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QUEST23.荒野を割る者
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一夜明けて、朝食を取る。干し肉を溶かしたスープと柔らかい肉を挟んだ乾パンに特製のタレをかけた、なかなかに美味な朝食だった。
「クエスト中にこのような美味しい食事が楽しめるなんて、ロイスさんは流石です」
「あ、うん、どーいたしまして」
レベルに褒められ、ロイスは目を逸しながら誤魔化すのだった。
「ススー」
セーラなど、本音を理解してか静かにスープをすする。これまでにないほど迷っているらしく、表情がわずかに動いた。
レベルのことは嫌いではないが、まだ実力を認めていないがゆえに兄と仲睦まじくしているのが気に入らない。いや、ロイスの態度から傾きを感じやきもきしている。
「どうかしたか、セーラ?」
「なんでもない」
ロイスが聞くも、セーラの答えはぞんざいなものだった。心情はわからずとも、機嫌があまりよろしくないのはわかるようだ。
兄妹でこれはいささか近くて遠い気もするが。
「フフッ」
そんな様子を眺めていたレベルが、何がおかしいのか笑いを漏らした。
「?」
ロイスは詳しいことがわからず首をひねった。
そうこうしているうちに朝食を終え、三人は動き始める。ちょうど早朝の冷えも収まり、"メタリングダンサー"も動き始める頃だからだ。
そしてちょうど、向こうも朝食を求めてか姿を表したところである。
「良いタイミングだね」
ロイスは岩山の上まで来て、ソレを見つけて言った。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ。
――ギュギュルギュー!
目的の"巨獣"は、微弱な地響きと鳴き声めいた音声を立てて起き上がる。岩に見せかけた口部がパックリと4つに広がり、次に砂に埋もれていたカサが浮上する。最後に、カサに付属しているのかいないのかわからないような平たい流線型の足が姿を表した。
一言で言えば、不気味な鋭い口を持つクラゲだろう。海で漂っている透明だったりする生物だ。
「いつ見ても気味が悪いですね……」
レベルがボヤいた。同意見だ。
いくら見慣れているとは言え、"メタリングダンサー"は見た目がブヨブヨと波打っており奇妙な模様がわずかに光を放つ。気持ち悪い見た目に反して美しさを併せ持つ。
「さて、いつまでも見つめていたって始まらない。レベルとボクで撹乱、セーラは罠をお願い」
「わかりました」
「うん」
ロイスは即座に作戦を指示して、ほぼ予定していた通り罠にかけようとした。ブッキングした冒険者達と鉢合わせないとも限らないからだ。
"メタリングダンサー"は目の前――たぶん――を走り回っている二人を、鬱陶しいとばかり追いかけ始める。捕食でないと断じれるのは、カサの頂上に開いている口ではなく流線型の足を飛翔させているからである。
確実に意思を持って、踊るかのように回り、飛び、襲いかかる。
ロイスとレベルは二手に分かれて岩場を走り回るが、一人あたり4~5枚の足と追いかけっこしなければならない。
「レベル、大丈夫ッ?」
「は、はい! なん、とか……クッ!」
ロイスはまだ余裕を保ちつつ、レベルの状況を確認した。すると、ブランクのせいか"メタリングダンサー"の足にやや追いつかれていた。
命を切り落としにかかる鋭い突進を、地面を転がり辛うじて回避し岩陰へと身を隠す。が、一息つく間もなく迂回してきた足に挟み撃ちにされてしまった。
"メタリングダンサー"から見えていない場所のはずで、明らかに足それぞれに意識がある。
「チッ!」
短剣を引き抜き、足を切り落としにかかろうとした。硬質の足にかまって武器を鈍らにしたくはなかったが、レベルを助けないわけにもいかなかった。
ロイスが動き出そうとしたところで、先に異変を伝えるのは"メタリングダンサー"である。
――ギュンギュギュゥ!?
奇妙な鳴き声を上げた"巨獣"は、果たして砂埃の向こうに何を見ているのか。
ロイスは、統率の乱れた足が突進してくるのを蹴りつけ跳躍し躱す。見事に4枚の板が地面に突き刺さり、勢いに乗じて砂埃へと飛ぶ。
「見えた! フッ」
視界が晴れたところで、ロイスは状況を確認して言った。そして、"メタリングダンサー"の反応の理由を知り口角を釣り上げた。
「ぐぐぐ……」
レベルは、ギリギリのところで踏みとどまっていた。
足下に蹴り落とした飛翔板を敷き、もう片足でも一枚を抑え、両腕を大きく広げて残る二枚を掴み取っている。片足ながらも、動こうとしている"メタリングダンサー"の足に乗っかりバランスをとっている。
特筆すべきは、レベルの頭部から生えている縦に割った円錐形の耳と、腰とお尻の間から伸びたフサフサの尾だろうか。動物と融合したかのように黄金色の体毛も生えている。
これがレベルの"ギフト"【ブロッサム】だ。
純粋なパワーのぶつかり合いのせいか、両の手と板の間で火花が散っているようにもみえる.
「一つ受け持つ!」
「!」
"ギフト"により変身して身体能力を上げているとは言え、いつまでも持たないと判断したロイス。発した一言だけで、レベルも意図に気づき脚の力を緩めた。
瞬間、ロイスが一枚を蹴り飛ばし、レベルが掴んでいた二枚を投げ飛ばす。
「うりゃ!」
「はぁぁぁぁぁあぁぁぁッ!」
「クエスト中にこのような美味しい食事が楽しめるなんて、ロイスさんは流石です」
「あ、うん、どーいたしまして」
レベルに褒められ、ロイスは目を逸しながら誤魔化すのだった。
「ススー」
セーラなど、本音を理解してか静かにスープをすする。これまでにないほど迷っているらしく、表情がわずかに動いた。
レベルのことは嫌いではないが、まだ実力を認めていないがゆえに兄と仲睦まじくしているのが気に入らない。いや、ロイスの態度から傾きを感じやきもきしている。
「どうかしたか、セーラ?」
「なんでもない」
ロイスが聞くも、セーラの答えはぞんざいなものだった。心情はわからずとも、機嫌があまりよろしくないのはわかるようだ。
兄妹でこれはいささか近くて遠い気もするが。
「フフッ」
そんな様子を眺めていたレベルが、何がおかしいのか笑いを漏らした。
「?」
ロイスは詳しいことがわからず首をひねった。
そうこうしているうちに朝食を終え、三人は動き始める。ちょうど早朝の冷えも収まり、"メタリングダンサー"も動き始める頃だからだ。
そしてちょうど、向こうも朝食を求めてか姿を表したところである。
「良いタイミングだね」
ロイスは岩山の上まで来て、ソレを見つけて言った。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ。
――ギュギュルギュー!
目的の"巨獣"は、微弱な地響きと鳴き声めいた音声を立てて起き上がる。岩に見せかけた口部がパックリと4つに広がり、次に砂に埋もれていたカサが浮上する。最後に、カサに付属しているのかいないのかわからないような平たい流線型の足が姿を表した。
一言で言えば、不気味な鋭い口を持つクラゲだろう。海で漂っている透明だったりする生物だ。
「いつ見ても気味が悪いですね……」
レベルがボヤいた。同意見だ。
いくら見慣れているとは言え、"メタリングダンサー"は見た目がブヨブヨと波打っており奇妙な模様がわずかに光を放つ。気持ち悪い見た目に反して美しさを併せ持つ。
「さて、いつまでも見つめていたって始まらない。レベルとボクで撹乱、セーラは罠をお願い」
「わかりました」
「うん」
ロイスは即座に作戦を指示して、ほぼ予定していた通り罠にかけようとした。ブッキングした冒険者達と鉢合わせないとも限らないからだ。
"メタリングダンサー"は目の前――たぶん――を走り回っている二人を、鬱陶しいとばかり追いかけ始める。捕食でないと断じれるのは、カサの頂上に開いている口ではなく流線型の足を飛翔させているからである。
確実に意思を持って、踊るかのように回り、飛び、襲いかかる。
ロイスとレベルは二手に分かれて岩場を走り回るが、一人あたり4~5枚の足と追いかけっこしなければならない。
「レベル、大丈夫ッ?」
「は、はい! なん、とか……クッ!」
ロイスはまだ余裕を保ちつつ、レベルの状況を確認した。すると、ブランクのせいか"メタリングダンサー"の足にやや追いつかれていた。
命を切り落としにかかる鋭い突進を、地面を転がり辛うじて回避し岩陰へと身を隠す。が、一息つく間もなく迂回してきた足に挟み撃ちにされてしまった。
"メタリングダンサー"から見えていない場所のはずで、明らかに足それぞれに意識がある。
「チッ!」
短剣を引き抜き、足を切り落としにかかろうとした。硬質の足にかまって武器を鈍らにしたくはなかったが、レベルを助けないわけにもいかなかった。
ロイスが動き出そうとしたところで、先に異変を伝えるのは"メタリングダンサー"である。
――ギュンギュギュゥ!?
奇妙な鳴き声を上げた"巨獣"は、果たして砂埃の向こうに何を見ているのか。
ロイスは、統率の乱れた足が突進してくるのを蹴りつけ跳躍し躱す。見事に4枚の板が地面に突き刺さり、勢いに乗じて砂埃へと飛ぶ。
「見えた! フッ」
視界が晴れたところで、ロイスは状況を確認して言った。そして、"メタリングダンサー"の反応の理由を知り口角を釣り上げた。
「ぐぐぐ……」
レベルは、ギリギリのところで踏みとどまっていた。
足下に蹴り落とした飛翔板を敷き、もう片足でも一枚を抑え、両腕を大きく広げて残る二枚を掴み取っている。片足ながらも、動こうとしている"メタリングダンサー"の足に乗っかりバランスをとっている。
特筆すべきは、レベルの頭部から生えている縦に割った円錐形の耳と、腰とお尻の間から伸びたフサフサの尾だろうか。動物と融合したかのように黄金色の体毛も生えている。
これがレベルの"ギフト"【ブロッサム】だ。
純粋なパワーのぶつかり合いのせいか、両の手と板の間で火花が散っているようにもみえる.
「一つ受け持つ!」
「!」
"ギフト"により変身して身体能力を上げているとは言え、いつまでも持たないと判断したロイス。発した一言だけで、レベルも意図に気づき脚の力を緩めた。
瞬間、ロイスが一枚を蹴り飛ばし、レベルが掴んでいた二枚を投げ飛ばす。
「うりゃ!」
「はぁぁぁぁぁあぁぁぁッ!」
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