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第1部 第2章 情熱の美少女追放職人 -古剣修復-

第6話 新しい名前が、必要ではないですか

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 翌朝、おれはソフィアと川沿いを連れ立って歩いていた。

 最寄りの町へは、川を下っていけば一日もかからない。

 川の上流はひどい激流だったが、おれが流れ着いた辺りはだいぶ流れが穏やかになっており、そこからさらに下流ともなれば、水音もほとんどしないくらい静かだった。

「シオンさんは、これからどうするのですか?」

「とりあえずは、鍛冶屋にでも行くことにするよ」

 ソフィアと話したお陰で昨晩はぐっすり眠れた。お陰で、気持ちの整理も少しはできた。

「装備を修理するのですね」

「いや、残ってる分を買い取ってもらうんだ」

 おれの持ち物は山頂に置いてきてしまったが、身につけていた装備のいくつかは、河原に流れ着いていたのを回収できている。

「傷んでいるとはいえ見事な鎧でしたのに。もったいないです」

「とは言っても、無一文のままは困るしね。それに……この装備はおれの作った一点ものなんだ。見る人が見たら、おれが生きてるってすぐにわかってしまう」

「知られてまずいのは、あなたを殺そうとした人だけではないのですか? その人を訴えればいいのではないでしょうか」

「それも考えたんだけどね――」

 冒険者ギルドに訴えて、ジェイクを指名手配するのは簡単だ。

 冒険者ギルドの規則を問うまでもなく、先天的超常技能プリビアス・スキルの窃盗は重罪であるし、殺人未遂まで重ねれば、極刑が下されることだろう。

 だが指名手配して、そう上手くいくとは限らない。

 ジェイクは仮にもS級冒険者パーティのリーダーだ。実力は大したことなくても、装備で底上げしているから他のS級にも引けは取らない。

 無理に逮捕しようとすれば、争いとなり、今度こそ本当に死人が出る。

 死ぬのがジェイクだけならまだいい。だが、今回の件におそらく無関係であろうラウラやエルウッドまで巻き込まれたとしたら?

 そしてもしジェイクが逃げおおせたりしたら、逆恨みで再びおれを殺しに来るかもしれない。

「――そういうわけだから、おれは死んだことにしておくよ。どこか遠くで生きていくことにする。仕事のアテもないけどね」

「シオンさんなら、職人としてやっていけます」

【クラフト】は失ったが、材料や製造技術に対する知識は残っている。道具を揃え、自分の腕で手間暇をかければ、これまでと同じように物が作れるはずだ、とソフィアは言いたいのだろう。

「どうかな。いつも【クラフト】頼りだったから、本格的な作業はしたことがなくてね。あんまり自信はないよ」

「大丈夫です。やってみれば、意外となんとかなります」

 ソフィアは妙に自信ありげに言ってくれるが、おれとしてはそんな気分にはなれない。

 裏切られたあのときから、物作りに対して、意欲が持てずにいる。

 少しは気持ちの整理ができたつもりだったが、物作りのことを考えると、やはり暗い気持ちになってしまう。

 そんなおれの様子を察したのか、ソフィアは話題を変えた。

「新しい名前が、必要ではないですか」

「ん、ああ、確かに。死んだことにするなら、名前くらいは変えておかないと都合が悪いね」

 それから数秒考えて、おれは提案する。

「ジブローガ、なんてどうかな」

 ぱちくりとまばたきをすると、ソフィアはそっと瞳を逸らした。

「すみません、あまり似合っていないと思います」

「そっか……。じゃあ、ザンジュローなんてのは?」

 ソフィアはあからさまに苦笑いを浮かべる。

「わたしも提案して良いでしょうか?」

 どうやらお気に召さないらしい。

 まあ実際、格好良すぎて、おれ自身もしっくりきてなかった。格好良すぎて。

「うん、そうだな。ソフィアに名付け親になってもらったほうがいいかな」

「はい、では……ママになりますね。どきどき」

「名付け親ってそういうもんじゃないよ」

 ソフィアの冗談にも慣れてきた。

 こういうやり取りも、なかなか楽しい。

 ソフィアはたっぷり五分間は思案していた。

 その間、綺麗な黄色い瞳でずっと見つめられるものだから、気恥ずかしくなってくる。

「――ショウ。ショウさん、というのはいかがでしょうか」

「ショウ……」

「わたしのご先祖様の中で、特に立派だった方の名前です。あなたを見ていて、なぜだかふと思い浮かびました」

 ショウ。ショウか。

 頭の中で反芻すると、不思議なくらい心にきっちりハマる。

「いいな、しっくり来るよ。ありがとう」

「気に入っていただけて、なによりです」

「案外、前世の名前だったりしてね」

「ではシオンさん――改め、ショウさん。わたしが、あなたのママです」

 おれは思わず吹き出す。

「まだ言うのかい、それ」

「少々、憧れがあるものですから」

 ほんのりと頬を染めて、ソフィアは微笑んだ。
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