ。
 それこそが、俺の目指すべき姿。

 そう、『最強』というべき姿なんじゃないか?

「おじじ、俺に剣を教えてくれ」
「ほう? 刀じゃのうてええんか?」
「ちょっと考えてることがあるから、それを相談しつつ、だな」

 さあ、ここに俺の道標となる先達がいる。
 彼から学べることを全て学ぼう。

 そして俺だけの戦い方を。
 俺が一番得意とする戦い方を磨いて行くのだ。


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