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暁 星が宿り、縁が交わる
妻の嘆き
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拗ねてしまった。
「ヴェーラ、いい加減にしないか」
「貴方やアーテャは男性だからいいですわね。ジーニャも懐かれたようですし、えぇ、とってもよろしいことだわ」
私は未だに少し怖がられているというのにと言って夫であるヴィークトルから顔を背けるヴェーラ。そりゃあ、顔を会わせる機会が少ないのだから仕方ないだろうと告げるも、機嫌がなおる様子はない。
「あ、お母様」
「……何かしら」
声をかけてきたジナイ―ダに不機嫌丸出しで答えれば、ひぅと小さな悲鳴。ジナイ―ダの影に隠れるようにしてフェオドラがヴィーラを覗いていた。
「あ、あら、フェオドラちゃんもいたのね。怖がらせちゃってごめんなさいね」
「えっと、あの、ヴィーラ様、怖がってごめんなさい」
「元の所で酷い目に遭ってきたのでしょうからしょうがないわ。でも、少しでもおばさんに慣れてくれると嬉しいわ」
「ん、がんばる」
フェオドラの頬に手を添えれば、目を細めてフェオドラはその手にすり寄る。あの家の女の人とヴィーラは違うと今のフェオドラは認識できている。でも、どうしても、怒った時の声にあの家のことが思い出されて体が固まってしまう。そのことから、ごめんなさいと声なく呟くフェオドラ。
「いいのよ、気にしないで。ところで、おばさんに何か用事でもあったのかしら?」
顔を見合わせてフェオドラにそう尋ねれば、彼女はどうしようとジナイーダの服を引いた。
「お母様、もう少し大き目の服ってないかしら」
「あら、あるけど、まだフェオドラちゃんには大きいでしょう?」
「そうとも言えないの。今だって、少しきつそうで」
ジナイーダの言葉におやと思ったヴェーラとヴィークトルがフェオドラの体を上から下へと見る。確かに服がきつそう。でも、最初に着せていた服とサイズは変わっていないはずなのに。成長したとしたら、何故、こんなにも急にと疑問が浮かぶ。
「いいわ、とりあえず、服を用意しましょう。フェオドラちゃんも一緒にいらっしゃい」
「はい」
「あ、私も」
「えぇ、いらっしゃい。一緒に選びましょう」
ヴェーラの機嫌がなおったようで娘二人と楽しそうに衣装部屋に向かったのを見てヴィークトルはほっと一息吐いた。ただ、すぐに急激なフェオドラの成長について悩む。確か、王宮の医師の中に龍の血を研究している者がいたはず。彼ならば、何かわかるかもしれないとどうにか派遣してもらえるように要請しようと王宮へと足を向けた。
「うーん、これなんてどうかしら」
「これもいいんじゃない?」
フェオドラが連れてこられた衣装部屋には既にヴェーラやジナイーダが使用しなくなった服が沢山仕舞われていた。そこから、フェオドラの体の大きさに合った服を引っ張り出し、あれもこれもとフェオドラを着せ替えていた。されるがままのフェオドラはあわあわするだけで、どうすることも出来ない。いや、どちらかというと綺麗な服ばかり着せられて困惑しているのが正解かもしれない。
「いっその事こと、新しい服作るってのもありね」
「お母様、それはいいのだけど、もしまた大きくなったらすぐに着れなくなってしまうわ」
「それもそうね、とりあえずはここにある服で凌ぐのがいいのかもしれないわね」
「えっと、ごめんなさい?」
二人の会話を聞いて、こてんと首を傾げながらそういったフェオドラ。それにジナイーダとヴェーラは顔を見合わせると二人して違うのよと笑った。
「新しい服はまた今度の楽しみになるから、フェオドラちゃんに謝ってもらうことなんてないのよ」
「そうそう。それに私の小さな頃の服とか着てもらえると私にもこんな時期があったのねと思えるから案外楽しんでるのよ」
「あとは何より、フェオドラちゃんは可愛いから着せ甲斐があるのよね」
ヴェーラの言葉にうんうんと頷くジナイーダ。そういうものなのかなと思うフェオドラだが実際に二人はフェオドラを着せ替えて楽しんでいる。なら、いいのかなと納得することにした。
「さ、まだまだあるわよ」
「あ、そういえば、一回も着てない服もあったんじゃなかったかしら」
「それもそうね。引っ張り出しましょ」
「……え、まだ、続くの」
ウキウキと一回も袖を通すことのなかった服たちも取り出し、あーだこーだと語り合う親子に絶望、否疲れ切ったようなフェオドラの言葉は届くことはなかった。
「ヴェーラ、いい加減にしないか」
「貴方やアーテャは男性だからいいですわね。ジーニャも懐かれたようですし、えぇ、とってもよろしいことだわ」
私は未だに少し怖がられているというのにと言って夫であるヴィークトルから顔を背けるヴェーラ。そりゃあ、顔を会わせる機会が少ないのだから仕方ないだろうと告げるも、機嫌がなおる様子はない。
「あ、お母様」
「……何かしら」
声をかけてきたジナイ―ダに不機嫌丸出しで答えれば、ひぅと小さな悲鳴。ジナイ―ダの影に隠れるようにしてフェオドラがヴィーラを覗いていた。
「あ、あら、フェオドラちゃんもいたのね。怖がらせちゃってごめんなさいね」
「えっと、あの、ヴィーラ様、怖がってごめんなさい」
「元の所で酷い目に遭ってきたのでしょうからしょうがないわ。でも、少しでもおばさんに慣れてくれると嬉しいわ」
「ん、がんばる」
フェオドラの頬に手を添えれば、目を細めてフェオドラはその手にすり寄る。あの家の女の人とヴィーラは違うと今のフェオドラは認識できている。でも、どうしても、怒った時の声にあの家のことが思い出されて体が固まってしまう。そのことから、ごめんなさいと声なく呟くフェオドラ。
「いいのよ、気にしないで。ところで、おばさんに何か用事でもあったのかしら?」
顔を見合わせてフェオドラにそう尋ねれば、彼女はどうしようとジナイーダの服を引いた。
「お母様、もう少し大き目の服ってないかしら」
「あら、あるけど、まだフェオドラちゃんには大きいでしょう?」
「そうとも言えないの。今だって、少しきつそうで」
ジナイーダの言葉におやと思ったヴェーラとヴィークトルがフェオドラの体を上から下へと見る。確かに服がきつそう。でも、最初に着せていた服とサイズは変わっていないはずなのに。成長したとしたら、何故、こんなにも急にと疑問が浮かぶ。
「いいわ、とりあえず、服を用意しましょう。フェオドラちゃんも一緒にいらっしゃい」
「はい」
「あ、私も」
「えぇ、いらっしゃい。一緒に選びましょう」
ヴェーラの機嫌がなおったようで娘二人と楽しそうに衣装部屋に向かったのを見てヴィークトルはほっと一息吐いた。ただ、すぐに急激なフェオドラの成長について悩む。確か、王宮の医師の中に龍の血を研究している者がいたはず。彼ならば、何かわかるかもしれないとどうにか派遣してもらえるように要請しようと王宮へと足を向けた。
「うーん、これなんてどうかしら」
「これもいいんじゃない?」
フェオドラが連れてこられた衣装部屋には既にヴェーラやジナイーダが使用しなくなった服が沢山仕舞われていた。そこから、フェオドラの体の大きさに合った服を引っ張り出し、あれもこれもとフェオドラを着せ替えていた。されるがままのフェオドラはあわあわするだけで、どうすることも出来ない。いや、どちらかというと綺麗な服ばかり着せられて困惑しているのが正解かもしれない。
「いっその事こと、新しい服作るってのもありね」
「お母様、それはいいのだけど、もしまた大きくなったらすぐに着れなくなってしまうわ」
「それもそうね、とりあえずはここにある服で凌ぐのがいいのかもしれないわね」
「えっと、ごめんなさい?」
二人の会話を聞いて、こてんと首を傾げながらそういったフェオドラ。それにジナイーダとヴェーラは顔を見合わせると二人して違うのよと笑った。
「新しい服はまた今度の楽しみになるから、フェオドラちゃんに謝ってもらうことなんてないのよ」
「そうそう。それに私の小さな頃の服とか着てもらえると私にもこんな時期があったのねと思えるから案外楽しんでるのよ」
「あとは何より、フェオドラちゃんは可愛いから着せ甲斐があるのよね」
ヴェーラの言葉にうんうんと頷くジナイーダ。そういうものなのかなと思うフェオドラだが実際に二人はフェオドラを着せ替えて楽しんでいる。なら、いいのかなと納得することにした。
「さ、まだまだあるわよ」
「あ、そういえば、一回も着てない服もあったんじゃなかったかしら」
「それもそうね。引っ張り出しましょ」
「……え、まだ、続くの」
ウキウキと一回も袖を通すことのなかった服たちも取り出し、あーだこーだと語り合う親子に絶望、否疲れ切ったようなフェオドラの言葉は届くことはなかった。
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