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第1部 第5章 最高の仲間たち -製造準備-
第55話 番外編⑧ 無知なる者の投獄、そして
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「こいつが本当に、あの剛腕のジェイクか?」
「この小太りの汚いやつが? まさかだろ、元はS級パーティのリーダーのはずだろ」
ずかずかと店先にやってきた冒険者たちは、ジェイクを見て次々に失望を口にする。
意に介さず、ジェイクは床に座り込んだまま酒を煽る。
店には――かつては店だった建物には、もう商品はない。商売をする理由も気力も失い、すべて借金の返済に売り払った。
今はその余った金で、酒を飲むだけだった。筋力は衰え、ぶくぶく太るばかり。
「おい、あんた。『フライヤーズ』のリーダー、ジェイクか?」
「ああ? 『フライヤーズ』なら解散したぜ……。残ったのは俺だけだが、なんか用かよ?」
「やっぱりお前がジェイクなのか……。お前を逮捕するよう依頼を受けてきた。大人しくついてこい。さもなければ……」
「さもなけりゃ、どうすんだ? あぁ?」
冒険者たちは武器に手をかける。随分といい装備だ。メイクリエ製かもしれない。
「力づくだ。その場合は殺害も許可されてる」
「けひゃひゃひゃひゃ! そりゃ敵わねえ、降参だ、降参」
ジェイクはゆっくりと立ち上がり、両手を頭の後ろにやって冒険者たちに従った。
「なんだ……。こんなあっさり……」
「凄え装備を持ってるって聞いてたから、備えてきたってのに」
ぼやく冒険者たちに連れられて店を出ると、待機していた他の冒険者が数人いた。そして、彼らに指示を出していたであろう、ギルド職員のバネッサも。
「よお、バネッサ。俺ぁ、なんの罪で捕まったんだぁ?」
「シオンの殺害容疑と、彼の先天的超常技能を奪った罪よ」
「へえ、エルウッドがたれこんだのか? 証拠もねえのによ」
「エルウッドは関係ないわ。でも証拠ならある」
「そうかい。まあ、どうでもいいわ。どうせ、なんにも変わりゃしねえんだからよぉ」
「ジェイク……。わかってると思うけど、あなたのやったことは重罪よ。たぶん――」
「わかってるよ、俺ぁ処刑されんだろ。そりゃいいぜ、あいつにもう一度会えるってわけだ」
ジェイクはそのまま投獄された。
一応は裁判があるというが、判決は火を見るより明らかだ。ジェイクは実質的に死刑囚として牢獄に繋がれることになる。
暗く冷たい牢獄の中、酒で現実逃避ができなくなったジェイクは、常に後悔に苛まれていた。
自分が死ぬからではない。
自分が最も必要としている相手を、みずから殺してしまった。
そして、耐え難い孤独があった。
誰からも必要とされていない、その事実。
それらの苦しみから逃れられるなら、死も悪くなかった。
けれども苦しいときほど、時間の進みは遅く感じられる。
解放を求めるジェイクのもとに、死神はなかなか来てくれない……。
その代わり……。
「ひひひっ、旦那ぁ、ねえ、旦那ぁ。そこのあんたですよ、【クラフト】使いのジェイクさん」
妙に甲高い耳障りな声が聞こえた。
その声は、背中の壁の向こう側から聞こえてきていた。よく見ると、わずかな穴が開いている。少なくとも昨夜までは無かった穴だ。
その穴から、濁った瞳がジェイクを覗いている。
「なんだぁ、てめえ?」
「あんた、処刑待ちなんでしょう? ひひひっ、死ぬのは嫌でしょう? その【クラフト】であたしらを手伝ってくれるんなら、そこから出してあげますよ」
「へっ、知らねえのか? 知らねえよなぁ、【クラフト】はなぁ、使い手が作り方の知ってる物しか作れねえんだよ。俺が手ぇ貸したところで、ろくなことになりゃしねえよ」
「ひひっ、大した問題じゃありませんぜ、作り方なら教えまさぁ。あたしらの仕事じゃあ、大活躍間違いなしですぜ。ひひひっ、特に、器具もいらずに、どこでも即作れるってのがいい。製造場所が特定できなきゃ、嗅ぎつけられることもありゃあしませんからねえ!」
「……お前ら、麻薬の組織か?」
「ひひひっ、それは仲間に加わってのお楽しみで」
「ちっ、帰んな」
「そう仰らずにぃ。あたしらには旦那が必要なんですよぉ。そして、旦那には脱獄の助けが必要……でしょう? い~い取引じゃあないですかぁ~」
「必要……? ふん、お前らは、俺みたいな愚図が必要だってのか……?」
「ええ、ええ! 必要です、あたしらには旦那が必要でさあ!」
相手になどしてはいけないとわかっていたのに、心が揺れてしまう。
「…………」
「で、どうすんです、旦那ぁ?」
「……わかった。ここから出せ」
「そう言ってくれると思ってましたぜぇ! それじゃ早速、あたしの言う通りに動いてくださいよ、ひひひっ」
ジェイクにはわかっていた。やつらが本当に必要なのは、自分などではない。シオンの技能だ。
だが必要とされるのなら……求められるのなら、それでも良かった
例えそれが犯罪組織であろうとも。
(すまねえ、シオン。俺にはまだ【クラフト】が必要らしい……)
その晩、ジェイクは脱獄した。
シオンがいれば止めてくれたであろう、闇の道に堕ちていくのを自覚しながら。
「この小太りの汚いやつが? まさかだろ、元はS級パーティのリーダーのはずだろ」
ずかずかと店先にやってきた冒険者たちは、ジェイクを見て次々に失望を口にする。
意に介さず、ジェイクは床に座り込んだまま酒を煽る。
店には――かつては店だった建物には、もう商品はない。商売をする理由も気力も失い、すべて借金の返済に売り払った。
今はその余った金で、酒を飲むだけだった。筋力は衰え、ぶくぶく太るばかり。
「おい、あんた。『フライヤーズ』のリーダー、ジェイクか?」
「ああ? 『フライヤーズ』なら解散したぜ……。残ったのは俺だけだが、なんか用かよ?」
「やっぱりお前がジェイクなのか……。お前を逮捕するよう依頼を受けてきた。大人しくついてこい。さもなければ……」
「さもなけりゃ、どうすんだ? あぁ?」
冒険者たちは武器に手をかける。随分といい装備だ。メイクリエ製かもしれない。
「力づくだ。その場合は殺害も許可されてる」
「けひゃひゃひゃひゃ! そりゃ敵わねえ、降参だ、降参」
ジェイクはゆっくりと立ち上がり、両手を頭の後ろにやって冒険者たちに従った。
「なんだ……。こんなあっさり……」
「凄え装備を持ってるって聞いてたから、備えてきたってのに」
ぼやく冒険者たちに連れられて店を出ると、待機していた他の冒険者が数人いた。そして、彼らに指示を出していたであろう、ギルド職員のバネッサも。
「よお、バネッサ。俺ぁ、なんの罪で捕まったんだぁ?」
「シオンの殺害容疑と、彼の先天的超常技能を奪った罪よ」
「へえ、エルウッドがたれこんだのか? 証拠もねえのによ」
「エルウッドは関係ないわ。でも証拠ならある」
「そうかい。まあ、どうでもいいわ。どうせ、なんにも変わりゃしねえんだからよぉ」
「ジェイク……。わかってると思うけど、あなたのやったことは重罪よ。たぶん――」
「わかってるよ、俺ぁ処刑されんだろ。そりゃいいぜ、あいつにもう一度会えるってわけだ」
ジェイクはそのまま投獄された。
一応は裁判があるというが、判決は火を見るより明らかだ。ジェイクは実質的に死刑囚として牢獄に繋がれることになる。
暗く冷たい牢獄の中、酒で現実逃避ができなくなったジェイクは、常に後悔に苛まれていた。
自分が死ぬからではない。
自分が最も必要としている相手を、みずから殺してしまった。
そして、耐え難い孤独があった。
誰からも必要とされていない、その事実。
それらの苦しみから逃れられるなら、死も悪くなかった。
けれども苦しいときほど、時間の進みは遅く感じられる。
解放を求めるジェイクのもとに、死神はなかなか来てくれない……。
その代わり……。
「ひひひっ、旦那ぁ、ねえ、旦那ぁ。そこのあんたですよ、【クラフト】使いのジェイクさん」
妙に甲高い耳障りな声が聞こえた。
その声は、背中の壁の向こう側から聞こえてきていた。よく見ると、わずかな穴が開いている。少なくとも昨夜までは無かった穴だ。
その穴から、濁った瞳がジェイクを覗いている。
「なんだぁ、てめえ?」
「あんた、処刑待ちなんでしょう? ひひひっ、死ぬのは嫌でしょう? その【クラフト】であたしらを手伝ってくれるんなら、そこから出してあげますよ」
「へっ、知らねえのか? 知らねえよなぁ、【クラフト】はなぁ、使い手が作り方の知ってる物しか作れねえんだよ。俺が手ぇ貸したところで、ろくなことになりゃしねえよ」
「ひひっ、大した問題じゃありませんぜ、作り方なら教えまさぁ。あたしらの仕事じゃあ、大活躍間違いなしですぜ。ひひひっ、特に、器具もいらずに、どこでも即作れるってのがいい。製造場所が特定できなきゃ、嗅ぎつけられることもありゃあしませんからねえ!」
「……お前ら、麻薬の組織か?」
「ひひひっ、それは仲間に加わってのお楽しみで」
「ちっ、帰んな」
「そう仰らずにぃ。あたしらには旦那が必要なんですよぉ。そして、旦那には脱獄の助けが必要……でしょう? い~い取引じゃあないですかぁ~」
「必要……? ふん、お前らは、俺みたいな愚図が必要だってのか……?」
「ええ、ええ! 必要です、あたしらには旦那が必要でさあ!」
相手になどしてはいけないとわかっていたのに、心が揺れてしまう。
「…………」
「で、どうすんです、旦那ぁ?」
「……わかった。ここから出せ」
「そう言ってくれると思ってましたぜぇ! それじゃ早速、あたしの言う通りに動いてくださいよ、ひひひっ」
ジェイクにはわかっていた。やつらが本当に必要なのは、自分などではない。シオンの技能だ。
だが必要とされるのなら……求められるのなら、それでも良かった
例えそれが犯罪組織であろうとも。
(すまねえ、シオン。俺にはまだ【クラフト】が必要らしい……)
その晩、ジェイクは脱獄した。
シオンがいれば止めてくれたであろう、闇の道に堕ちていくのを自覚しながら。
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