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中等部4年編
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しおりを挟む最後のダンスの時間が終わり、ルーカス達が少しの間会話をしていると、ノーマンが閉会の挨拶をした。
「──……これにてオリエンテーションを閉会します」
「楽しかったね」
「テオ、客だぞ」
「ん?」
ルーカスがヨハン達と話していると、マルセルがルーカスの後ろに目を向けてそう言った。ルーカスも彼の視線の方へ目をやると、そこにはケイリーとフィオナが立っている。
「サラ、キキ、どうしたんだい?」
「……皇子殿下はギャビンの事、気付いておられたのですね」
ケイリーは探る様にルーカスに問い掛けた。
「席、外しましょうか?」
「……いや、構わない」
ケイリー達の様子にヨハンがルーカスに尋ねるが、何かを考え込んだ後、ルーカスは彼の提案を断った。
「人の感情を読み取るのが得意なんだ。それに彼は、結構分かりやすい」
「2人を応援してくれるんですか?」
「揶揄うと可愛い反応をしてくれるからね」
「……そう、ですか。ありがとうございます……?」
ルーカスが楽しそうに笑いながらそう返すと、ケイリーは戸惑いながらお礼を言った。
「君達も彼を応援しているのかい?」
「友人ですから」
「そう、では、僕の手助けをしてくれるかな?」
「手助けですか?」
「出来るだけ彼らが2人だけで関われる状況にしてあげて。先程のように、ね」
先程ルーカスが、1年生達に両方のダンスパートを覚えるよう促した際、ケイリーはフィオナと共に練習し、ギャビンとヒューゴを一緒にさせる状況を作った。それは恐らくわざとだろう。
「それも気付かれていたのですね。勿論、手伝わせて頂きます」
「それは良かった」
「それにしても、第3皇子様が協力して下さって良かったです。2つ目の仮名を口にしたから、ギャビンを目の敵にされているんじゃないかと」
「実際、恨まれても仕方の無いことです」
そう言ってフィオナとケイリーはほっと安堵した様子でそう言った。
しかしそれも束の間、ルーカスは少し鋭い空気を纏う。
「そうだね。彼が本気で口説きに来ていたのであれば、剣を抜いた」
「あ、申し訳ございません……! 失言を致しました……」
「サラ、キキ、他の者達も、一つだけ知っておくと良い。僕は最低限の礼節も持ち合わせない馬鹿な人間が、大嫌いなんだよ」
ルーカスの凍えるほどに冷たい声色に、2人だけでなく側近達や友人達も酷く背筋を凍らせる。
「僕が皇族だから、かしずき讃えろということでは無い。身分、種族、容姿。世間一般的な基準で、どれだけ貧富の差があったとしても、相手も同じく生きた者だと知っておきなさい」
「……はい」
「その上で言う。僕は君達や彼らの事も好ましく思っている。……僕の周りには、礼儀を弁えた者しかいない。いや、置いていないんだよ」
ルーカスはこの場にいる皆にこれでもかと言う程の冷たい圧をかけて最後の言葉を告げた。
「ルーク、今いいかい?」
「兄さん。今行く」
ルーカスは生徒会の報告の為に呼びに来たウィリアムの所へ、皆を置いて行ってしまった。
「……今のルーカス殿下の言葉の意味、伝わったかしら?」
固まった沈黙の空気を、キャサリンの言葉が打ち破った。
「第3皇子様が気に入ってくださっていても、無礼を働いて許されるとは思うな、という意味でしょうか?」
「キキはそう受け取ったのね。サラはどうかしら?」
「側に居たいのならば、礼節を弁えろ、と受け取りました」
フィオナとケイリーは先程のルーカスの言葉を鮮明に思い出し、言葉の意図を汲み取ろうと頑張った。
「お二人共間違ってはおりませんよ。ただ、正確に言葉にするのなら……」
「いつでも切り捨てる」
「「っ……!」」
リヴァイがルーカスの方へ視線を向け、少し寂しそうな表情でそう言う。そしてルーカスの元へ向かっていった。
「リヴが言うと本当に斬られそうよね」
「同感だ。……殿下の言葉は、落ちぶれた者は誰であっても、どんなに情が移っていても、簡単に切り捨てるぞと言う忠告です」
(誰であっても……。それはきっと、この世のどんな立場、身分の者であっても適用される……)
「だから彼にも、きちんと忠告してあげなさい」
「っ、はい。必ず伝えます」
ケイリーとフィオナは固く覚悟したような表情で約束した。
「テオの奴、俺達にも忠告する為にわざと残しやがったな」
「もう体が凍りつくかと思ったぜ」
マルセルとフランクが少し顔を青くしながら悪態を着いた。するとすごく落ち込んだ様子のヘクターとアーウィンが口を開く。
「……やっぱり俺達、テオ殿下の逆鱗に触れてたんだな」
「よく一緒に居させて貰えてるよな」
「ルーカス様は、恐らく上辺だけを見て判断する方達が嫌いなんです。ヘクター様とアーウィン様はそうでは無いから、仲良くされてるんだと思います。確信はないですけどね」
そう苦笑いしながら言うヨハンに、ヘクターとアーウィンは胸が締め付けられる思いがする。
「そうそう、2人はヨハンの上辺を利用しただけで、心から嫌ってるわけじゃねぇんだから大丈夫だって」
「「うっ……」」
「ちょっと、傷口に塩塗ってどうするだい」
「あ、悪ぃ」
ヘクターとアーウィンはその軽いフランクの謝罪に少し腹が立つ。そしてその様子をギャレットとマルセルが苦笑いしながら眺めた。
(心の底から嫌っても、大丈夫ですよ。きっとルーカス様も、どうしても受け付けられない物がある事を知っていますから。それに、皆さんは私の上辺以外も、見て下さいますから)
そんな風に思いながら、笑みを浮かべるヨハンの元に、アレイルが来て言う。
「ネオ様、ルーカス殿下が戻ってきましたよ」
「、本当ですね。ルーカス様、もう宜しいのですか?」
するとヨハンはルーカスの元にすぐ様向かい話しかけた。
「報告だけだからね。僕達もそろそろ帰ろうか」
「そうですね」
ルーカスはケイリーとフィオナの様子を見ながら言う。
「サラ、キキ、明日に少し報告会をすることになった。帰り支度を済ませたら生徒会室に来るように」
「「承知しました」」
「では皆またね」
そう言ってルーカスは側近達を連れ寮の部屋へと戻って行ったのだった。
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