余命1年の君に恋をした

パチ朗斗

文字の大きさ
上 下
57 / 89

55話 戻る記憶

しおりを挟む
「わたしね、おおきくなったら、レンくんとけっこんするのっ!」

「蓮くん、わたし達、ずっと友達だもんねっ!」

「蓮君、今日一緒に帰ろうよっ!」

~~~~

「…………っ」

  ここは………病院かな?今、なんだか懐かしい夢を見た気がする。

「うぅ………頭いてぇ。すげぇズキズキする」

  なんでこうなったんだっけ?記憶が飛ぶ程の痛みなんて、そうそうないと思うんだけど……無意識のうちに飲酒したか?

  俺はそんな事を考えながら、ズキズキと痛む頭を抱え、ゆっくりと上半身を起こす。

  体が妙にだるい。頭もなんでか思考を放棄しようとしている。

「………ダメだ、寝よ」

  こういう時は一旦寝た方が良い。カーテンが閉まってるし、外も暗い。時間的にもまだ起きる時間じゃないだろう。何より、起きてちゃこの頭痛に耐えられそうにない。

~~~~

「んん……ふぁあ、良く寝た」

  頭の痛みももう引いてる。あの頭痛はいったいなんだったんだ?

  いつの間にか着替えてるし……。

「まさかッ!…………良かった。パンツはさすがに着替えられてないか」

  さすがの俺も見ず知らずの人にパンツを着替えさせて貰うってのはメンタル的にキツイもんな。

  ガラガラガラ。

  先生か?いや、病室に来るのはどっちかと言うと看護師の方かな。とりあえず上半身だけでも起こしておこう。

「蓮、君……?」

「………那乃?」

  わぁお。予想だにしてなかった人物だ。

  ドアを開けて病室に入るなり、那乃は瞳に涙を溜め、潤んだ目でその場に佇んでいた。

「蓮君っ!!」

  那乃は片手に持っていた紙袋を手離して俺に抱き着いてきた。

「おわっ!?ど、どうした、那乃?」

「………うぅ…ほんとに……ほんとに良かったよぉ……」

「……………ごめんな。また心配掛けて」

  ソッと髪に手を置いた。一瞬体をビクつかせるもののそのあとは無反応のまま俺に抱きついたままだった。

  俺は優しく手を動かしていく。

  はぁ………格好つかねぇな。これが前みたいに人助けとかだったらまだカッコ良いんだがな。今回はただの頭痛だからな。こんな感動の再会みたいになると、なんか恥ずいな。

「ちょっと一回離れない?ちゃんと話したいしさ」

「もうちょっとだけ、ダメかな?」

「………お好きなだけどうぞ」

  俺の理性よ。今だけは耐えてくれ、頼むぞ。病院でおっぱじめようとしたら、社会的にも人間的にも終わりだからな。

「学校、休んだの?」

  髪を撫でながら俺はそう聞いた。どうにかして気を紛らわさないと、意識が那乃の胸に行っちまう。

「うん。昨日とかは海斗君がね」

「そっか。後で礼言っておかないとな。那乃も、ワザワザありがとな」

「蓮君のためだから」

「っ………!」

  その発言を不意打ちで言うのはずるい。嫌でも意識しちまうじゃんか。

  てか、那乃が顔を上げずに喋ったもんだから、かなりくすぐったかった。

「あ、そう言えば、そろそろ本格的に球技大会の練習しないとな」

「無理はダメだよ。入院までしてるんだから、安静にしなきゃ。あと四日じゃどうしようもないよ」

「へっ?四日?嘘だろ?」

  俺が倒れたのは一週間前。てことは、三日間ぐらい俺、気絶してたことになるよな?

  でも、なんでか空腹感とかは全くない。人間の体って不思議だなぁ。

  四日か……。多少の無理はしてでも出たいな。の球技大会だからな。来年はもう……。

「那乃」

「ん?」

「俺、絶対にそれまでに回復するから。だから……球技大会、絶対勝とうな!」

「うん!」

  もう、知らんぷりは出来ない。アイツがどんな理由で俺の記憶を戻したのかは知らんが、戻った以上、出来る限りのことはしなければ。

  瑠魅こと………そして那乃のこと。ずっと放置し続けるのは可哀想だ。

  球技大会が終わったあと、那乃には言わないと。もう、ぬるま湯に浸かり続けるのはやめよう。俺がハッキリしないと、那乃が辛い思いをすることになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

【完結】元妃は多くを望まない

つくも茄子
恋愛
シャーロット・カールストン侯爵令嬢は、元上級妃。 このたび、めでたく(?)国王陛下の信頼厚い側近に下賜された。 花嫁は下賜された翌日に一人の侍女を伴って郵便局に赴いたのだ。理由はお世話になった人達にある書類を郵送するために。 その足で実家に出戻ったシャーロット。 実はこの下賜、王命でのものだった。 それもシャーロットを公の場で断罪したうえでの下賜。 断罪理由は「寵妃の悪質な嫌がらせ」だった。 シャーロットには全く覚えのないモノ。当然、これは冤罪。 私は、あなたたちに「誠意」を求めます。 誠意ある対応。 彼女が求めるのは微々たるもの。 果たしてその結果は如何に!?

さよなら私のエーデルワイス〜侍女と騎士の初恋〜

佐原香奈
恋愛
 小さな村で幼馴染として育ったエマとジャン。小さい頃からジャンは騎士を目指し、エマはそれを応援していた。  ジャンは成人する年、王都で開かれる各地の騎士団採用試験として行われるトーナメント戦に出場するため、村を出た。  一番の夢であった王立騎士団入団は叶えられなかったものの、辺境伯家の騎士団に入団することになったジャンは、胸を張ってエマを迎えに行くために日々鍛錬に励んでいた。  二年後、成人したエマは、ジャンが夢を叶える時に側にいたいと、ジャンの夢の舞台である王立騎士団で侍女として働くことになる。しかし、そこで待ち受けていたのは、美しい女性と頻繁にデートするジャンの姿だった。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

処理中です...