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「兄さんおは……!!」
入ってきた少年は、きょろきょろと部屋の中を見る。それから俺と久遠を見る。気の強そうな鋭い瞳を向けながら近づいてきた。
「おい、お前の父さんどこ行ったんだよ」
「……」
「まただんまりかよ!兄さんの子供のくせに全く似てねえな!!」
その言葉はだめだ!
先ほどのやり取りがあったため口をはさむのはやめようと思ったがそれは我慢できない!
この少年もまだ年が若いからどれだけ傷つく言葉を言ったのか分からないだろうが、小さい頃のトラウマは大人になっても残る。
「話し中に申し訳ありませんが、このお方に失礼な物言いではないでしょうか」
「は?誰お前?お前の方こそ、どの面下げて俺と話そうと……っ!」
「九郎ちゃん?」
俺に矛先を向けようと言葉を発したら沙織さんの声が聞こえた。廊下の方からひょっこり顔を出しており、沙織さんを見るとびしっと少年が固まって慌ててぺこりと頭を下げた。
「お、おはようございます!!」
「はい、おはようございます。ごめんね、あの人はもうお仕事に行っちゃって……朝餉一緒に食べる約束してたんでしょう?」
「い、いえ!大丈夫です!!」
「本当にごめんなさいね。折角来て貰ったのに……。良ければくーちゃんとしーちゃんと一緒に食べてくれないかしら?にぎやかな方がいいでしょう?」
「はい勿論です!」
凄いこの子の変わり身!
とはいえ助かった。俺では久遠を守り切れないから。
少年はこくこく首を縦に振ってにこにこ笑顔である。
「良かったわ、くーちゃん、仲良くしてね?」
「……やぁ」
「じゃあくーちゃんだけ別のところで食べる」
「や!しーちゃも!しーちゃもぉっ!!」
「かかのお手手は一つしかないから無理よ」
あ~~~~っと顔を渋くして久遠はじっと少年を見る。それからはあっとため息をついた。
仕方ないから同席許してやるよ、とでも言いそうな態度である。
それを感じたのは俺だけではなく少年も同じようで、表情をあからさまに崩すことはなかったがひくっと頬が引きつっていた。
「それじゃあ仲良くね」
「はい!」
沙織さんの言葉に少年は元気よく返事をする。俺もこくんと頷くが、久遠はぷいっとそっぽを向く。
沙織さんが去っていくと、少年は俺を見た。それからふんっと鼻を鳴らし腕を組む。
「ここでは俺が偉いからな!」
「はい」
「偉いから、お前の寄越せ!」
「どうぞ」
「ふふん、し・ゅ・そ・う・な心掛けだなぁ!!??」
久遠が、少年の顔面に何かを投げつけた。ずるっと鉢ごと投げつけられたらしくそれが畳に落ちる。
彼の顔に野菜がついて怒りに満ちた彼の表情が見えた。それを見ているのか見ていないのか、にっこり笑顔で久遠はこういった。
「あげう!」
「こんの野郎!!」
「危ない!」
少年が俺の膳から同じように小鉢を投げようとしたので久遠を庇おう、するとぴたりっと少年は投げようとした格好で不自然に止まった。
何故だろうと思い、彼の視線を辿る前に声がした。
「何してるのかな?九郎」
またしても襖の方から人が現れた。腰には刀を差しており、黒い袴を着ている。
少年は彼の登場に静かに振りかぶろうとした手をおろした。そしてばつの悪そうな顔をする。
「は、はるにい……」
「食べ物で遊んじゃいけませんって学ばなかった?」
「さ、最初に仕掛けたのはこいつで……っ!!」
「その前に、小さい子供からご飯を取り上げようとしたのは誰?」
「う」
「九郎」
「ごめんなさい」
「僕にじゃないでしょ」
少年は男の人に促されて俺の前に来るとぺこりと頭を下げる。
「ごめんなさい……」
まさかこんな素直に謝られるとは思わずに俺は慌てて言葉を発した。
「い、いえ、僕の方が身分が低く、貴方の方が偉いのは事実ですからお気になさらず」
「! だ、だよな!」
「この子調子に乗りやすいので、適当にあしらっていいですよ?」
「は、晴兄さん!!」
「お前も、自分が偉いと思うなら弱い子は守らないとだめだよ」
「……はい」
少年とこの人は兄弟なのだろうか。
そして久遠のお父様、つまり久臣さんも兄弟で、三人兄弟?この少年が末っ子。成程。
ぐううううっと久遠から腹の音が鳴った。
そう言えば朝餉の途中だった。
「申し訳ありません、若君」
男の人がそういうと、久遠はとことこと少年の方に近づいてペコっと頭を下げる。
「……めんさい」
「?」
「ごめしゃい」
「! べ、別に、俺の方が先に悪いことしたからいい!」
久遠が、少年に謝っている。少年もそれが分かったようでそう言った。
「そ、それより飯だ!」
「めし!!」
めし、飯!!
お、お前か~~~~~~っ!!と叫びそうになったがその前に男の人がごんっと少年の頭に拳骨を落とした。いってえっと叫んで涙目になる少年だったが、男の顔を見てうっと顔を青くする。
「ご飯ですね、九郎」
「う、うん」
「若君、ごはん、ですよ?」
「ご、ごひゃ、う、う」
男の人の気迫に久遠もこくこく頷いていた。
こ、この人凄い……。
ーーーーー
誤字報告ありがとうございます。
入ってきた少年は、きょろきょろと部屋の中を見る。それから俺と久遠を見る。気の強そうな鋭い瞳を向けながら近づいてきた。
「おい、お前の父さんどこ行ったんだよ」
「……」
「まただんまりかよ!兄さんの子供のくせに全く似てねえな!!」
その言葉はだめだ!
先ほどのやり取りがあったため口をはさむのはやめようと思ったがそれは我慢できない!
この少年もまだ年が若いからどれだけ傷つく言葉を言ったのか分からないだろうが、小さい頃のトラウマは大人になっても残る。
「話し中に申し訳ありませんが、このお方に失礼な物言いではないでしょうか」
「は?誰お前?お前の方こそ、どの面下げて俺と話そうと……っ!」
「九郎ちゃん?」
俺に矛先を向けようと言葉を発したら沙織さんの声が聞こえた。廊下の方からひょっこり顔を出しており、沙織さんを見るとびしっと少年が固まって慌ててぺこりと頭を下げた。
「お、おはようございます!!」
「はい、おはようございます。ごめんね、あの人はもうお仕事に行っちゃって……朝餉一緒に食べる約束してたんでしょう?」
「い、いえ!大丈夫です!!」
「本当にごめんなさいね。折角来て貰ったのに……。良ければくーちゃんとしーちゃんと一緒に食べてくれないかしら?にぎやかな方がいいでしょう?」
「はい勿論です!」
凄いこの子の変わり身!
とはいえ助かった。俺では久遠を守り切れないから。
少年はこくこく首を縦に振ってにこにこ笑顔である。
「良かったわ、くーちゃん、仲良くしてね?」
「……やぁ」
「じゃあくーちゃんだけ別のところで食べる」
「や!しーちゃも!しーちゃもぉっ!!」
「かかのお手手は一つしかないから無理よ」
あ~~~~っと顔を渋くして久遠はじっと少年を見る。それからはあっとため息をついた。
仕方ないから同席許してやるよ、とでも言いそうな態度である。
それを感じたのは俺だけではなく少年も同じようで、表情をあからさまに崩すことはなかったがひくっと頬が引きつっていた。
「それじゃあ仲良くね」
「はい!」
沙織さんの言葉に少年は元気よく返事をする。俺もこくんと頷くが、久遠はぷいっとそっぽを向く。
沙織さんが去っていくと、少年は俺を見た。それからふんっと鼻を鳴らし腕を組む。
「ここでは俺が偉いからな!」
「はい」
「偉いから、お前の寄越せ!」
「どうぞ」
「ふふん、し・ゅ・そ・う・な心掛けだなぁ!!??」
久遠が、少年の顔面に何かを投げつけた。ずるっと鉢ごと投げつけられたらしくそれが畳に落ちる。
彼の顔に野菜がついて怒りに満ちた彼の表情が見えた。それを見ているのか見ていないのか、にっこり笑顔で久遠はこういった。
「あげう!」
「こんの野郎!!」
「危ない!」
少年が俺の膳から同じように小鉢を投げようとしたので久遠を庇おう、するとぴたりっと少年は投げようとした格好で不自然に止まった。
何故だろうと思い、彼の視線を辿る前に声がした。
「何してるのかな?九郎」
またしても襖の方から人が現れた。腰には刀を差しており、黒い袴を着ている。
少年は彼の登場に静かに振りかぶろうとした手をおろした。そしてばつの悪そうな顔をする。
「は、はるにい……」
「食べ物で遊んじゃいけませんって学ばなかった?」
「さ、最初に仕掛けたのはこいつで……っ!!」
「その前に、小さい子供からご飯を取り上げようとしたのは誰?」
「う」
「九郎」
「ごめんなさい」
「僕にじゃないでしょ」
少年は男の人に促されて俺の前に来るとぺこりと頭を下げる。
「ごめんなさい……」
まさかこんな素直に謝られるとは思わずに俺は慌てて言葉を発した。
「い、いえ、僕の方が身分が低く、貴方の方が偉いのは事実ですからお気になさらず」
「! だ、だよな!」
「この子調子に乗りやすいので、適当にあしらっていいですよ?」
「は、晴兄さん!!」
「お前も、自分が偉いと思うなら弱い子は守らないとだめだよ」
「……はい」
少年とこの人は兄弟なのだろうか。
そして久遠のお父様、つまり久臣さんも兄弟で、三人兄弟?この少年が末っ子。成程。
ぐううううっと久遠から腹の音が鳴った。
そう言えば朝餉の途中だった。
「申し訳ありません、若君」
男の人がそういうと、久遠はとことこと少年の方に近づいてペコっと頭を下げる。
「……めんさい」
「?」
「ごめしゃい」
「! べ、別に、俺の方が先に悪いことしたからいい!」
久遠が、少年に謝っている。少年もそれが分かったようでそう言った。
「そ、それより飯だ!」
「めし!!」
めし、飯!!
お、お前か~~~~~~っ!!と叫びそうになったがその前に男の人がごんっと少年の頭に拳骨を落とした。いってえっと叫んで涙目になる少年だったが、男の顔を見てうっと顔を青くする。
「ご飯ですね、九郎」
「う、うん」
「若君、ごはん、ですよ?」
「ご、ごひゃ、う、う」
男の人の気迫に久遠もこくこく頷いていた。
こ、この人凄い……。
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誤字報告ありがとうございます。
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