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ウサギ、準備完了
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キャンプ道具のほとんどは既に庭に出されていて、俺達はただ折り畳み式のそれらを開いて位置を考えるだけで済んだ。肉を始めとした食材は別荘内の大きな冷蔵庫に入れられており、それらを運び出すなどもした。
「歌見さん、これをそこに立ててくれないかな?」
「パラソルか?」
ネザメは真っ黒なパラソルを歌見に立てさせ、そこに椅子を運んだ。ネザメが力仕事をするなんて……! と感激していると、彼は次にアキの手を引いた。
「さぁ、アキくん。君の特等席だよ。天使のように麗しい君にはきっと白い物がよく似合うけれど、黒に包まれた君もとても美しい……黒には悪や汚れのイメージがあるかな? 違うよ、黒は何物にも染まらない高潔で落ち着いた上品な色だ……君のための色だよ。この花を君に捧げよう」
アキを椅子に座らせると小さな机をその傍に運び、一輪挿しの花瓶を乗せた。黒い百合らしき花をアキに見せ、その花を花瓶に差した。
「黒百合の花言葉は恋と呪い……美しの君はきっと数多の人間を恋に落とした。そして、呪った。君を見た者はもう他の全てを美しいとは思えないだろう、人生を丸ごと君に捧げたくなる……君は人を狂わせてしまう。僕もその一人だ」
お前の彼氏が弟を口説いてるぞ、とでも言いたげな目で歌見が顔で彼らを指す。
「黒百合は……いやな女の生臭い匂い、ってね~」
「……ごめんハル俺それ分かんない何ネタ?」
「川端……山の音」
「かわばた……? やまのおと……?」
「正解~、分かってんじゃんみっつん。実際どんな匂いするのかな~? ザメさ~ん、ちょっと花見~せてっ」
俺の背後でボソリと正解を呟いたセイカを見下ろす。
「……ハルと話合うんじゃないか?」
「さぁ……」
俺をイジメていたという過去を知り、一番態度や対応を変えたのはハルだ。この先仲良くなれる日は来ないかもしれないとさえ思ったし、今日もまだ目が合わないのを見ているとやはりそうなのかもしれないと思えてくる。
「……水月、ほら、力仕事はまだ残ってる。行くぞ!」
「あっ、はい!」
まだ冷蔵庫に残っている肉を取りにキッチンへ向かうと、非力なため力仕事を任されなかったカンナが野菜を切っていた。
「野菜係はカンナか。野菜あんまり好きじゃないけど、カンナが切ってくれたんなら食べようかな?」
ピーマンにトウモロコシ、パプリカにナスにタマネギ。どうやら串焼きにするらしく、キッチンには串も用意されている。
「指切るなよ」
「ぅん、だい……じょぶ」
「キュウリも焼くのか?」
「これ、ず……きに、です」
「あっズッキーニ……うわ恥ずかし。さっさと庭に運ぼう、水月」
歌見の照れ隠しの早足に付き合い、肉を庭に届ける。冷蔵庫の中のバーベキュー用食品はこれで全てだ、カンナが作る野菜串を運ぶのを手伝いに戻ろうかな?
「ん……? メープルちゃん?」
メープルが開け放たれた窓から室内に入り、窓の傍に置かれた鞄を嗅いだり前足で触ったりしている。猫とは違う不器用な前足の動きは犬の愛おしい仕草の一つだ。
「猫とはえらい違いだなぁ……」
ネザメかミフユの物で犬のおやつでも入っているのかと鞄をよく見てみると、それはカンナが持っていたペット用キャリーバッグだった。
「……っ、こらこらこらこらダメダメ、カンナが泣いちゃうから……ほらお庭、お庭で遊ぼうな」
ウサギ入りのそれから俺は慌てて犬を引き離した。カンナのように犬がウサギを食べるなどとは思っていない、カンナの心労を気にしての行動だ。素直で頭のいい犬でよかった、庭の草を嗅いで回って暇を潰してくれている。
「みぃ、くん……お、またせ。やさ……でき、た」
「カンナ、お疲れ様。ありがとうな、俺いっぱい野菜食べちゃう。カンナにアーンして欲しいなぁ」
鞄についた犬の毛を取っているとカンナがトレーに串を盛ってやってきた。いいタイミングだ。
「ぷぅ太、と……話、してた?」
「へっ? あぁ、うん……可愛いご主人様でいいな、俺も飼って欲しいなぁって」
「みぃ、くん……飼う? ぼく、が?」
おっと、変態発言だったかな?
「……ふふ。みぃくん……ぼくの、飼い……? 飼い、ヒト? ふふ……いっ、ぱ……かわい、がる……ねっ」
少々Sっ気を感じる笑顔に本心ではなかったはずの「飼って欲しい」が実体を帯びてきた。カンナの手から食事を取り、カンナと共に散歩をし、お風呂に入れてもらったりして……! 最高じゃないか!
「みぃ、くん……さー、く……つく、の……てつ……って?」
「サークル? って何だ?」
カンナが車から荷物を運んでいる頃から気になっていた、大きなトートバッグ。その中には柵がたくさん入っていた。キッチンだとかに赤ちゃんや犬猫が入ってこないようにするための商品を思い出す見た目だ。
「こ、れ……繋げて、ねっ、さーく……つく、るの」
「柵でサークル? ふふふ」
「……? ぅん。ぷぅ太、走……る、とこ」
カンナの指示通りに柵を組み立てていくと、庭の隅に中に寝転がれそうな広さのサークルが出来上がった。カンナはその中に入ってキャリーバッグからウサギを出し、水やエサを置いてサークルから出た。
「おー走ってる走ってる……ウサギってジャンプ力すごいけど、これ飛び越えたりは出来ないのか?」
「な……と、思……けど」
そう言いながらもカンナはウサギにハーネスを取り付け、リードを最大まで伸ばし、別荘の外壁に沿っているパイプに結んだ。
「こ、で……出来ても……だ、じょぶ」
「慎重派だなぁ、可愛い可愛い……カンナは可愛いなぁ~! 食べさせ合いっこしような!」
ウサギの準備は完璧、次は俺達の腹を満たす番だ。
「歌見さん、これをそこに立ててくれないかな?」
「パラソルか?」
ネザメは真っ黒なパラソルを歌見に立てさせ、そこに椅子を運んだ。ネザメが力仕事をするなんて……! と感激していると、彼は次にアキの手を引いた。
「さぁ、アキくん。君の特等席だよ。天使のように麗しい君にはきっと白い物がよく似合うけれど、黒に包まれた君もとても美しい……黒には悪や汚れのイメージがあるかな? 違うよ、黒は何物にも染まらない高潔で落ち着いた上品な色だ……君のための色だよ。この花を君に捧げよう」
アキを椅子に座らせると小さな机をその傍に運び、一輪挿しの花瓶を乗せた。黒い百合らしき花をアキに見せ、その花を花瓶に差した。
「黒百合の花言葉は恋と呪い……美しの君はきっと数多の人間を恋に落とした。そして、呪った。君を見た者はもう他の全てを美しいとは思えないだろう、人生を丸ごと君に捧げたくなる……君は人を狂わせてしまう。僕もその一人だ」
お前の彼氏が弟を口説いてるぞ、とでも言いたげな目で歌見が顔で彼らを指す。
「黒百合は……いやな女の生臭い匂い、ってね~」
「……ごめんハル俺それ分かんない何ネタ?」
「川端……山の音」
「かわばた……? やまのおと……?」
「正解~、分かってんじゃんみっつん。実際どんな匂いするのかな~? ザメさ~ん、ちょっと花見~せてっ」
俺の背後でボソリと正解を呟いたセイカを見下ろす。
「……ハルと話合うんじゃないか?」
「さぁ……」
俺をイジメていたという過去を知り、一番態度や対応を変えたのはハルだ。この先仲良くなれる日は来ないかもしれないとさえ思ったし、今日もまだ目が合わないのを見ているとやはりそうなのかもしれないと思えてくる。
「……水月、ほら、力仕事はまだ残ってる。行くぞ!」
「あっ、はい!」
まだ冷蔵庫に残っている肉を取りにキッチンへ向かうと、非力なため力仕事を任されなかったカンナが野菜を切っていた。
「野菜係はカンナか。野菜あんまり好きじゃないけど、カンナが切ってくれたんなら食べようかな?」
ピーマンにトウモロコシ、パプリカにナスにタマネギ。どうやら串焼きにするらしく、キッチンには串も用意されている。
「指切るなよ」
「ぅん、だい……じょぶ」
「キュウリも焼くのか?」
「これ、ず……きに、です」
「あっズッキーニ……うわ恥ずかし。さっさと庭に運ぼう、水月」
歌見の照れ隠しの早足に付き合い、肉を庭に届ける。冷蔵庫の中のバーベキュー用食品はこれで全てだ、カンナが作る野菜串を運ぶのを手伝いに戻ろうかな?
「ん……? メープルちゃん?」
メープルが開け放たれた窓から室内に入り、窓の傍に置かれた鞄を嗅いだり前足で触ったりしている。猫とは違う不器用な前足の動きは犬の愛おしい仕草の一つだ。
「猫とはえらい違いだなぁ……」
ネザメかミフユの物で犬のおやつでも入っているのかと鞄をよく見てみると、それはカンナが持っていたペット用キャリーバッグだった。
「……っ、こらこらこらこらダメダメ、カンナが泣いちゃうから……ほらお庭、お庭で遊ぼうな」
ウサギ入りのそれから俺は慌てて犬を引き離した。カンナのように犬がウサギを食べるなどとは思っていない、カンナの心労を気にしての行動だ。素直で頭のいい犬でよかった、庭の草を嗅いで回って暇を潰してくれている。
「みぃ、くん……お、またせ。やさ……でき、た」
「カンナ、お疲れ様。ありがとうな、俺いっぱい野菜食べちゃう。カンナにアーンして欲しいなぁ」
鞄についた犬の毛を取っているとカンナがトレーに串を盛ってやってきた。いいタイミングだ。
「ぷぅ太、と……話、してた?」
「へっ? あぁ、うん……可愛いご主人様でいいな、俺も飼って欲しいなぁって」
「みぃ、くん……飼う? ぼく、が?」
おっと、変態発言だったかな?
「……ふふ。みぃくん……ぼくの、飼い……? 飼い、ヒト? ふふ……いっ、ぱ……かわい、がる……ねっ」
少々Sっ気を感じる笑顔に本心ではなかったはずの「飼って欲しい」が実体を帯びてきた。カンナの手から食事を取り、カンナと共に散歩をし、お風呂に入れてもらったりして……! 最高じゃないか!
「みぃ、くん……さー、く……つく、の……てつ……って?」
「サークル? って何だ?」
カンナが車から荷物を運んでいる頃から気になっていた、大きなトートバッグ。その中には柵がたくさん入っていた。キッチンだとかに赤ちゃんや犬猫が入ってこないようにするための商品を思い出す見た目だ。
「こ、れ……繋げて、ねっ、さーく……つく、るの」
「柵でサークル? ふふふ」
「……? ぅん。ぷぅ太、走……る、とこ」
カンナの指示通りに柵を組み立てていくと、庭の隅に中に寝転がれそうな広さのサークルが出来上がった。カンナはその中に入ってキャリーバッグからウサギを出し、水やエサを置いてサークルから出た。
「おー走ってる走ってる……ウサギってジャンプ力すごいけど、これ飛び越えたりは出来ないのか?」
「な……と、思……けど」
そう言いながらもカンナはウサギにハーネスを取り付け、リードを最大まで伸ばし、別荘の外壁に沿っているパイプに結んだ。
「こ、で……出来ても……だ、じょぶ」
「慎重派だなぁ、可愛い可愛い……カンナは可愛いなぁ~! 食べさせ合いっこしような!」
ウサギの準備は完璧、次は俺達の腹を満たす番だ。
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