上 下
43 / 162
第1部 第4章 憂国の没落騎士 -工房始動-

第43話 番外編⑦-1 無知なる者の喪失

しおりを挟む
 ただならぬ状況を察して、ラウラはジェイクとエルウッドの間に入った。

「待って、エルウッド! ジェイクがシオンを殺したって言うの?」

「そうだ。こいつが殺したんだ!」

 ジェイクは尻もちをついたまま、エルウッドを鼻で笑う。

「なにトチ狂ったこと言ってやがる。なんで俺がシオンを殺すんだよ」

 内心では緊張が走るが、そう見せぬよう強気に返す。

「理由なんかどうでもいい。いいか、ラウラ。【クラフト】はな、使い手が作れる物しか作れなかったんだ。もし本当にシオンがオレたちに遺したんなら――『技盗みの短剣スキルドレイン』を用意してたんなら、そのことを伝える手紙かなにかを一緒に遺してくれてたはずだ」

 ラウラは一瞬で青ざめて、ジェイクから一歩引く。

「ジェイク……。嘘でしょ? シオンは、他にはなにも遺してなかったって……」

「大方、本人と一緒に崖から落ちちまったんだろうよ……」

 エルウッドが睨みつけてくる。

「お前が技能スキルを奪って殺したから無いんだろう」

「しつけえな。証拠でもあるのかよ」

「シオンが本当に死に備えて準備してたんなら、簡単に無くすわけがない」

「シオンシオンうるせえな! 死んだやつのことなんて、誰もわかねえだろう!」

「そうかよ! じゃあもういい!」

 エルウッドはジェイクに背中を向け、奥に引っ込んだ。

 ラウラが追いかけていく。

「エルウッド、どうする気?」

「シオンを殺したやつと一緒にやっていられるか!」

 エルウッドは私物や本を乱暴に詰め込んだ鞄を背負って出てきた。

 ラウラは困ったように後ろについて来ている。

 ジェイクはしめたものだと心中で笑う。

 これ以上、シオン殺しを追求されなくて済む。

「ああ、そうかよ! こっちも濡れ衣着せられたままじゃ気分悪いからなぁ! エルウッド、お前はパーティ追放だ! どこへでも行っちまいな!」

 エルウッドは怒りの表情のまま、ジェイクを睨みつけてくる。

 それから店頭に飾ってあった斧と盾を手に取る。

 シオンが遺したエルウッドの装備だ。文字通り鋼鉄をも断ち切る断鉄斧だんてつふと、毒竜アシッドドラゴンの強酸をも無傷で防ぐ不滅の盾イモータル

「おい待て! そいつらは置いていきな!」

「なんだと?」

「お前の私物じゃねえ。パーティの所有物だ。追放されたてめえが触るんじゃねえ!」

「ジェイク、それはあんまりじゃない!」

 ラウラが抗議するが、エルウッドはさして気にした様子もなく鼻を鳴らした。

「じゃあいいよ。いらねえ」

 エルウッドは不滅の盾イモータルを、ジェイクのほうに軽く放り投げた。

「そいつをじっくり見て思い知れ。シオンの偉大さをな」

 それからラウラを一瞥する。

「悪いな。ラウラ、色々教えてくれたこと、恩に着る」

 エルウッドはそのまま店を出ていった。せいせいする。

「待って! 待ってよ、エルウッド! ジェイク、あなたもなにやってるのよ! 謝って! ここで別れちゃったら、あたしたち一生バラバラよ!」

「騒ぐなよ、それのなにが悪いってんだ」

 ラウラは泣きそうな顔をする。

「だって、だってあたしたちずっと一緒にやってきたじゃない。シオンがいなくなって、あれだけ悲しかったのに、また誰かがいなくなるなんて嫌よ……!」

「俺とお前だけでいいじゃねえかよ。どうせ、仕事はほとんど俺ひとりでやってたんだ。あんな木偶の坊、必要ねえんだよ!」

「あんたひとりで……ね。そうね、そうかもね……」

 ラウラは沈んだ表情のまま、ジェイクを見下ろした。

「そうよね、あんたは……あたしたちを必要としてないのよね……」

 ジェイクはラウラの瞳から涙が流れ出すのが見えた。その意味は、わからない。

「あたしも抜ける。『フライヤーズ』は、これで解散よ……」

 ラウラが背中を向けて奥に行こうとする。

 ジェイクは慌てて立ち上がり、ラウラの肩を掴んだ。

「ダメだ! お前は行くなよ!」

 ラウラはその手を振りほどく。

「なんでよ! あたしだってエルウッドと同じよ! 役立たずの木偶の坊じゃない!」

「わからねえのかよ! 俺がなんのために冒険者辞めて、こんな商売してんのか!」

「はあ? なんのためよ!?」

「お前を幸せにしてえからだよ!」

 ジェイクは振りほどかれたその手で、ラウラの手を掴みにいく。

 拒絶するように、ラウラは体ごと大きく退いた。

「俺の気持ちはとっくに知ってるだろう! ガキの頃からずっと、お前だけを見てた! 好きなんだよ! 愛してるんだよ! だから行くなよ! 行かないでくれよ!」

 ラウラはおぞましいものでも見たかのように、ぶるりと体を震わせた。

「ふざけてんの、あんた……」

 その冷たすぎる視線は、ジェイクを凍りつかせるのに充分だった。

「お前……まだシオンのこと引きずってるのかよ。死んだやつのこと、まだ好きなのかよ」

「勘違いしないで。そりゃ一度は惹かれたけど、シオンが誰彼構わず褒めるやつだってことは知ってるでしょう。あんたこそ、どうしてあたしが、バカで短気なあんたに今までついてきて、庇ったり、みんなとの仲を取り持ってやってたと思ってるの?」

「まさか……」

「でもそれも終わり。シオンが死んでから、あんたは本当にクズになったわ」

 ラウラの言葉に、ジェイクは膝から崩れ落ちる。

 ラウラは多くの私物はそのままに、手荷物だけを簡単にまとめた。そして、さようならの一言も無く、出ていってしまった。

 ジェイクは呆然と、それを見送るしかなかった。

 やがて、誰にともなく呟く。

「ふざけんなよ……。俺がお前らを必要としなかったんじゃない……。お前らが、俺を必要としてなかったんじゃねえか。いつもいつもシオンシオンってよぉ……」
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれたモブキャラの俺。女神の手違いで勇者が貰うはずのチートスキルを貰っていた。気づいたらモブの俺が世界を救っちゃってました。

つくも
ファンタジー
主人公——臼井影人(うすいかげと)は勉強も運動もできない、影の薄いどこにでもいる普通の高校生である。 そんな彼は、裏庭の掃除をしていた時に、影人とは対照的で、勉強もスポーツもできる上に生徒会長もしている——日向勇人(ひなたはやと)の勇者召喚に巻き込まれてしまった。 勇人は異世界に旅立つより前に、女神からチートスキルを付与される。そして、異世界に召喚されるのであった。 始まりの国。エスティーゼ王国で目覚める二人。当然のように、勇者ではなくモブキャラでしかない影人は用無しという事で、王国を追い出された。 だが、ステータスを開いた時に影人は気づいてしまう。影人が勇者が貰うはずだったチートスキルを全て貰い受けている事に。 これは勇者が貰うはずだったチートスキルを手違いで貰い受けたモブキャラが、世界を救う英雄譚である。 ※他サイトでも公開

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

処理中です...