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 ブラック公爵の屋敷に場所が到着すると、たくさんの使用人やメイドが出迎えてくれた。
 まるで王族のような待遇の良さに目を見張りながらも、彼女たちの怯えた様子に違和感を覚える。

「いい家だろう。ここまで仕上げるのは大変だったんだ。勝手に消える奴が多くてなははっ……」

「え……」

 公爵の言葉の意味を考えて私はぞっとした。
 おそらくこの人達は善意でやっているのではなく、恐怖から私を迎えてくれているのだ。
 そうしなければ自分が傷つけられと脅されているかもしれない。
 と、ブラック公爵は一人の使用人を睨むと、声を荒げる。

「貴様! 頭が二度高いぞ! 何度言ったら分かるんだ馬鹿女!」

 そして彼女に掴みかかると、思い切り顔面を殴り飛ばした。
 彼女は悲痛な叫びを上げて地面に倒れると、その場で土下座をする。

「申し訳ありませんブラック様! つ、次は……次はちゃんと直しますので!」

 彼女の言葉に公爵はニヤリと笑みを浮かべる。

「人生に次なんていうのはないんだよ。罰としてお前は今日から一か月間、食事は一食だ。こいつを助けたやつがいたら、そいつは半年間一食だ。分かったな!!!」

 公爵の荒々しい声が私の脳裏に反響していた。
 瞬間、私にはもう幸せなんてものはないのだと知る。
 ここに来た時点で全ては終わってしまったのだ。
 公爵は私に振り返ると、笑顔で言う。

「さあメルダ。部屋まで案内してやろう」

 部屋は思っていたよりも豪華だったが、それで全てがチャラになるとは到底思えなかった。
 怯えたように部屋に入る私に、公爵は言う。

「……安心しろメルダ。お前の仕事は明日からだ。今日はこの部屋でゆっくり休むといい。食事は持ってこさせるから絶対に部屋は出るなよ。分かったな?」

 一体部屋から出るとどうなってしまうのか。
 あまりの恐怖にそんなことを聞く余裕すらなかった。
 声も出せずに私は何度も頷くと、公爵はニヤリと笑って扉を閉めた。
 一人になり、私は自分が汗だくになっていることに初めて気づく。

「……」

 そして茫然とした気持ちのまま、ベッドに腰を下ろした。
 
 ……翌日。
 朝早くに起こされた私は、そのまま食堂に呼び出された。
 ブラック公爵は私を見ると、隣の席に座るように手招きをする。

「今日からお前に妻としての役割を与える。まず朝食だが俺に食わせろ」

「……はい?」

「ん? 聞こえなかったのか? お前が料理を俺の口まで運ぶんだ」

「え……」

 理解したくもない言葉を聞いてしまい、私は顔面蒼白になる。
 幸いなことに今日は手でつかむようなものはないが、それでも嫌だった。
 しかし彼に逆らったら殴られることは確定しているので、私は従うしかない。

「ほら早くしろ。俺は腹が減った」

 私は恐る恐るフォークに手を伸ばすと、野菜を突き刺し、ブラック公爵の口に運んだ……

 ……地獄の朝食がやっと終わると、次は掃除を命じられた。
 時間制限が設けられていて、それまでに終わらなければ罰が待っていると言われた。
 使用人に聞きながら何とか終わらせると、次は洗濯……それが終わると、庭の草取り……私は使用人のようにこき使われて、夜になる頃には心身共に疲れ切っていた。

「三時間後に初夜を行う。それまで体を休めておけ」

 公爵はそれだけ言うと、私の部屋の扉を閉めた。
 
 私は絶望感に浸りながら、窓に近づく。
 眼下には綺麗に整えられた庭と、未だに作業をしている庭師の姿があった。
 この家は狂っている……そう気づいた時にはもう既に遅かった。

 私は助けを求めるように天空の月を見上げる。
 煌々と輝く月は助けてくれることもなく、ただそこにあるだけだった。

「誰か……助けて……」

 意味のない言葉だと知りながらも、私は呟かずにはいられなかった。
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