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第1部 第2章 情熱の美少女追放職人 -古剣修復-

第7話 討伐依頼を受けてくれない?

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「……様子がおかしいな」

 最寄りのラスティンの町に着いてすぐ、おれは異変を察した。

 まだ陽は完全に沈んでおらず、本当なら酒場は賑わい、家々からは夕食の匂いが漂い始める時間帯のはずだった。

 なのに民家からは煙突の煙はおろか、人の気配すら感じられない。酒場も同様。鍛冶屋など、工房の火を落としてしまっている。

 異様な静けさだ。

 二週間ほど前に『フライヤーズ』の仲間たちと訪れたときは、もっと活気があったのだが……。

「どうやら、住民の方々は教会に集まっているようです」

 ソフィアが町の中心にある教会を指差す。

 灯りのついている唯一の建物だ。人の出入りもある。

 ふたりで近づいてみると、教会の門から外の様子を窺っていた女性と目が合った。

「あっ」

 まずい。知り合いだ。

 女性は目を輝かせて歓声を上げる。

「わぁあ、ちょうどいいところにシオ――んぐっ!?」

 おれは素早く駆け寄って、名前を呼ばれる前に口を塞ぐ。

 さらに背後に回って羽交い締めにし、そのまま引きずって近くの路地裏に連れ込む。

「んぐっ!? んぐぅうう!?」

「おお、人さらいの瞬間を見てしまいました。プロの手さばき」

 などと言いながら、ソフィアもついてくる。

 女性の口を塞ぎながら、おれは落ち着かせるようにゆっくりと話す。

「いいかい、バネッサ。今から事情を話すから、シオンと呼ばないでくれ。今のおれはショウと名乗ってる。お願いだから騒がないでくれ。いいね?」

 こくこく、とバネッサが頷いてくれるので、手を離して口を開放する。

「なに、いきなりなんなの? 事情って?」

 おれは手短に、先天的超常技能プリビアス・スキルを奪われ、殺されかけたことを話した。ソフィアに助けられ、その後のトラブルを避けるために、そのまま死んだことにして、別の名前を名乗ることにしたことも。

「――そう、そんなことがあったのね。ジェイクのやつ、腹黒いやつだとは思ってけど、そんなことまでするなんて……。わかったわ。あいつがあなたの死亡届を持ってきたら、黙って受理する。その後で、こっそりあなたのライセンスを別名義に書き換えておくわ」

「すまないな、助かるよ」

「いいのよ。こういうトラブルから冒険者を守るのもギルドの仕事よ。対策マニュアルもあるくらいなんだから」

 バネッサは、冒険者ギルドの職員だ。

『フライヤーズ』が主な拠点としていた大都市リングルベンでは、よく世話になった。無茶な依頼も多かったが、その分、実入りのいい仕事を優先的に回してもらったりと、良好な仕事関係を築けていた。

「けど、こんな町にバネッサがどうして?」

「なに言ってんのよ、この前話したでしょ。今年の定期巡回、あたしが当番なの」

 大きな街の冒険者ギルド職員のうち、ある程度の地位にある者は、定期的に周囲の村や町を巡回する決まりとなっている。目的は監査だ。

 目の届きにくい地方では職員の不正や、依頼を受ける冒険者の不足といった事態がたびたび発生する。それらの問題を見つけ、是正させるための仕事だそうだ。

「そう言えば聞いた気がする」

「気がするじゃないわよ。近い時期にラスティンの町に行くからって、届け物まであたしに頼んでたくせに」

 バネッサは身につけていた革製の腰袋から、ずっしりとした荷物を取り出した。

「ほらこれ、取り寄せてた本」

「ああ、そうだった、ありがとう」

「なによその反応。いつもは子供みたいにはしゃぐくせに……まあ、気持ちはわかるけど……」

 本を受け取り、パラパラとページをめくってみる。

 様々な魔物の生態について書かれた本だ。ざっと目を通してみたが、当初目当てにしていた情報も載っていそうだ。

 けれど、今更こんな本があったところで……。

「魔物さんの本、ですか?」

 興味ありげにソフィアが覗き込んでくる。

「ああ、実は新しく作ろうか考えてた物があってね。その資料として買ったんだ」

「えっ」

 ソフィアとバネッサが同時に声を上げた。バネッサは一歩引いた。

「シオ――ショウ、あなた……。そりゃ【クラフト】ならできるかもだけど、それ重罪よ、わかってるの?」

「なるほど、合成生物キメラさん製造に手を染めるのですね。さすがはショウさん、知識人は発想も並ではありません……」

 なにを言ってるんだ、ふたりとも!

 おれは驚いて首を振る。

「いやいやいや、違う違う違う。あくまで新しい素材のためだよ」

「せっかくなのでわたしは、牛さんと一部を合成して欲しいです。この、胸のあたりを」

「だから違うって。ていうか、合成されてまで大きい胸が欲しいのか?」

「…………」

 なぜかソフィアはおれを見つめてきた。

「なんちゃって」

「今の『なんちゃって』までの間はなんだい?」

「少し、夢を見ていただけです」

 おれは苦笑して、バネッサに向き直る。

「それより、この町の状況はどうしたんだ?」

「そうだったわ。ショウ、緊急だけど討伐依頼を受けてくれない?」

「討伐だって?」

「かなり厄介なアンデッドが出るらしいのよ」
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