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29.まあ、温かいのね
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「まあ、温かいのね」
「気持ち良かじゃろ?」
「ええ、とても」
周囲の視線などなんのその。気にせず睦まじく過ごすオナガとセッカ。
そんな二人を諦め混じりの呆れた目で眺めるチュウヒ。じっと一挙手一投足を見逃さないよう、舐めるように観察するレイラン。嫌な予感を覚えて明後日の方を見上げるカイツ。
「カイツ」
「はい」
予感は当たってしまったようだと肩を落としたカイツを、チュウヒは不思議そうに見る。
「手をお出しなさない」
「どうぞご自由に」
信じられない物を見るように、歪んだ顔で凝視してくる友人の視線から逃れるため、カイツは顔を背けた。
オナガとセッカは仲睦まじく和気藹々とした雰囲気を醸し出しだしているのに、同じように掌を合わせる二人からは、まるで違った雰囲気が漂っていた。
レイランは謎を紐解くかのように真剣な表情で、カイツは諦めきったように放心している。
「そういえば、あなたたちも垠萼に出ることはあるのかしら?」
栄養を補充する感覚に飽きたのか、レイランが話題を振って来た。とはいえ掌は合わせたままだ。
「私は最初から第一だったので、出たことはありませんね」
「俺は元第二だから、数回」
「俺は第六やったけど、三回ほどじゃな」
チュウヒ、カイツ、オナガの順に答えていく。
「待て。なんで第六なのに俺より少ないんだ?」
第六部隊は蕊山の近くで魔物が発見された時に、最初に投入される部隊だ。垠萼に出る回数は検衛の中でも一、二を争う。
「オナガは入隊してすぐに第一に転属になったのですよ」
「そういやそんな話だったな」
思い出したらしきカイツは納得して頷いた。
「南萼に行ってみたいのですけれど、危ないかしら」
王女様から飛び出した爆弾発言に、四人揃って硬直した。
大人しい魔貝しか生息していない北萼ならばいざ知らず、他の三方には平民ですら訓練を受けた検衛くらいしか出向くことはない。
その検衛の隊員ですら、命を落とすことのある危険地帯だ。
「れ、レイラン様。それはお止めになったほうが」
おずおずとセッカが止める。
「でも興味があるのよ。他の垠萼も行ってみたいけれど、一番は南萼ね。こんな綺麗な羽を持つ魔鳥を見てみたいわ。それに木の実も。セッカも見てみたくなくて?」
王女様の好奇心には、天井というものが取り付け忘れられているようだ。
「南萼の危険度はどうなのですか?」
垠萼へ出た経験のないチュウヒは、実体験のあるオナガとカイツに意見を求めた。できればレイランが諦めるような話題を提供してほしいと、目が訴えている。
「魔鳥は魔爬に比べたら柔らかけど、空を飛ぶで倒すのは難儀すっな」
「空から来るからな。隙を見せたら一瞬でさらわれる。護衛には一番向かない土地だ」
しばしの沈黙。そしてレイラン意外の四人は結論を出す。
「無理です」
「あら、残念ね」
眉間にしわを寄せて本当に残念だと思っているようだが、オナガたちもここは譲れない。
王族に万が一のことがあっては色々な意味で大問題になる。
「レイラン様は王を目指すんだろ? だったら命は大切にしないと」
「仕方ないわね。あなたたちが見てきた垠萼の話で我慢するわ」
とはいえ検衛が垠萼に出るなど、魔物を討伐するためくらいだ。血なまぐさい話を聞いて王女が喜ぶのか。
オナガとカイツは当たり障りのない話を提供するために、頭を悩ませるのだった。
何とかレイランの好奇心を満たして蕊山の麓まで送り届けたオナガたちは、心身ともに疲労困憊していた。
「検衛に入って、今日が一番大変だったかもしれません」
「禁衛になったらこれが毎日なんだよな? 尊敬する」
「俺は禁衛になるつもりはなかけどね」
顔を見合わせた三人は、誰からともなく苦笑を浮かべた。
「さ、帰りましょう」
嵐は去ったと一安心したオナガたちだったが、この後もカイツはしばしば華弁に下りてきたレイランに振り回されることとなる。しかしそれはまた別の話。
「気持ち良かじゃろ?」
「ええ、とても」
周囲の視線などなんのその。気にせず睦まじく過ごすオナガとセッカ。
そんな二人を諦め混じりの呆れた目で眺めるチュウヒ。じっと一挙手一投足を見逃さないよう、舐めるように観察するレイラン。嫌な予感を覚えて明後日の方を見上げるカイツ。
「カイツ」
「はい」
予感は当たってしまったようだと肩を落としたカイツを、チュウヒは不思議そうに見る。
「手をお出しなさない」
「どうぞご自由に」
信じられない物を見るように、歪んだ顔で凝視してくる友人の視線から逃れるため、カイツは顔を背けた。
オナガとセッカは仲睦まじく和気藹々とした雰囲気を醸し出しだしているのに、同じように掌を合わせる二人からは、まるで違った雰囲気が漂っていた。
レイランは謎を紐解くかのように真剣な表情で、カイツは諦めきったように放心している。
「そういえば、あなたたちも垠萼に出ることはあるのかしら?」
栄養を補充する感覚に飽きたのか、レイランが話題を振って来た。とはいえ掌は合わせたままだ。
「私は最初から第一だったので、出たことはありませんね」
「俺は元第二だから、数回」
「俺は第六やったけど、三回ほどじゃな」
チュウヒ、カイツ、オナガの順に答えていく。
「待て。なんで第六なのに俺より少ないんだ?」
第六部隊は蕊山の近くで魔物が発見された時に、最初に投入される部隊だ。垠萼に出る回数は検衛の中でも一、二を争う。
「オナガは入隊してすぐに第一に転属になったのですよ」
「そういやそんな話だったな」
思い出したらしきカイツは納得して頷いた。
「南萼に行ってみたいのですけれど、危ないかしら」
王女様から飛び出した爆弾発言に、四人揃って硬直した。
大人しい魔貝しか生息していない北萼ならばいざ知らず、他の三方には平民ですら訓練を受けた検衛くらいしか出向くことはない。
その検衛の隊員ですら、命を落とすことのある危険地帯だ。
「れ、レイラン様。それはお止めになったほうが」
おずおずとセッカが止める。
「でも興味があるのよ。他の垠萼も行ってみたいけれど、一番は南萼ね。こんな綺麗な羽を持つ魔鳥を見てみたいわ。それに木の実も。セッカも見てみたくなくて?」
王女様の好奇心には、天井というものが取り付け忘れられているようだ。
「南萼の危険度はどうなのですか?」
垠萼へ出た経験のないチュウヒは、実体験のあるオナガとカイツに意見を求めた。できればレイランが諦めるような話題を提供してほしいと、目が訴えている。
「魔鳥は魔爬に比べたら柔らかけど、空を飛ぶで倒すのは難儀すっな」
「空から来るからな。隙を見せたら一瞬でさらわれる。護衛には一番向かない土地だ」
しばしの沈黙。そしてレイラン意外の四人は結論を出す。
「無理です」
「あら、残念ね」
眉間にしわを寄せて本当に残念だと思っているようだが、オナガたちもここは譲れない。
王族に万が一のことがあっては色々な意味で大問題になる。
「レイラン様は王を目指すんだろ? だったら命は大切にしないと」
「仕方ないわね。あなたたちが見てきた垠萼の話で我慢するわ」
とはいえ検衛が垠萼に出るなど、魔物を討伐するためくらいだ。血なまぐさい話を聞いて王女が喜ぶのか。
オナガとカイツは当たり障りのない話を提供するために、頭を悩ませるのだった。
何とかレイランの好奇心を満たして蕊山の麓まで送り届けたオナガたちは、心身ともに疲労困憊していた。
「検衛に入って、今日が一番大変だったかもしれません」
「禁衛になったらこれが毎日なんだよな? 尊敬する」
「俺は禁衛になるつもりはなかけどね」
顔を見合わせた三人は、誰からともなく苦笑を浮かべた。
「さ、帰りましょう」
嵐は去ったと一安心したオナガたちだったが、この後もカイツはしばしば華弁に下りてきたレイランに振り回されることとなる。しかしそれはまた別の話。
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