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 冷徹嬢王アイラ。
 そんなあだ名をつけられたのは、正直腹立たしかった。
 しかし気づいた時には既に広まってしまっていたし、どうしようもないので、特に情報封鎖をすることはしなかった。
 夫のブラックも少々ふざけたように喜んでくれたし。

「本当に申し訳ありませんでした」

 さっきまで威勢の良かった、妹の婚約者シンは、深々と頭を下げた。
 隣のモカは恐怖からか固まってしまい、お辞儀一つできないでいる。
 少し可哀そうな気がして、私は彼女を励ましてあげようと思った。

「確かモカさんといったわね……別に気にしなくてもいいのよ。私は全然気にしていないのだから」

「ひっ……!!!」

 しかし逆効果になってしまったようだ。
 モカは怯えたように顔を真っ青にすると、機械のようなガチガチとした動きで、ゆっくりと頭を下げた。

「冷徹嬢王アイラ様……ご、ごめんなさい……!」

「えっと……そのあだ名はあまり使って欲しくないのだけど」

「あ、すみません……私みたいなゴミ令嬢が使っていい言葉ではありませんよね……失言を致してしまい申し訳ありません、冷徹嬢王アイラ様」

「うーん」

 昔から自分の気持ちが人に上手く伝わらないことがよくあった。
 今だって、モカを励ましたいだけなのに、逆に彼女を怯えさせてしまっている。 
 こんな時妹のミカエラがいてくれたなら、持ち前の明るさで全てなかったことにしてくれるのに。

 本当は今日のパーティーには夫と妹と一緒にくるはずだった。
 しかし夫は寝坊して支度が間に合わず、妹はお化粧に時間がかかるといって遅刻宣言。
 二人とも定刻通りには出発できないと知った私は、仕方なく一人で来ることにしたのだ。

「二人とも。顔を上げて」

 昔から一人でいると事態が好転した試しがない。
 やはり冷徹嬢王アイラというあだ名が恐怖を植え付けているのか、皆私の言葉に過剰に怯えてしまうのだ。 

 私の言葉にシンとモカはゆっくりと顔を上げる。
 その目は蛇に睨まれた蛙のように怯えた色を怯えていた。
 私は二人を心配させないように、笑顔を作り口を開いた。

「人間誰しも間違いはあるものです。だから今回のあなたたちの行いは人間として当然のことなのです。だから気に病む必要はありません。早く忘れてパーティーを楽しみましょう」

 精一杯の笑顔と優しい声で言ったつもりだった。
 しかし二人の顔色はみるみる内に悪くなっていき、今にも卒倒してしまう程になってしまう。
 シンが震える唇で言う。

「そ、それは……僕達の存在が間違いということでしょうか? そ、そうですよね? 僕達はあなたに拭いきれない不敬を働いたのですから……」

「はい?」

 シンの言葉につられて、モカも怯えたように言う。

「そんな……私たち、もしかして処刑ですか!? 皆の心の中から忘れ去られるということですか!?」

 どうやら恐怖のあまり、思考が曲がってしまっているみたいだ。
 私はため息をつくと、やはり笑顔で言う。

「そんなことしませんよ。ふふふっ」

「ぎゃぁ! ご、ごめんなさい! 許してください!」
「ひぃっ!!! 私たちが悪かったですぅ!!! どうか命だけは……」

 二人は大粒の涙を流すと、その場に土下座をした。
 
「なんでこうなるかな……」

 やはり自分一人では上手くいかないことが多い。
 今も気にするなと伝えたかっただけなのに、怖がらせてしまった。 
 精一杯の笑顔も浮かべたはずなのに、それも逆効果になってしまったし。
 どうしようかと考えあぐねていると、ふいに肩に手が置かれた。
 振り返ると、夫のブラックがそこに立っていた。

「なにやら面白いことをしているみたいだね、アイラ」
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