底辺冒険者は不死身の不正ランカー取締官でした。S級へのつまずかない昇り方教えます

AAKI

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QUEST21.復帰戦

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 なにせ、二人の距離はテーブルを一つを挟んだ対面。ではなく、更に一つ分向こうの対面側である。十歩ほどの距離はあるだろうか。

 これが、兄マーゴットを除く男性に対するレベルの心の距離である。

「真っ当に仕事がこなせるかどうか怪しいねぇ」

「す、すみません……」

 どうしたものかとロイスは苦笑を浮かべ、彼を困らせたことにレベルが謝る。何度か行ったやり取りだった。

 女性ばかりでパーティーを組ませればなんとかなるだろうが、それではロイスが教えることができなくなる。セーラは誰かに説明するのが得意でないだろうし、ミランダは――言ってはなんだが――今のレベルにさえ劣っていると思われる。

「謝られても困る」

「え、あ、す……えっと」

 何度も謝罪されてはバツが悪いので、ロイスはレベルの謝罪を封じておいた。やや困惑している様子だが、意識せずにやってしまうもののようだ。

 とりあえず、男性に慣れるところからだろう。

「散歩ぐらいの気持ちで、少しクエストに出かけてみようか」

「あっ、はい」

「一応、これ以上の降格処分ペナルティも阻止したいしね」

「そうですね」

 そのような感じで、ロイスとレベルは簡単な依頼を受けることにした。A級をいきなりリハビリとしてこなすにはブランクが大きい気もしたが、自分がいれば大丈夫だろうとロイスは高をくくった。

 二人っきりではセーラの態度も含めて不安であるため、連れて行くことにする。ミランダはというと、

「義手のジョイントが不安だからって、粘土草を採りのクエストに行きましたよ」

 受付カウンターでテレサに行方を訪ねたところ、そのように返ってきた。

「そうか。ミランダは休みだってさ」

 ささいな依頼にはつき合わせまいとしたのだろう。妙に律儀だと思いつつ、ロイスは納得してレベルに向き直った。

「仕方ないし三人で行こう」

「それは残念です。今後、ごゆっくり挨拶したいと思います」

 ロイスが促すと、レベルも言葉通りの表情をして応じた。

 セーラの入った袋も、わずかに手を外に出してレベルへと挨拶を行う。

「よろしくおねがいします」

 セーラに対しては気安さもあるのか、なんとも言えない愛らしい仕草が気に入ったようで笑顔を浮かべて見せた。

 ボパーリア人に対する意識も悪いものではなく、良い仲間になれるかもと安心する。

 さてさて、三人がピクニック気分で向かったのはハイオンから一日ほどの距離にある荒野だ。そう、鬼の住処と呼ばれる場所である。

 目標は、"メタリングダンサー"という"巨獣"。

「えーと、"メタリングダンサー"ですか?」

「不安?」

 レベルが依頼書を眺めながら聞いた。ロイスも、これならば大丈夫だろうと選んだだけなので、確認し直した。

「いえ、情報は頭に入っています。戦い方さえ知っていれば、よほどのことでは失敗しないでしょう」

 レベルはブランクこそありながら、元S級の誇りは捨てていないのかはっきりと答えた。

 とはいえ、確かに"メタリングダンサー"の性質を考えればレベルの言う通りでもある。詳しくは出会った際にわかるというもの。

「わかった。作戦はシンプルに、罠で引っ掛けて叩く」

「それで大丈夫です」

 作戦会議が終了したところで、三人を載せた馬車は鬼の住処へと向かって走り出した。

 近づくにつれて、やや違和感を覚え始めるロイス達。

「おかしいな」

「うん」

「静かすぎる気はしますが……」

 皆、近しい感想を述べた。

 大型の"巨獣"である"メタリングダンサー"が目撃されたにしては、鬼の住処たる岩石地帯が静寂に包まれている。レベルとしてはまだブランクがあるのか、完全には違和感を信じられない様子だ。

「とりあえずここで降りよう。エミュー、ありがとう」

「勿体ないお言葉です! では、ご無事で。ヌグイェン様も」

 ロイスは、御者を務めてくれたエミューにお礼を言って、馬車から離れることにした。

「行ってきます。また後日、お会いできることをアリ……祈っています」

 レベルも返礼をした。ついついアリス神に祈りそうになったが。

 ボパーリア人のエミューに対して遠慮したのだが、彼女はさして気にした様子もなく帰路に向かって馬車を走らせる。

 見送る時間もあまり取らず、三人は慎重に歩き石柱の森へと踏み入れていった。

 乱立する大小様々な塔が視界をさえぎり、慣れないと砂に石の混ざった地面に足を取られそうになる。吹き付ける風は熱くも荒涼とした世界が、背筋に冷や汗を伝わらせる。

「思った以上にピリピリしてるなぁ」

「姿は見えずとも気配は……」

「肌が焼けてしまいそうです……」

 ロイスやセーラはまだ、突き刺さる陽光を感じるだけだ。久しぶりのクエストでこれほどのプレッシャーを受け、前へ進めるレベルの精神力は流石と言えた。

 なおも歩が緩慢になるのは、三人の生存本能がそうさせるからだろうか。

 到着してからどれほどか歩いた。体感では半日のようにも感じるが、実際には数時間。漸く日が暮れ始め、レベルも意図せずため息を漏らす。

「そろそろキャンプを張ろうか」

「夜に探し回っても無駄」

「ふぅ。そうですね」

 岩の巨大円錐が傾いた狭い地点を見つけ、ロイスが逗留地点に選んだ。ここならば頭上からの奇襲も、大型"巨獣"からの強襲も受けづらい。それに、"メタリングダンサー"が夜中に行動する可能性は低いからだ。
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