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 お姉様は私の憧れでした。

 雪のような白く長い髪に、青色の美しい瞳。
 文武両道で、才色兼備。
 大好きなお姉様を褒める言葉がたくさんありすぎて、迷ってしまうくらいに。

 お姉様は私より二つ年上なだけなのに、私よりも数倍は大人でした。
 幼少期、子供には解けないであろう難解な数学の問題を軽々と解き、独自の解法まで編み出して家庭教師の先生を驚かせていました。

「お姉様! どうしてそんなに勉強が出来るのですか!?」

 羨望の眼差しで訊いた私に、お姉様は無表情で答えます。

「別に……ただ努力をしているだけよ」

 お姉様の才能は勉強だけに収まりませんでした。
 剣術や武術、絵や音楽、手を出したあらゆる物全てに才能を見出して、すぐに達人の域に達しました。

 妹として、こんなに素敵な姉など世界を探してもお姉様しかいません。
 私にはお姉様が神様のように思えて、次第に姉妹以上の熱い気持ちを抱くようになりました。

 しかしそんなお姉様にピンチが訪れました。
 きっかけは処刑法について勉強されていた時でした。
 その道の専門家である家庭教師に、お姉様は独自に考えた処刑法を提案したのです。
 家庭教師は目を丸くして数秒黙った後、興奮したような声でお姉様に叫びました。

「なんてすごい処刑法なの!!! これなら今までの労力の半分で済むわ! 今すぐ国王様に提案致しましょう!」

 こうして姉の考えた処刑法が採用されたのですが、弊害がありました。 
 それはお姉様が皆様に怖がられてしまったことでした。
 
 処刑法を考えた少女の噂はすぐに街中を周り、お姉様は周囲から避けられるようになりました。
 容姿端麗でありながらも、表情に乏しくあまり笑わないお姉様は、怖がられて友人を失っていきました。
 そしてついには冷徹嬢王アイラなどという陳腐なあだ名までついてしまった程でした。

 しかし私はちゃんと知っていました。
 お姉様にも屈託のない笑顔を浮かべる瞬間があることを。
 本当は誰よりも優しく、素敵な心を持っていることを。

 だから私はそんなお姉様を救うべく、動きました。
 しかし私の小さな脳みそではろくな案は出ず、最終的に考えたのが、自分とお姉様の印象を入れ替えるという案でした。

 幸いなことに、私とお姉様の容姿は似ています。
 事実を言うと、お姉様に憧れた私が、勝手にお姉様の容姿を真似ただけですが、それはまあ置いておきます。

 とにかく私とお姉様の容姿は似ているので、上手くいけばお姉様は名誉挽回できるかもしれませんでした。

 明るく、元気で、笑顔が素敵なアイラ。
 冷徹で表情に乏しいミカエラ。 
 そんな情報を世間に流しまくりました。

 精一杯やっていると、不思議なことが起こりました。
 それは時々、お姉様のことをミカエラと呼ぶ人が出始めたことでした。
 きっと本来の情報と私の噂がごちゃ混ぜになってしまい、どちらがどちらか分からなくなったのでしょう。

 お姉様の名前が間違えて覚えられていることには腹が立ちましたが、上々だと感じました。
 あとは名前さえしっかり覚えてくれれば、きっとお姉様は昔のように皆から慕われる人生を取り戻すに違いありません。
 私はそれを願って、毎日のように祈っていました。

 ……お姉様からパーティーに誘われ、私は入念に化粧をするために遅刻をしてしまいました。
 美しいお姉様に恥じないようにしなければいけないと思ったからです。

 会場に入ると、何やらザワザワとしていて、中央で何かが行われているみたいでした。
 私が人の間を縫ってそこに辿り着くと、お姉様と夫のブラック、そして土下座をするように膝をつく二人の貴族がいました。

「お姉様! 何事ですか!?」

 もしこの二人がお姉様に何かしらの無礼を働いたのだとしたら……粛清せねばなりません。
 妹として。
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