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QUEST22.夜営の一幕
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ロイスは、固形燃料と簡易コンロで夕食を作り始める。風よけの板で明かりが漏れないようにするのも、冒険者としての知恵である。
「乾燥パンと干し肉を分けますね」
「あー、少し良いかな?」
保存食を配ろうとしたレベルはロイスの言葉で静止させられた。
「なんでしょう?」
「そのままじゃ味気ないでしょ。干し肉を」
「えぇ、はい」
レベルは、緊張しつつも言われるままにカチカチの塩漬け肉をロイスに手渡した。普通に食べようと思えば、塩っ辛いものを長々としゃぶるか無理やりパンと一緒に飲み物で流し込むか、するような代物だ。
ロイスは、飲み物用に沸かしたお湯に干し肉を浸ける。さらに、小瓶を取り出して中の粒や粉を振りかけ保存食に手を加える。
「それは? なんだか良い匂いですね」
「おぉ……」
レベルが問いかけ、セーラと一緒になって漂う香りを吸い込んだ。
ただの塩味のスープからは香草や塩とは違う辛い香りが漂い始めている。
「用意しておいたスパイスだね。仲間も増えてきたし、少しでも美味しい食事を冒険中にもって思ってね」
ロイスは答えた。ただし、まるで自分で考えたかのように言っているが、実はエミューに提案され手渡されたものだったりする。
そのような裏話などは、美味しい夕飯と一緒に飲み込むこととしよう。乾燥してパサパサガチガチのパンを浸せば、2倍美味しい。
「わぁ、すごく美味しいです!」
「んんん!」
「気に入っていただけて何よりだよ」
レベル達にも好評のようで、その時間で随分と男性への忌避感も緩和された気がした。
夕飯も終わり、そろそろ眠りにつこうかというころ。
「明日も早いし」「うん」「うん?」
――ジュゥゥゥゥゥゥゥンッ!
それぞれが奇妙な反応をして、そして一様にやや遠いところで立ち上った輝きに目を奪われた。ロイスは真っ先に気配を感じ取り、セーラは返事をしつつも続けて認識し、レベルは少しの間だけ二人の反応についてこれなかった。
光の柱が飛び去って空に消える。
「なッ、何事でしょう?」
「静かに。ちょっと見てくる」
ロイスは驚くレベルを制し、双眼鏡を荷物から取り出すと跳んだ。
乱立する石柱を足場に三角飛びを繰り返し、軽々と頂上へ到達する。わずかに残った光の一筋を頼りに騒ぎの起こっている座標を見つける。
「冒険者か?」
拡大された地点を見ると、どうやら何人かの人影が大型の"巨獣"と戦っているようだった。戦っていたが正解か。
すでに上半身くらいがなくなった人外の図体が転がっており、先程の光線が削り取った死体だろうと推測できる。仲間と思しき5人目の人の姿も倒れているのが見られたが、手助けの必要はなさそうである。
「何が起こってる?」
いつの間にか登ってきていたセーラが声をかけた。
ロイスが双眼鏡を覗かせて端的に言葉を付け加える。
「他のグループとブッキングしたんだろうね」
「ふーん、問題なさそうだけど」
「うん、獲物を先に取られたら仕方ないかなってとこだね。うん?」
結論としてはそれだけだが、再度双眼鏡で確認したロイスは違和感を覚えた。
偶然か?
「どうしたの?」
「うぅん、目が合ったような気がしてね。まぁ、戻ろう」
セーラに聞かれてロイスは答えた。もし言った通りだとすれば、残光の消え行く中の何百メートルもの暗闇でこちらの存在に気づいたということだ。
気の所為か、はたまたそれほど実力だということか。一番年の若そうな青年だったのに。
ロイス達は下に戻って、レベルに状況を説明した。翌日、鬼の住処を探索して"メタリングダンサー"が見つからないか遺体になっていた場合、諦めることも。
「わかりました。混乱している状態では仕方ありませんしね」
「まぁ、これももうじき問題なくなるだろうけど。君のお兄さんの手腕に期待しよう」
「はい。兄なら大丈夫です」
レベルも納得の上で、そのような答えに至った。
ちなみに言うと、マーゴットの正体は実のところハイオンの都市政務官の息子だ。ヌグイェン家がいわゆる背徳の町を管理する人の一族である。
「最高長官殿が教えてくれてなかったから、危うく恥かくところだったよ」
「フフフッ……。アリエス長官直々の執行官様に恥をかかせたら、兄の方が責められてしまいますよ」
「えー、そんな固い人間だと思われてるのー?」
などというやり取りを挟んで、また少し仲良くなることができた。
「……」
約一名、お気に召さない様子で見つめているが。
冒険者達の騒ぎが飛び火する様子もなく、その日は眠りについた。そして何事もなく一夜が過ぎ、一行は再び"メタリングダンサー"を探しを始めるのだった。
いくらかの時間を費やし鬼の住処を歩き続け、"メタリングダンサー"を見つけ倒す。物事は、そう単純な話では終わらなかった。
――。
――――。
「……」
セーラは沈黙と平静を保ちつつ考えた。なかなか厳しい戦いかも、と。
それでも兄のために勝たなければならないと、大鎌『ユールングア』を握りしめ、久しく戦闘への決意を固めて見せる。
――。
――――。
「乾燥パンと干し肉を分けますね」
「あー、少し良いかな?」
保存食を配ろうとしたレベルはロイスの言葉で静止させられた。
「なんでしょう?」
「そのままじゃ味気ないでしょ。干し肉を」
「えぇ、はい」
レベルは、緊張しつつも言われるままにカチカチの塩漬け肉をロイスに手渡した。普通に食べようと思えば、塩っ辛いものを長々としゃぶるか無理やりパンと一緒に飲み物で流し込むか、するような代物だ。
ロイスは、飲み物用に沸かしたお湯に干し肉を浸ける。さらに、小瓶を取り出して中の粒や粉を振りかけ保存食に手を加える。
「それは? なんだか良い匂いですね」
「おぉ……」
レベルが問いかけ、セーラと一緒になって漂う香りを吸い込んだ。
ただの塩味のスープからは香草や塩とは違う辛い香りが漂い始めている。
「用意しておいたスパイスだね。仲間も増えてきたし、少しでも美味しい食事を冒険中にもって思ってね」
ロイスは答えた。ただし、まるで自分で考えたかのように言っているが、実はエミューに提案され手渡されたものだったりする。
そのような裏話などは、美味しい夕飯と一緒に飲み込むこととしよう。乾燥してパサパサガチガチのパンを浸せば、2倍美味しい。
「わぁ、すごく美味しいです!」
「んんん!」
「気に入っていただけて何よりだよ」
レベル達にも好評のようで、その時間で随分と男性への忌避感も緩和された気がした。
夕飯も終わり、そろそろ眠りにつこうかというころ。
「明日も早いし」「うん」「うん?」
――ジュゥゥゥゥゥゥゥンッ!
それぞれが奇妙な反応をして、そして一様にやや遠いところで立ち上った輝きに目を奪われた。ロイスは真っ先に気配を感じ取り、セーラは返事をしつつも続けて認識し、レベルは少しの間だけ二人の反応についてこれなかった。
光の柱が飛び去って空に消える。
「なッ、何事でしょう?」
「静かに。ちょっと見てくる」
ロイスは驚くレベルを制し、双眼鏡を荷物から取り出すと跳んだ。
乱立する石柱を足場に三角飛びを繰り返し、軽々と頂上へ到達する。わずかに残った光の一筋を頼りに騒ぎの起こっている座標を見つける。
「冒険者か?」
拡大された地点を見ると、どうやら何人かの人影が大型の"巨獣"と戦っているようだった。戦っていたが正解か。
すでに上半身くらいがなくなった人外の図体が転がっており、先程の光線が削り取った死体だろうと推測できる。仲間と思しき5人目の人の姿も倒れているのが見られたが、手助けの必要はなさそうである。
「何が起こってる?」
いつの間にか登ってきていたセーラが声をかけた。
ロイスが双眼鏡を覗かせて端的に言葉を付け加える。
「他のグループとブッキングしたんだろうね」
「ふーん、問題なさそうだけど」
「うん、獲物を先に取られたら仕方ないかなってとこだね。うん?」
結論としてはそれだけだが、再度双眼鏡で確認したロイスは違和感を覚えた。
偶然か?
「どうしたの?」
「うぅん、目が合ったような気がしてね。まぁ、戻ろう」
セーラに聞かれてロイスは答えた。もし言った通りだとすれば、残光の消え行く中の何百メートルもの暗闇でこちらの存在に気づいたということだ。
気の所為か、はたまたそれほど実力だということか。一番年の若そうな青年だったのに。
ロイス達は下に戻って、レベルに状況を説明した。翌日、鬼の住処を探索して"メタリングダンサー"が見つからないか遺体になっていた場合、諦めることも。
「わかりました。混乱している状態では仕方ありませんしね」
「まぁ、これももうじき問題なくなるだろうけど。君のお兄さんの手腕に期待しよう」
「はい。兄なら大丈夫です」
レベルも納得の上で、そのような答えに至った。
ちなみに言うと、マーゴットの正体は実のところハイオンの都市政務官の息子だ。ヌグイェン家がいわゆる背徳の町を管理する人の一族である。
「最高長官殿が教えてくれてなかったから、危うく恥かくところだったよ」
「フフフッ……。アリエス長官直々の執行官様に恥をかかせたら、兄の方が責められてしまいますよ」
「えー、そんな固い人間だと思われてるのー?」
などというやり取りを挟んで、また少し仲良くなることができた。
「……」
約一名、お気に召さない様子で見つめているが。
冒険者達の騒ぎが飛び火する様子もなく、その日は眠りについた。そして何事もなく一夜が過ぎ、一行は再び"メタリングダンサー"を探しを始めるのだった。
いくらかの時間を費やし鬼の住処を歩き続け、"メタリングダンサー"を見つけ倒す。物事は、そう単純な話では終わらなかった。
――。
――――。
「……」
セーラは沈黙と平静を保ちつつ考えた。なかなか厳しい戦いかも、と。
それでも兄のために勝たなければならないと、大鎌『ユールングア』を握りしめ、久しく戦闘への決意を固めて見せる。
――。
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