22 / 38
QUEST21.復帰戦
しおりを挟む
なにせ、二人の距離はテーブルを一つを挟んだ対面。ではなく、更に一つ分向こうの対面側である。十歩ほどの距離はあるだろうか。
これが、兄マーゴットを除く男性に対するレベルの心の距離である。
「真っ当に仕事がこなせるかどうか怪しいねぇ」
「す、すみません……」
どうしたものかとロイスは苦笑を浮かべ、彼を困らせたことにレベルが謝る。何度か行ったやり取りだった。
女性ばかりでパーティーを組ませればなんとかなるだろうが、それではロイスが教えることができなくなる。セーラは誰かに説明するのが得意でないだろうし、ミランダは――言ってはなんだが――今のレベルにさえ劣っていると思われる。
「謝られても困る」
「え、あ、す……えっと」
何度も謝罪されてはバツが悪いので、ロイスはレベルの謝罪を封じておいた。やや困惑している様子だが、意識せずにやってしまうもののようだ。
とりあえず、男性に慣れるところからだろう。
「散歩ぐらいの気持ちで、少しクエストに出かけてみようか」
「あっ、はい」
「一応、これ以上の降格処分も阻止したいしね」
「そうですね」
そのような感じで、ロイスとレベルは簡単な依頼を受けることにした。A級をいきなりリハビリとしてこなすにはブランクが大きい気もしたが、自分がいれば大丈夫だろうとロイスは高をくくった。
二人っきりではセーラの態度も含めて不安であるため、連れて行くことにする。ミランダはというと、
「義手のジョイントが不安だからって、粘土草を採りのクエストに行きましたよ」
受付カウンターでテレサに行方を訪ねたところ、そのように返ってきた。
「そうか。ミランダは休みだってさ」
ささいな依頼にはつき合わせまいとしたのだろう。妙に律儀だと思いつつ、ロイスは納得してレベルに向き直った。
「仕方ないし三人で行こう」
「それは残念です。今後、ごゆっくり挨拶したいと思います」
ロイスが促すと、レベルも言葉通りの表情をして応じた。
セーラの入った袋も、わずかに手を外に出してレベルへと挨拶を行う。
「よろしくおねがいします」
セーラに対しては気安さもあるのか、なんとも言えない愛らしい仕草が気に入ったようで笑顔を浮かべて見せた。
ボパーリア人に対する意識も悪いものではなく、良い仲間になれるかもと安心する。
さてさて、三人がピクニック気分で向かったのはハイオンから一日ほどの距離にある荒野だ。そう、鬼の住処と呼ばれる場所である。
目標は、"メタリングダンサー"という"巨獣"。
「えーと、"メタリングダンサー"ですか?」
「不安?」
レベルが依頼書を眺めながら聞いた。ロイスも、これならば大丈夫だろうと選んだだけなので、確認し直した。
「いえ、情報は頭に入っています。戦い方さえ知っていれば、よほどのことでは失敗しないでしょう」
レベルはブランクこそありながら、元S級の誇りは捨てていないのかはっきりと答えた。
とはいえ、確かに"メタリングダンサー"の性質を考えればレベルの言う通りでもある。詳しくは出会った際にわかるというもの。
「わかった。作戦はシンプルに、罠で引っ掛けて叩く」
「それで大丈夫です」
作戦会議が終了したところで、三人を載せた馬車は鬼の住処へと向かって走り出した。
近づくにつれて、やや違和感を覚え始めるロイス達。
「おかしいな」
「うん」
「静かすぎる気はしますが……」
皆、近しい感想を述べた。
大型の"巨獣"である"メタリングダンサー"が目撃されたにしては、鬼の住処たる岩石地帯が静寂に包まれている。レベルとしてはまだブランクがあるのか、完全には違和感を信じられない様子だ。
「とりあえずここで降りよう。エミュー、ありがとう」
「勿体ないお言葉です! では、ご無事で。ヌグイェン様も」
ロイスは、御者を務めてくれたエミューにお礼を言って、馬車から離れることにした。
「行ってきます。また後日、お会いできることをアリ……祈っています」
レベルも返礼をした。ついついアリス神に祈りそうになったが。
ボパーリア人のエミューに対して遠慮したのだが、彼女はさして気にした様子もなく帰路に向かって馬車を走らせる。
見送る時間もあまり取らず、三人は慎重に歩き石柱の森へと踏み入れていった。
乱立する大小様々な塔が視界を遮り、慣れないと砂に石の混ざった地面に足を取られそうになる。吹き付ける風は熱くも荒涼とした世界が、背筋に冷や汗を伝わらせる。
「思った以上にピリピリしてるなぁ」
「姿は見えずとも気配は……」
「肌が焼けてしまいそうです……」
ロイスやセーラはまだ、突き刺さる陽光を感じるだけだ。久しぶりのクエストでこれほどのプレッシャーを受け、前へ進めるレベルの精神力は流石と言えた。
なおも歩が緩慢になるのは、三人の生存本能がそうさせるからだろうか。
到着してからどれほどか歩いた。体感では半日のようにも感じるが、実際には数時間。漸く日が暮れ始め、レベルも意図せずため息を漏らす。
「そろそろキャンプを張ろうか」
「夜に探し回っても無駄」
「ふぅ。そうですね」
岩の巨大円錐が傾いた狭い地点を見つけ、ロイスが逗留地点に選んだ。ここならば頭上からの奇襲も、大型"巨獣"からの強襲も受けづらい。それに、"メタリングダンサー"が夜中に行動する可能性は低いからだ。
これが、兄マーゴットを除く男性に対するレベルの心の距離である。
「真っ当に仕事がこなせるかどうか怪しいねぇ」
「す、すみません……」
どうしたものかとロイスは苦笑を浮かべ、彼を困らせたことにレベルが謝る。何度か行ったやり取りだった。
女性ばかりでパーティーを組ませればなんとかなるだろうが、それではロイスが教えることができなくなる。セーラは誰かに説明するのが得意でないだろうし、ミランダは――言ってはなんだが――今のレベルにさえ劣っていると思われる。
「謝られても困る」
「え、あ、す……えっと」
何度も謝罪されてはバツが悪いので、ロイスはレベルの謝罪を封じておいた。やや困惑している様子だが、意識せずにやってしまうもののようだ。
とりあえず、男性に慣れるところからだろう。
「散歩ぐらいの気持ちで、少しクエストに出かけてみようか」
「あっ、はい」
「一応、これ以上の降格処分も阻止したいしね」
「そうですね」
そのような感じで、ロイスとレベルは簡単な依頼を受けることにした。A級をいきなりリハビリとしてこなすにはブランクが大きい気もしたが、自分がいれば大丈夫だろうとロイスは高をくくった。
二人っきりではセーラの態度も含めて不安であるため、連れて行くことにする。ミランダはというと、
「義手のジョイントが不安だからって、粘土草を採りのクエストに行きましたよ」
受付カウンターでテレサに行方を訪ねたところ、そのように返ってきた。
「そうか。ミランダは休みだってさ」
ささいな依頼にはつき合わせまいとしたのだろう。妙に律儀だと思いつつ、ロイスは納得してレベルに向き直った。
「仕方ないし三人で行こう」
「それは残念です。今後、ごゆっくり挨拶したいと思います」
ロイスが促すと、レベルも言葉通りの表情をして応じた。
セーラの入った袋も、わずかに手を外に出してレベルへと挨拶を行う。
「よろしくおねがいします」
セーラに対しては気安さもあるのか、なんとも言えない愛らしい仕草が気に入ったようで笑顔を浮かべて見せた。
ボパーリア人に対する意識も悪いものではなく、良い仲間になれるかもと安心する。
さてさて、三人がピクニック気分で向かったのはハイオンから一日ほどの距離にある荒野だ。そう、鬼の住処と呼ばれる場所である。
目標は、"メタリングダンサー"という"巨獣"。
「えーと、"メタリングダンサー"ですか?」
「不安?」
レベルが依頼書を眺めながら聞いた。ロイスも、これならば大丈夫だろうと選んだだけなので、確認し直した。
「いえ、情報は頭に入っています。戦い方さえ知っていれば、よほどのことでは失敗しないでしょう」
レベルはブランクこそありながら、元S級の誇りは捨てていないのかはっきりと答えた。
とはいえ、確かに"メタリングダンサー"の性質を考えればレベルの言う通りでもある。詳しくは出会った際にわかるというもの。
「わかった。作戦はシンプルに、罠で引っ掛けて叩く」
「それで大丈夫です」
作戦会議が終了したところで、三人を載せた馬車は鬼の住処へと向かって走り出した。
近づくにつれて、やや違和感を覚え始めるロイス達。
「おかしいな」
「うん」
「静かすぎる気はしますが……」
皆、近しい感想を述べた。
大型の"巨獣"である"メタリングダンサー"が目撃されたにしては、鬼の住処たる岩石地帯が静寂に包まれている。レベルとしてはまだブランクがあるのか、完全には違和感を信じられない様子だ。
「とりあえずここで降りよう。エミュー、ありがとう」
「勿体ないお言葉です! では、ご無事で。ヌグイェン様も」
ロイスは、御者を務めてくれたエミューにお礼を言って、馬車から離れることにした。
「行ってきます。また後日、お会いできることをアリ……祈っています」
レベルも返礼をした。ついついアリス神に祈りそうになったが。
ボパーリア人のエミューに対して遠慮したのだが、彼女はさして気にした様子もなく帰路に向かって馬車を走らせる。
見送る時間もあまり取らず、三人は慎重に歩き石柱の森へと踏み入れていった。
乱立する大小様々な塔が視界を遮り、慣れないと砂に石の混ざった地面に足を取られそうになる。吹き付ける風は熱くも荒涼とした世界が、背筋に冷や汗を伝わらせる。
「思った以上にピリピリしてるなぁ」
「姿は見えずとも気配は……」
「肌が焼けてしまいそうです……」
ロイスやセーラはまだ、突き刺さる陽光を感じるだけだ。久しぶりのクエストでこれほどのプレッシャーを受け、前へ進めるレベルの精神力は流石と言えた。
なおも歩が緩慢になるのは、三人の生存本能がそうさせるからだろうか。
到着してからどれほどか歩いた。体感では半日のようにも感じるが、実際には数時間。漸く日が暮れ始め、レベルも意図せずため息を漏らす。
「そろそろキャンプを張ろうか」
「夜に探し回っても無駄」
「ふぅ。そうですね」
岩の巨大円錐が傾いた狭い地点を見つけ、ロイスが逗留地点に選んだ。ここならば頭上からの奇襲も、大型"巨獣"からの強襲も受けづらい。それに、"メタリングダンサー"が夜中に行動する可能性は低いからだ。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる