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第2部 第6章 神罰の下るとき -平和-

第131話 みなさんのお陰で、この国は救われるのです

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「その話、すべて誠か? あまりにも良く出来た話に聞こえるが」

 おれたちは通信魔導器で、これまでの経緯をセレスタン王に報告していた。

 セレスタン王も通信を介して会談に参加するため待機してくれていたのだが、ノエルの魔力量でも長時間の通信はできない。そのため、会談がある程度まとまってから参加する予定だった。

 それが思いがけない教皇の死によって、予定変更となっている。

「すべて事実です。目撃者も多数います」

「罷免されたのちに、落雷を受けて死亡……。しかも多くの人々がいる中で、被害を受けたのは教皇ただひとり、とはな……」

「法衣に金属装飾がついているのに雨の中高所に立ったせいで、落雷が誘発されたのだと考えています。被害が他に出なかったのは、人々が電撃耐性のある新素材生地の雨具を着用していたからだとも……」

「お前たちの物作りがあればこその結果とも言えるか。しかし、運命をそう導いたのが神だと言われたら信じられる」

「はい。おれも正直なところ、誰かの――それこそ神の意志のようなものを感じました」

「……その後、聖女たちは?」

「聖女様たちは、サイアム枢機卿を始めとする反教皇派を大急ぎでまとめています。聖勇者同盟もそれに協力しています。取り急ぎ休戦協定を結び、のちに正式に平和条約を結ぶ意向のようです」

「うむ。諸外国には、リブリス教皇の政策から顛末まで、隠し立てなく喧伝すると良いだろう。近年の暴走は目に余るものでな、諸国はスートリア神聖国の民に同情的であった。聖女たち憂国の徒がやつを罷免し、神罰によって締めくくられたことは大いに歓迎されることだろう」

「わかりました。そのように伝えておきます」

「伝えることはまだあるぞ。後ほど、聖女たちにも話すつもりであるが、この終戦についてはメイクリエ王国が仲介役を引き受ける。賠償についても、我が国が一時的に肩代わりをしよう」

「いいのですか?」

「良い。負担を背負わせ、発展を妨げる必要はない。今後は共に、新素材産業を発展させていくのだ。十年、二十年かけて返済しきる頃には、良き交易相手となっていよう」

「わかりました。聖女様たちも喜ぶことでしょう」

「お前たちも、よくやってくれた。今回の働きでスートリアはもちろん、ロハンドールにも恩を売ることができる。今後、我が国の国際的な地位はさらに高まるだろう」

 それを聞いて、サフラン王女は少しばかり唇を尖らせる。

「結局は、自国の利益のためですの……?」

 通信魔導器の向こう側で、セレスタン王の穏やかな笑い声が聞こえた。

「そう言うなサフラン。大切なことだ。国威が高まれば、意を通しやすくなる。これはたとえるなら、お前たちが助けたいと望む者がいたとき、一緒に手伝ってもらうよう頼める相手が増えるということなのだ」

 サフラン王女はきょとんと目を丸くする。

「先日報告にあった、モリアス鉱山の新鉱石。活用法が見つかった以上、ロハンドールは独占したがるだろうが、それに異を唱え、交渉することもできる」

「父上……では……」

「うむ。メイクリエ王国はさらに義肢専門の医院を設立する。その目的のため、モリアス鋼を使用できるようロハンドールと話をつけよう。今回の戦傷者のため、出資も我が国のみでいいと言えば、断れはすまい」

「それは……それはとても良いことです。国威や外交の意味が、ようやくわかってまいりましたわ」

「これからも学ぶことだ、サフラン。期待しているぞ」


   ◇


 セレスタン王への報告を終えたおれたちは、聖女セシリーたちが落ち着いた頃に、メイクリエ王国の意向を伝えた。

「ありがとうございます、みなさん……! 本当にありがとうございます! みなさんのお陰で、この国は救われるのです!」

 セシリーは瞳を潤ませながら、おれたちひとりひとりの手を取っていく。

 スートリア教の象徴たる聖女にそうされることは非常に栄誉あることだ。

「本当なら、然るべき式典において褒章を授けるべきなのですが……」

「お気になさらず。今はこの国が生まれ変わる大事なときです。おれたちのことなんて、後回しで充分ですよ」

 おれが答えると、ノエルも前に出て、ひょいとセシリーの顔を覗き込む。

「そうそう。アタシたちにとっては、いつもどおりのことをしてただけだし」

「いつもどおり、ですか?」

 ソフィアは穏やかに微笑む。

「はい。物作りです」

「むしろ好き勝手にやっていたところもあり、ご迷惑をかけたかもしれません」

 頭を下げるアリシアに、セシリーは慌てる。

「迷惑だなんてとんでもないです! 素晴らしいおこないにご一緒できて、とても有意義でした。感謝しかありません」

「わたくしも、聖女様とご一緒できてとても嬉しかったですわ」

 サフラン王女も本当に嬉しそうに聖女の手を握る。

「……この場にいないエルウッドさんやラウラさん、バーンさんにも感謝をお伝えしたいのですが、すぐには会いに行けそうにありません。ひと足先に行かれるなら、よろしくお伝え下さい」

「んー? なになに、聖女様はなんて伝えて欲しいの~? バーンのこと好きだって言っておいたほうがいい?」

「えっ!?」

 セシリーはにわかに顔を赤らめる。

「聖女様、ノエルに任せると本当に言いかねない。あとで会ったときに大変だから、伝えたいことは自分で伝えたほうがいい」

 笑いながら言ってやると、セシリーは、小さくこくこくと頷く。

「わ、わかりました。そもそも、感謝の気持ちを伝言するだなんて失礼でした。時間がかかっても、私が直接伝えに行きます」

「うん、それがいい! じゃあじゃあ、せっかくだし聖女様、一緒にごはんにしない? アタシもう、通信で魔力使いすぎちゃってお腹ペコペコでさぁ~」

 そうしてささやかな食事会の中、おれたちは改めて、スートリア神聖国の門出を祝うのだった。
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