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「本当に行くのエリック? 私は単なる風邪だと思うけど……」
幼馴染のアリアナの家に馬車をつけ、そこから降りると既に彼女は立っていた。
僕に困惑したような顔を向けている。
「いや、僕にはとてもそうは見えない。君も薄々は何かおかしいことに気づいているんじゃないのかい?」
早口に言うと、アリアナは気まずそうに俯く。
そして何かを思い出すように口を開く。
「確かにメルダは時々おかしいと思う時はあるわ。夏の暑い日でも滅多に半そでにならないし、運動の時間はいつも見学……門限も誰よりも早くて……」
「ああ、それに最近は思い詰めたようにため息ばかり。何かあったに違いない」
僕がそう言うと、アリアナが呆れたように苦笑した。
「本当にあなたはよく見ているわね。友達の私以上に」
「ああ……まあな。それでどうする? 来るのか来ないのか?」
僕はアリアナに背を向けると馬車に乗り込む。
アリアナは小さなため息をつくと、どこか決意の籠った目で頷く。
「行くわ」
……メルダの家を訪ねると、応接間に通される。
そこで待つこと数分、彼女の父親らしき男が応接間に入ってきた。
「お待たせしてしまい申し訳ありませんエリック王子。そちらの女性は……メルダのご友人のアリアナ嬢ではありませんか。私はメルダの父です。それで……お二人揃ってどうされたのですか?」
彼はにこやかに微笑むと、向かいのソファに座った。
僕も社交用の笑顔を浮かべると、口を開く。
「メルダさんに急ぎの用事がありまして、てっきりここに来るのかと思っていましたが……彼女は今留守なのでしょうか?」
「ああ……そうでしたか……」
父は残念そうな声を出すと、言葉を続ける。
「実はメルダは結婚することになりまして。今さっき結婚相手の家に嫁いでいったのです」
「え……」
瞬間、僕の胸がきつく締め付けられる。
そのまま言葉を発せないでいると、助け舟を出すようにアリアナが口を開く。
「結婚!? そんな……メルダは一体どなたの妻になられたのですか?」
父は一瞬迷ったように目を細めるが、すぐに笑顔を取り戻す。
「ブラック公爵様です」
「「え!?」」
僕とアリアナは同時に驚きの声を上げた。
ブラック公爵といえば、この街でも悪い意味で名の通った貴族だ。
人を物としか扱わないことで有名で、彼によって心を病んだ人間は大勢いる。
よりによってあの男と結婚するなんて。
「あの……お義父さん! なぜそんな男をメルダを結婚させたのです!」
僕は気づいたら立ち上がっていた。
動揺するメルダに父に言葉を突き刺す。
「ブラック公爵は最低最悪の男です! あんな男とメルダと結婚なんてさせたら、メルダはおもちゃのように扱われてしまいます! 即刻連れ戻してください!」
「し、しかし……もう既に結婚は決まったのです。今更どうすることもできません。これも運命だったと諦めるしかありません」
彼は既に諦めているのか、そう告げた。
しかしその言葉と表情からは一切悲しみが伝わってこず、まるで喜んでブラック公爵にメルダを明け渡したようにさえ見える。
アリアナも同じことを思ったらしく、厳しい口調で言う。
「まさか……あなたの方から縁談を取り付けたんじゃないでしょうね?」
今まで聞いた中でも一番低い声でそう言ったアリアナは、僕と同じように立ち上がった。
メルダの父は僕達二人に睨まれて、少しだけ体を震わせる。
「これも運命なのです。あの子は受け入れなくてはいけない」
幼馴染のアリアナの家に馬車をつけ、そこから降りると既に彼女は立っていた。
僕に困惑したような顔を向けている。
「いや、僕にはとてもそうは見えない。君も薄々は何かおかしいことに気づいているんじゃないのかい?」
早口に言うと、アリアナは気まずそうに俯く。
そして何かを思い出すように口を開く。
「確かにメルダは時々おかしいと思う時はあるわ。夏の暑い日でも滅多に半そでにならないし、運動の時間はいつも見学……門限も誰よりも早くて……」
「ああ、それに最近は思い詰めたようにため息ばかり。何かあったに違いない」
僕がそう言うと、アリアナが呆れたように苦笑した。
「本当にあなたはよく見ているわね。友達の私以上に」
「ああ……まあな。それでどうする? 来るのか来ないのか?」
僕はアリアナに背を向けると馬車に乗り込む。
アリアナは小さなため息をつくと、どこか決意の籠った目で頷く。
「行くわ」
……メルダの家を訪ねると、応接間に通される。
そこで待つこと数分、彼女の父親らしき男が応接間に入ってきた。
「お待たせしてしまい申し訳ありませんエリック王子。そちらの女性は……メルダのご友人のアリアナ嬢ではありませんか。私はメルダの父です。それで……お二人揃ってどうされたのですか?」
彼はにこやかに微笑むと、向かいのソファに座った。
僕も社交用の笑顔を浮かべると、口を開く。
「メルダさんに急ぎの用事がありまして、てっきりここに来るのかと思っていましたが……彼女は今留守なのでしょうか?」
「ああ……そうでしたか……」
父は残念そうな声を出すと、言葉を続ける。
「実はメルダは結婚することになりまして。今さっき結婚相手の家に嫁いでいったのです」
「え……」
瞬間、僕の胸がきつく締め付けられる。
そのまま言葉を発せないでいると、助け舟を出すようにアリアナが口を開く。
「結婚!? そんな……メルダは一体どなたの妻になられたのですか?」
父は一瞬迷ったように目を細めるが、すぐに笑顔を取り戻す。
「ブラック公爵様です」
「「え!?」」
僕とアリアナは同時に驚きの声を上げた。
ブラック公爵といえば、この街でも悪い意味で名の通った貴族だ。
人を物としか扱わないことで有名で、彼によって心を病んだ人間は大勢いる。
よりによってあの男と結婚するなんて。
「あの……お義父さん! なぜそんな男をメルダを結婚させたのです!」
僕は気づいたら立ち上がっていた。
動揺するメルダに父に言葉を突き刺す。
「ブラック公爵は最低最悪の男です! あんな男とメルダと結婚なんてさせたら、メルダはおもちゃのように扱われてしまいます! 即刻連れ戻してください!」
「し、しかし……もう既に結婚は決まったのです。今更どうすることもできません。これも運命だったと諦めるしかありません」
彼は既に諦めているのか、そう告げた。
しかしその言葉と表情からは一切悲しみが伝わってこず、まるで喜んでブラック公爵にメルダを明け渡したようにさえ見える。
アリアナも同じことを思ったらしく、厳しい口調で言う。
「まさか……あなたの方から縁談を取り付けたんじゃないでしょうね?」
今まで聞いた中でも一番低い声でそう言ったアリアナは、僕と同じように立ち上がった。
メルダの父は僕達二人に睨まれて、少しだけ体を震わせる。
「これも運命なのです。あの子は受け入れなくてはいけない」
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