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4・初めての国内視察
4-64・暗躍の中身④(アーディ視点)
しおりを挟む今回の密入国は、誰かの目に触れる予定などまるでない。
当然、必要な時にはその限りではないのだけれども。
密入国が良くないことだということは勿論アーディにもミーナにもグローディにもわかっている。
だが同時に3人は、悪いことだとも認識してはいなかった。
むしろ必要なことだとさえ思っている。
母の懸念を取り払う為に。
それが悪いことであるはずなんてないのだから。
密入国はあくまでもそのための手段に過ぎない。
こうした方が手っ取り早いし、何より場合によってはむしろ良い結果を生む可能性すら存在した。
いずれにせよ実際の所、結界も何もないキゾワリの聖都に、3人の行動を妨げるものなど何もなく、ミーナから報告を受けた翌日、アーディは早速、聖都の片隅、路地裏の奥に、ミーナと共に転移した。
グローディは連れてきていない。
それは後日の予定である。
周囲に人影はなく、アーディのこともミーナのことも、誰かに見られた様子はない。
一応辺りの気配を確認するが、アーディは逆にうっそりと眉根を寄せていた。
「……何これ。ねぇ、ミーナ、これほんとに聖都の中?」
聖都、とはつまり首都だ。
キゾワリ聖国内で、一番栄えているはずの場所である。なのに。
「間違いないわ。アー兄もわかってるんじゃない? 私も、昨日ここにきてびっくりしちゃった。まさかここまでなんてね」
肩を竦めたミーナは実は商団の者たちも、聖都に入るのは気が進まない様子だったのだと追加で告げた。
実際に彼らはもうただ通り過ぎただけだとでも言わんばかりに、昨日のうちにここを出ているのだという。
「だから、ここから先は手助けしてくれる人、私にもいないから」
嫌に手広いミーナの伝手も、流石に此処までは及んでいないらしい。
「一応、信頼できそうな何人かの名前ってのは教えてもらってはいるんだけど……」
と、思ったら、存外そうでもないようだ。
どちらでもいいかとアーディは頷く。
路地裏を出て周囲を見て回ったのだが、さっき魔力探査で確認したのと状況は何も変わらない。
一応整えられていると言えなくもない街並み。
だがそれらは整然としているなどと言う状況とは程遠く、どころか荒れ果てていると言っても過言ではないような有り様だった。
壁の塗装は剝がれ、落ちた欠片が道の隅に固まっている。
辺りには鼻を覆いたくなるようなにおいが立ち込めていて、アーディは思わず、元々かけていた、自分たちの認識を希薄にさせる結界の上から、周囲の空気を遮断する結界までもを重ね掛けした。
「ほんと、この国はどうなってるんだろうね……」
呆れたように呟く。
そう口にせずにはいられないほど、聖都には人の気配が全くと言っていいほど存在していないのだった。
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