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夫のブラックは同じ公爵家の出身であるにも関わらず、ニヤニヤと貴族らしからぬ笑みを浮べていた。
「ブラック……やっと来たのね。あなたが遅刻したせいで大変だったのよ」
拗ねたように言う私にブラックは、やはり緊張感のない笑みで言葉を返す。
「ごめんごめん。昨日遅くまで領地管理の仕事をしていたからさ。ほら、こう見えても僕は根が真面目だろ?」
ブラックは端正な顔立ちをしているものの、髪はボサボサで、どこか呆けたような表情をいつもしていた。
そんな見た目の彼のことを怠けていると思う人達は多いが、彼の言葉どおり、実際は真面目な人だった。
私もそんなブラックの真面目な所に惹かれ、結婚する道を選んだのだ。
「ええ、そうね」
私は呆れたような声で言うと、未だ土下座を続けるシンとモカに目をやった。
ブラックは私の目線を追って二人に気づくと、もう一度私に顔を向ける。
「アイラ。彼等が土下座をしているのは、君のせいかい?」
「いや……うーん……どこから話したものかしら……」
私がかいつまんで事情を話すと、ブラックは腹を抱えて笑いだした。
「ははっ! 凄い面白い話じゃないか! さすが冷徹嬢王アイラ様だね」
「ちょっとブラック。ふざけないでよ」
「ごめんごめん。でも、実は僕も巷では君の夫ということで恐れられているんだよ。それに君に不敬を働いた彼らをそう簡単に許すつもりもないよ」
ブラックは突然に殺気を湧き立たせると、土下座をしているシンとモカの前に立った。
「お二人さん。顔を見せてくれないか? 僕の妻に婚約破棄を宣言したのはどっちかな?」
シンが恐る恐る顔を上げて、真っ青になりながら口を開く。
「ぼ、僕です……ほ、本当にごめんなさい……アイラ様をミカエラと間違えてしまって……」
「ああ、君か。でも、そういう問題じゃないよね?」
ブラックはそう言うと、その場にしゃがみこみ、眉間にしわを寄せた。
「シンだったね。君はあの冷徹嬢王アイラの妹……ミカエラに不敬を働いたんだぞ? しかもただ婚約破棄するだけじゃなくて、そこの彼女と関係まで持った上で婚約破棄を宣言したんだろ? 人として自分がどれだけ愚かな行為をしているのか分かっているのかい?」
「そ、それは……」
シンは顔面蒼白で、今にも倒れそうになる。
ブラックは笑顔すら一切見せることなく、眼力を強める。
「そしてミカエラを傷つけたということは、姉のアイラを傷つけたということ。そして夫であるこの僕を傷つけたということさ。覚悟は出来ているんだろうね?」
一層ブラックの低い声に、シンはついに気絶したように固まってしまう。
ブラックは小さなため息をつくと、今度はモカに顔を向けた。
「男爵令嬢モカ。君も君さ。シンにはミカエラという婚約者がいた。君はそれを知っていて、彼と関係を持ったのかい?」
「ち、違います! 私は何も聞かされておりませんでした! シンは自分が独身だと私に嘘をついていたのです!」
「ふーん、そうなのかシン?」
ブラックがシンに顔を向けると、彼は気まずそうに視線を逸らした。
言い訳の一つも出て来ない所を見るに、どうやらモカの話は本当であるらしい。
ブラックは再びため息をつくと、立ち上がり、私に顔を向ける。
「アイラ。この人たちはダメだ。本当に処分してしまった方がいい」
ブラックは時折、こういう風に残酷な一面を見せる時があった。
彼の目には光が灯っておらず、本当にシンとモカのことは処分対象として見ているようだった。
「確かに然るべきは与えるつもりよ。でもブラック、人に向かって処分なんていう言葉は使うものじゃないわ。これからもそんな言葉を使うつもりなら、離婚を考えるわよ」
「え?」
ブラックは額に汗を浮かべると、慌てたように苦笑する。
「は、はは……冗談だよ冗談! 本気な訳ないだろぉ?」
「全く……」
私は顔に手を当てて呆れ果てた。
と、後ろから聞き馴染みのある声が聞こえてくる。
「お姉様! 何事ですか!?」
「ブラック……やっと来たのね。あなたが遅刻したせいで大変だったのよ」
拗ねたように言う私にブラックは、やはり緊張感のない笑みで言葉を返す。
「ごめんごめん。昨日遅くまで領地管理の仕事をしていたからさ。ほら、こう見えても僕は根が真面目だろ?」
ブラックは端正な顔立ちをしているものの、髪はボサボサで、どこか呆けたような表情をいつもしていた。
そんな見た目の彼のことを怠けていると思う人達は多いが、彼の言葉どおり、実際は真面目な人だった。
私もそんなブラックの真面目な所に惹かれ、結婚する道を選んだのだ。
「ええ、そうね」
私は呆れたような声で言うと、未だ土下座を続けるシンとモカに目をやった。
ブラックは私の目線を追って二人に気づくと、もう一度私に顔を向ける。
「アイラ。彼等が土下座をしているのは、君のせいかい?」
「いや……うーん……どこから話したものかしら……」
私がかいつまんで事情を話すと、ブラックは腹を抱えて笑いだした。
「ははっ! 凄い面白い話じゃないか! さすが冷徹嬢王アイラ様だね」
「ちょっとブラック。ふざけないでよ」
「ごめんごめん。でも、実は僕も巷では君の夫ということで恐れられているんだよ。それに君に不敬を働いた彼らをそう簡単に許すつもりもないよ」
ブラックは突然に殺気を湧き立たせると、土下座をしているシンとモカの前に立った。
「お二人さん。顔を見せてくれないか? 僕の妻に婚約破棄を宣言したのはどっちかな?」
シンが恐る恐る顔を上げて、真っ青になりながら口を開く。
「ぼ、僕です……ほ、本当にごめんなさい……アイラ様をミカエラと間違えてしまって……」
「ああ、君か。でも、そういう問題じゃないよね?」
ブラックはそう言うと、その場にしゃがみこみ、眉間にしわを寄せた。
「シンだったね。君はあの冷徹嬢王アイラの妹……ミカエラに不敬を働いたんだぞ? しかもただ婚約破棄するだけじゃなくて、そこの彼女と関係まで持った上で婚約破棄を宣言したんだろ? 人として自分がどれだけ愚かな行為をしているのか分かっているのかい?」
「そ、それは……」
シンは顔面蒼白で、今にも倒れそうになる。
ブラックは笑顔すら一切見せることなく、眼力を強める。
「そしてミカエラを傷つけたということは、姉のアイラを傷つけたということ。そして夫であるこの僕を傷つけたということさ。覚悟は出来ているんだろうね?」
一層ブラックの低い声に、シンはついに気絶したように固まってしまう。
ブラックは小さなため息をつくと、今度はモカに顔を向けた。
「男爵令嬢モカ。君も君さ。シンにはミカエラという婚約者がいた。君はそれを知っていて、彼と関係を持ったのかい?」
「ち、違います! 私は何も聞かされておりませんでした! シンは自分が独身だと私に嘘をついていたのです!」
「ふーん、そうなのかシン?」
ブラックがシンに顔を向けると、彼は気まずそうに視線を逸らした。
言い訳の一つも出て来ない所を見るに、どうやらモカの話は本当であるらしい。
ブラックは再びため息をつくと、立ち上がり、私に顔を向ける。
「アイラ。この人たちはダメだ。本当に処分してしまった方がいい」
ブラックは時折、こういう風に残酷な一面を見せる時があった。
彼の目には光が灯っておらず、本当にシンとモカのことは処分対象として見ているようだった。
「確かに然るべきは与えるつもりよ。でもブラック、人に向かって処分なんていう言葉は使うものじゃないわ。これからもそんな言葉を使うつもりなら、離婚を考えるわよ」
「え?」
ブラックは額に汗を浮かべると、慌てたように苦笑する。
「は、はは……冗談だよ冗談! 本気な訳ないだろぉ?」
「全く……」
私は顔に手を当てて呆れ果てた。
と、後ろから聞き馴染みのある声が聞こえてくる。
「お姉様! 何事ですか!?」
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