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“佐伯さんのおとーさん”と普通にお喋りをし続け、佐伯さんが住むという立派なマンションの下に着いた。
そこには緩めではあるけれど綺麗な格好をしている佐伯さんが立っていて、その隣には男の子がいた。



佐伯さんがそれはもう満面の笑みで私が座る反対側の扉のドアを開けようとし・・・でも開けず、佐伯さんではなくてその男の子がその扉を開けた。



「園江さん、“おとーさん”、おはようございます♪」



「「おはよう。」」



後部座席に楽しそうに乗り込んできた佐伯さんのすぐ近くにその男の子が身体を屈ませてきた。



「砂川課長、今日は車と財布をありがとうございます。」



「うん、それしか持ってないくらいの男だからお安い御用だよ。」



「和香って電車に乗ると痴漢されたり盗撮されたりナンパされたりで、目的地になかなか着かないので車出して貰えて良かったですよ。」



男の子がそう言って・・・



砂川さんに茶色い封筒を差し出した。



「少ないですけどこれ、よかったら何かの足しに使ってください。」



「気持ちだけ貰っておくよ、ありがとう。」



砂川さんの返事に困った顔で笑った男の子は佐伯さんにその封筒を差し出した。



「お土産よろしくな。」



「了解です。」



佐伯さんがすんなりと封筒を受け取りその男の子に頷く姿を見て、何となくだけど“この男の子が初体験の相手で好きな人なのかな”と思った。



そしたら急にその男の子が私の方を見てきて・・・



「園江課長の妹さんですよね!!
“純愛ちゃん”!!」



私のことを“純愛ちゃん”と呼んできたことには驚いていたら・・・



「いつも園江課長が“純愛純愛純愛純愛”って妹の話ばっかりしてくるんっすよね!!
めっちゃうちの部署で有名人っすよ、“純愛ちゃん”。」



驚いている私に砂川さんが1つ付け足してきた。



「“彼”、園江課長の部下で若松君。」



「いつも兄がお世話になっております・・・。」



「仕事以外ではマジで俺がお世話してる!!
あの人ヤバいくらい天然っすよね!!」



「園江課長が新之助(しんのすけ)に園江さんの話をしてるなんて知らなかった。
もっと早く教えてくれれば良かったのに。」



文句を言った佐伯さんに若松さんは片手で佐伯さんの両頬を潰した。



それによりブー────...という音が佐伯さんの唇から漏れる。



「課長の妹のエピソードをしたところでマジでくだらない話だから、絶対“つまんない”ってみんなからブーイングされるやつ!!
歯磨きしてた時に~とか、ワックスを勝手に使ったら~とか、そんなやつ!!」



「これからは全部教えてよ?」



「初めての指導担当だもんな、了解です!!」



「いや・・・!!了解しないでよ!!
そんなエピソード恥ずかしいって!!!」



慌てて止めると若松さんが「恥ずかしい話とかはないっすよ、くだらないだけで!!」と大きく笑っていた。



「凄く感じの良い男の子じゃん。」



静かに車が発進した後に佐伯さんに言うと、佐伯さんが鞄に封筒を仕舞いながら頷いた。



「良いパパになりそうでしょ?」



「うん、そんな感じ。」



「良い旦那さんにもなりそうだよね。」



佐伯さんがそう呟いた時・・・



「あ・・・!!」



と大きくて明るい声を上げ、車の窓を開けた。



「パパ!!行ってきます!!」



道を歩いていたオジサンのことを“パパ”と言った佐伯さん。
あのオジサンが仮のお父さんなのだとは分かるけれど、ビックリした。



凄く凄くビックリした。



佐伯さんが“パパ”と呼んだその男の人はどこをどう見ても“変なオジサン”で。
“変な”どころか“怪しい”感じで・・・。
小太りで髪の毛は薄く、何だか凄く厭らしい顔をした“怪しいオジサン”で・・・。



その“怪しいオジサン”がニヤニヤと笑いながら片手を上げていた。



その手は一瞬しか見えなかったけれど赤黒く見えたような気がして・・・。



佐伯さんの背中にある深くて大きな痣が自然と思い浮かんだ瞬間・・・



「お父さんと全く似てないね?」



血の繋がりがない“パパ”だと知らない砂川さんがそう指摘してしまい、それには少し焦る。



「うん、だからパパとエッチしたかったんだよね。」



それにはもっと焦って佐伯さんのことを見ると、焦っている顔の私を見て楽しそうに笑った。



「濁されちゃったけどね。
来世も私のパパになれるのを楽しみにしてるって、そんなことを言って。」



「ちゃんとした人だね・・・。」



「うん、だから大好きなの。
パパと結婚したいくらいに大好き。」



“女の子”というよりも“幼い女の子”のような顔で佐伯さんが笑う。
それには砂川さんが優しい声で運転席から喋り掛けてきて。



「大人になった娘から今でもそう言って貰えるなんて、お父さん絶対に嬉しいよ。」



何も知らない砂川さんからの言葉に、佐伯さんは“おとーさん、嫉妬しないでね。”と軽く返事をしていた。
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