上 下
24 / 72
暁 星が宿り、縁が交わる

激痛伴う成長

しおりを挟む
 目覚めは激痛と共にあった。

「あ゛ぁ……」

 痛みで声が掠れる。フェオドラはなにこれなにこれと疑問しか浮かばない。目には涙が溜まり、誰か、トゥーラ様、助けてとはくはくと息を吐き出す。あの家でボロボロになるまで魔法をぶつけられたり、蹴られたりして全身が痛いという事もあったけれど、今回のは体の中でミシミシいっている気がしていた。

「フェオドラ、入るぞ」

 痛みで涙を零しているとインナからフェオドラ様が苦しそうなのですと報告があり、アルトゥールが部屋へ飛び込んできた。フェオドラの部屋にはインナが起こしに来てくれていたのだが痛みが勝り、その存在に気づいていなかった。

「とぅーら、しゃま」
「大丈夫か、フェオドラ」

 アルトゥールの言葉にふるふると首を振るフェオドラは痛いと小さな声で訴える。

「何処が痛い?」
「ぜんぶ」
「全身が痛いのか」
「ん」

 心配そうなレッドベリルの目に優しく触れる大きな手。あぁ、なんて幸せなんだろう、きっと幸せすぎたから罰が当たってしまったのかもしれないとフェオドラはそう思いながら、目を細める。激痛の中にチリリと小さな痛みがあった気がしたが、フェオドラが口を開こうとした時にはそれはなくなっていたうえ、全身の痛みも緩和されていた。

「トゥーラ様」
「疲れが出たんだろう。もう少し休んでおけ」

 優しく頭を撫でられるとふわふわと気持ちよくなってフェオドラは眠りへと落ちていった。
 すぅすぅと立て始めた寝息を聞いて、アルトゥールはフェオドラの手をとる。指の腹で撫でるその手は子供らしかったぷくっとしていた手はすらりと細い指に、大人の手になりつつあった。

「インナ」
「はい、なんでしょう」
「フェオドラのネグリジェをもう少し大きめの、母上やジーニャくらいのサイズに変えてやってくれ」
「……かしこまりました」
「医者も呼んでおく。今は痛みを麻痺させているから大丈夫だろうが、後々また痛くなると思われる」

 対応は頼んだと言ってインナの返事を待たずして退出したアルトゥールにインナはドアに向かって了承を込めて礼をした。それからすぐにインナは大きめのサイズのネグリジェを取り寄せ、他のメイドに協力してもらいつつ、着替えをさせる。

「……成長されてる?」

 ガリガリだった体を見て、皆があれやこれやと食事やおやつを与え、子供特有のぷくぷくした体になったつい最近。盛大に別邸の使用人一同で達成をお祝いしたからインナもよく覚えている。
 それが今はどうだろうか。ぷくぷくだった体はほっそりとそれでいて出るところは出ているという女性らしい体つきになりつつあった。そして、更には身長が明らかに伸びている。
 普通の女性よりも身長があるだろうか、急激にここまで成長したのなら激痛はあってしかるべきだ。そして、内部からの激痛は想像を絶するものだろう。

「旦那様に報告しなくてはいけないわね」

 奥様には旦那様経由で報告してもらいましょうと心の中で決める。彼女に直接報告した際は恐らくヴェーラは夫の制止を振り切ってうきうきとドレスや服を作らせるに違いない。なので、彼女への報告は夫であるヴィークトルに任せるのがいい。頑張って防波堤を担ってもらおう。

「目下の問題はアルトゥール様ね」

 いい主人であるのは認めるがフェオドラに関しては眉を顰めてしまう。昨日までのように気軽に部屋に入られないようにしなければならない。アルトゥールがフェオドラを襲うことはないだろうが人間何をするかわからないものだ。最大限、警戒していてもいいだろう。

「……マルク様に協力を要請しておきましょう」

 アルトゥールにも強い執事長ならば、フェオドラの貞操も守ることができるはずだと頭のメモ帳にでかでかとメモをしておく。

「……んー」

 痛みが麻痺しているおかげかフェオドラはむにゃむにゃと言って決意を新たにしているインナの側で寝返りをうっていた。




「健康体そのものですな」

 到着した主治医はすよすよと眠るフェオドラを診断すると痛みは急激な成長によるものであると断じ、そう答えた。問題は傷み程度なので、それに対しては鎮痛剤が処方された。

「なぜ、このような急激な成長を?」
「ふーむ、申し訳ないがその点は私ではわかりませんな」

 龍の血の濃さが関係しているのであれば、その専門家に尋ねるのがよろしいかとと知っている数人の専門家の名を挙げる。

「アルトゥール様にお伝えしておきます」
「それでお願い致します。あぁ、それから、治癒をきちんとされておられるようですが、それはどなたが?」

 妹であるジナイーダが行ったといえば、主治医は渋い顔をする。できれば、専門のものに頼んで欲しかったと零し、今回の成長の件もあるため今後は週に一度は医師の診断を受けるようにと指示をする。

「お伝えしておきます」
「えぇ、よろしくお願いします」

 あらかた、健康状態をカルテに書き終えた主治医は次はいついつ参りますので伝えると何度もお忘れなきようと言って帰っていった。
 その夜、報告を受けたアルトゥールは嫌そうな顔をし、診察に関して渋ったもののマルクの説得に渋々ではあったものの頷くのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈 
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

処理中です...