21 / 208
2
しおりを挟む
「兄さんおは……!!」
入ってきた少年は、きょろきょろと部屋の中を見る。それから俺と久遠を見る。気の強そうな鋭い瞳を向けながら近づいてきた。
「おい、お前の父さんどこ行ったんだよ」
「……」
「まただんまりかよ!兄さんの子供のくせに全く似てねえな!!」
その言葉はだめだ!
先ほどのやり取りがあったため口をはさむのはやめようと思ったがそれは我慢できない!
この少年もまだ年が若いからどれだけ傷つく言葉を言ったのか分からないだろうが、小さい頃のトラウマは大人になっても残る。
「話し中に申し訳ありませんが、このお方に失礼な物言いではないでしょうか」
「は?誰お前?お前の方こそ、どの面下げて俺と話そうと……っ!」
「九郎ちゃん?」
俺に矛先を向けようと言葉を発したら沙織さんの声が聞こえた。廊下の方からひょっこり顔を出しており、沙織さんを見るとびしっと少年が固まって慌ててぺこりと頭を下げた。
「お、おはようございます!!」
「はい、おはようございます。ごめんね、あの人はもうお仕事に行っちゃって……朝餉一緒に食べる約束してたんでしょう?」
「い、いえ!大丈夫です!!」
「本当にごめんなさいね。折角来て貰ったのに……。良ければくーちゃんとしーちゃんと一緒に食べてくれないかしら?にぎやかな方がいいでしょう?」
「はい勿論です!」
凄いこの子の変わり身!
とはいえ助かった。俺では久遠を守り切れないから。
少年はこくこく首を縦に振ってにこにこ笑顔である。
「良かったわ、くーちゃん、仲良くしてね?」
「……やぁ」
「じゃあくーちゃんだけ別のところで食べる」
「や!しーちゃも!しーちゃもぉっ!!」
「かかのお手手は一つしかないから無理よ」
あ~~~~っと顔を渋くして久遠はじっと少年を見る。それからはあっとため息をついた。
仕方ないから同席許してやるよ、とでも言いそうな態度である。
それを感じたのは俺だけではなく少年も同じようで、表情をあからさまに崩すことはなかったがひくっと頬が引きつっていた。
「それじゃあ仲良くね」
「はい!」
沙織さんの言葉に少年は元気よく返事をする。俺もこくんと頷くが、久遠はぷいっとそっぽを向く。
沙織さんが去っていくと、少年は俺を見た。それからふんっと鼻を鳴らし腕を組む。
「ここでは俺が偉いからな!」
「はい」
「偉いから、お前の寄越せ!」
「どうぞ」
「ふふん、し・ゅ・そ・う・な心掛けだなぁ!!??」
久遠が、少年の顔面に何かを投げつけた。ずるっと鉢ごと投げつけられたらしくそれが畳に落ちる。
彼の顔に野菜がついて怒りに満ちた彼の表情が見えた。それを見ているのか見ていないのか、にっこり笑顔で久遠はこういった。
「あげう!」
「こんの野郎!!」
「危ない!」
少年が俺の膳から同じように小鉢を投げようとしたので久遠を庇おう、するとぴたりっと少年は投げようとした格好で不自然に止まった。
何故だろうと思い、彼の視線を辿る前に声がした。
「何してるのかな?九郎」
またしても襖の方から人が現れた。腰には刀を差しており、黒い袴を着ている。
少年は彼の登場に静かに振りかぶろうとした手をおろした。そしてばつの悪そうな顔をする。
「は、はるにい……」
「食べ物で遊んじゃいけませんって学ばなかった?」
「さ、最初に仕掛けたのはこいつで……っ!!」
「その前に、小さい子供からご飯を取り上げようとしたのは誰?」
「う」
「九郎」
「ごめんなさい」
「僕にじゃないでしょ」
少年は男の人に促されて俺の前に来るとぺこりと頭を下げる。
「ごめんなさい……」
まさかこんな素直に謝られるとは思わずに俺は慌てて言葉を発した。
「い、いえ、僕の方が身分が低く、貴方の方が偉いのは事実ですからお気になさらず」
「! だ、だよな!」
「この子調子に乗りやすいので、適当にあしらっていいですよ?」
「は、晴兄さん!!」
「お前も、自分が偉いと思うなら弱い子は守らないとだめだよ」
「……はい」
少年とこの人は兄弟なのだろうか。
そして久遠のお父様、つまり久臣さんも兄弟で、三人兄弟?この少年が末っ子。成程。
ぐううううっと久遠から腹の音が鳴った。
そう言えば朝餉の途中だった。
「申し訳ありません、若君」
男の人がそういうと、久遠はとことこと少年の方に近づいてペコっと頭を下げる。
「……めんさい」
「?」
「ごめしゃい」
「! べ、別に、俺の方が先に悪いことしたからいい!」
久遠が、少年に謝っている。少年もそれが分かったようでそう言った。
「そ、それより飯だ!」
「めし!!」
めし、飯!!
お、お前か~~~~~~っ!!と叫びそうになったがその前に男の人がごんっと少年の頭に拳骨を落とした。いってえっと叫んで涙目になる少年だったが、男の顔を見てうっと顔を青くする。
「ご飯ですね、九郎」
「う、うん」
「若君、ごはん、ですよ?」
「ご、ごひゃ、う、う」
男の人の気迫に久遠もこくこく頷いていた。
こ、この人凄い……。
ーーーーー
誤字報告ありがとうございます。
入ってきた少年は、きょろきょろと部屋の中を見る。それから俺と久遠を見る。気の強そうな鋭い瞳を向けながら近づいてきた。
「おい、お前の父さんどこ行ったんだよ」
「……」
「まただんまりかよ!兄さんの子供のくせに全く似てねえな!!」
その言葉はだめだ!
先ほどのやり取りがあったため口をはさむのはやめようと思ったがそれは我慢できない!
この少年もまだ年が若いからどれだけ傷つく言葉を言ったのか分からないだろうが、小さい頃のトラウマは大人になっても残る。
「話し中に申し訳ありませんが、このお方に失礼な物言いではないでしょうか」
「は?誰お前?お前の方こそ、どの面下げて俺と話そうと……っ!」
「九郎ちゃん?」
俺に矛先を向けようと言葉を発したら沙織さんの声が聞こえた。廊下の方からひょっこり顔を出しており、沙織さんを見るとびしっと少年が固まって慌ててぺこりと頭を下げた。
「お、おはようございます!!」
「はい、おはようございます。ごめんね、あの人はもうお仕事に行っちゃって……朝餉一緒に食べる約束してたんでしょう?」
「い、いえ!大丈夫です!!」
「本当にごめんなさいね。折角来て貰ったのに……。良ければくーちゃんとしーちゃんと一緒に食べてくれないかしら?にぎやかな方がいいでしょう?」
「はい勿論です!」
凄いこの子の変わり身!
とはいえ助かった。俺では久遠を守り切れないから。
少年はこくこく首を縦に振ってにこにこ笑顔である。
「良かったわ、くーちゃん、仲良くしてね?」
「……やぁ」
「じゃあくーちゃんだけ別のところで食べる」
「や!しーちゃも!しーちゃもぉっ!!」
「かかのお手手は一つしかないから無理よ」
あ~~~~っと顔を渋くして久遠はじっと少年を見る。それからはあっとため息をついた。
仕方ないから同席許してやるよ、とでも言いそうな態度である。
それを感じたのは俺だけではなく少年も同じようで、表情をあからさまに崩すことはなかったがひくっと頬が引きつっていた。
「それじゃあ仲良くね」
「はい!」
沙織さんの言葉に少年は元気よく返事をする。俺もこくんと頷くが、久遠はぷいっとそっぽを向く。
沙織さんが去っていくと、少年は俺を見た。それからふんっと鼻を鳴らし腕を組む。
「ここでは俺が偉いからな!」
「はい」
「偉いから、お前の寄越せ!」
「どうぞ」
「ふふん、し・ゅ・そ・う・な心掛けだなぁ!!??」
久遠が、少年の顔面に何かを投げつけた。ずるっと鉢ごと投げつけられたらしくそれが畳に落ちる。
彼の顔に野菜がついて怒りに満ちた彼の表情が見えた。それを見ているのか見ていないのか、にっこり笑顔で久遠はこういった。
「あげう!」
「こんの野郎!!」
「危ない!」
少年が俺の膳から同じように小鉢を投げようとしたので久遠を庇おう、するとぴたりっと少年は投げようとした格好で不自然に止まった。
何故だろうと思い、彼の視線を辿る前に声がした。
「何してるのかな?九郎」
またしても襖の方から人が現れた。腰には刀を差しており、黒い袴を着ている。
少年は彼の登場に静かに振りかぶろうとした手をおろした。そしてばつの悪そうな顔をする。
「は、はるにい……」
「食べ物で遊んじゃいけませんって学ばなかった?」
「さ、最初に仕掛けたのはこいつで……っ!!」
「その前に、小さい子供からご飯を取り上げようとしたのは誰?」
「う」
「九郎」
「ごめんなさい」
「僕にじゃないでしょ」
少年は男の人に促されて俺の前に来るとぺこりと頭を下げる。
「ごめんなさい……」
まさかこんな素直に謝られるとは思わずに俺は慌てて言葉を発した。
「い、いえ、僕の方が身分が低く、貴方の方が偉いのは事実ですからお気になさらず」
「! だ、だよな!」
「この子調子に乗りやすいので、適当にあしらっていいですよ?」
「は、晴兄さん!!」
「お前も、自分が偉いと思うなら弱い子は守らないとだめだよ」
「……はい」
少年とこの人は兄弟なのだろうか。
そして久遠のお父様、つまり久臣さんも兄弟で、三人兄弟?この少年が末っ子。成程。
ぐううううっと久遠から腹の音が鳴った。
そう言えば朝餉の途中だった。
「申し訳ありません、若君」
男の人がそういうと、久遠はとことこと少年の方に近づいてペコっと頭を下げる。
「……めんさい」
「?」
「ごめしゃい」
「! べ、別に、俺の方が先に悪いことしたからいい!」
久遠が、少年に謝っている。少年もそれが分かったようでそう言った。
「そ、それより飯だ!」
「めし!!」
めし、飯!!
お、お前か~~~~~~っ!!と叫びそうになったがその前に男の人がごんっと少年の頭に拳骨を落とした。いってえっと叫んで涙目になる少年だったが、男の顔を見てうっと顔を青くする。
「ご飯ですね、九郎」
「う、うん」
「若君、ごはん、ですよ?」
「ご、ごひゃ、う、う」
男の人の気迫に久遠もこくこく頷いていた。
こ、この人凄い……。
ーーーーー
誤字報告ありがとうございます。
38
お気に入りに追加
3,594
あなたにおすすめの小説
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる