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4・初めての国内視察
4-65・暗躍の中身⑤(アーディ視点)
しおりを挟む勿論、だからと言って本当に誰一人いなさそうだというわけではない。
ただ、首都だとすると極端に少ないのは確か。特にミーナに連れられてアーディが転移した場所の近くなど、ほとんど廃墟同然で。その上そう言った場所は、他にも数多く存在するようだったのである。
「連れてきてくれた商人の話では治安がね、よくないらしいの。物凄く」
アーディと連れ立って、町を色々と見て回りながら、ミーナが小さく肩を竦める。アーディがかけた匂いを遮断する結界に気付いたのだろう、
「あ、アー兄ありがとね」
なんて軽く礼も告げて。
数十年前。
今の聖王が即位する前までは、ここもこんな風ではなかったらしいとも聞いたとミーナは続けた。
「今の聖王……いい話は、聞かないね」
むしろ耳を塞ぎたくなるような噂ばかり。
否、だからこそ自分たちは、ここへ来ることにしたのである。
「ま、その分、何処もかしこも警備はザルっぽい」
公共の施設、例えば王宮などでさえ、おそらくは入り放題だ。
「見たところここ、衛兵とか騎士とか、そういうのも全く機能してないよ」
ミーナは一応と昨日、1人で王宮まで足を延ばしたらしい。
とは言え、子供の足、徒歩では流石に遠く、身体強化などの魔術を駆使して移動速度は速めたのだとか。
また、流石に仲間ではないっていないとのこと、アーディは小さく頷いた。
「だってさぁ、門番? っていうの? 王宮の出入り口に一応人は立ってたんだけど、あれ、どう見ても兵士とか騎士じゃないの。元は盗賊かなんかなんじゃない? 態度からしてあり得ない感じ」
それがひと目でわかるというならよっぽどだろう、アーディの顔が険しくなる。
ミーナはもはや呆れかえるばかりだった。
「此処ってさぁ、外交とかどうなってるんだろうね? あれじゃあどんな他国も、キゾワリ聖国へ入国できないよ」
と、言うか、多分、何処もしないと思う。
「……長く、他国から誰かを招待するような外交は行っていないと聞いている。少なくとも、聖都でもてなすようなことは今の聖王になってから一切ないらしい。ただ、同時に他国へ自身の子供である王女や王子を何人も輿入れさせているとも聞いている」
そうすることによって、他国との関係を保っているのだとも。
母が気にしているリアラクタ嬢もおそらくはその一人。
「しかも……輿入れ先での王女や王子の扱いは、ほとんど奴隷のようなものなんだそうだよ。キゾワリ聖国側が、それでよいという前提で送り込んでいるんだって」
それも多くは性奴隷。当然そんな王女、王子らが未経験であることなどほぼなく、むしろどんな要求にも逆らわない、人形のようであるのだとか。
どうやら人形とは程遠いらしいリアラクタ嬢はきっと例外中の例外なのだろう。否、あれも一種の人形のようなものと言えるのかもしれない。
アーディが流石にそこまでは口にせず、どころか、一瞬躊躇したのは、ミーナを気遣ってのことだった。
とは言え、ミーナに限っては余計な気遣いかもしれないし、今から自分たちが行うことを考えると今更とも思えるのだけれど。否、否。
「ああ、ミーナ、王宮へは僕とグローディで潜入するから、君はここで協力を仰げそうな人ってのと連絡を取ってもらっておいてもいい? あと、聞き込みっていうか、そういうのもしておいてもらえると助かる」
アーディはさり気なさを装って、ミーナを王宮からは遠ざけることとした。理由は先ほど気にしたのと同じそれ。
アーディの予想では、一番ひどい状況なのは王宮内だ。
紛いなりにも男子である自分やグローディはまだいい、だけど。
ミーナはアーディより二つも下の女の子なのだから。
そんなアーディの思惑がわからないわけがないミーナは小さく溜め息を吐いて。
「はぁーい」
なんて、不承不承が丸わかりでありながら、一応は了承の返事を寄越したのだった。
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