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役割分担しつつ

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チャッカマンを使って火をつけて、網の上に野菜と肉を並べる。ミフユは少し離れたところで肉を切り分けてくれている、焼くのは俺の担当だ。ちなみにネザメはアキの隣に椅子を移動させ、優雅に足を組みながらストローを咥えている。飲んでいるのはオレンジジュースだろうか。

「狭雲、クマは部屋の中に置いてこよう。油が跳ねて汚れたり煙吸って臭くなったりするから、な?」

「え……ぁ……」

セイカからテディベアを取り上げた歌見は室内へと向かった。

《シャシリクはババアが唯一失敗せずに作れたロシア料理だ。親父の方が上手く焼いてたけどな。俺も自分で焼きたいんだが……今日は日差しが強いな、日傘差しっぱじゃやっぱ邪魔だろ? 大人しく献上されんのを待つとするぜ、なんてな》

「……? そうだね」

アキが何やら長々と話しているが、ネザメは当然首を傾げている。

「焼けましたか? 焼けましたよね、ください」

火の通り具合を確認しているとシュカが紙皿を突き出してきた。俺はくすりと笑い、薄く大きな肉を乗せてやった。

「ありがとうございます! お米が欲しいのですが……まだですか? 炊飯器でよかったんじゃないですか?」

せっかくのバーベキューなので、米も飯盒炊爨でしようということになったが、初めてだからか手間取ってしまってまだ炊けていない。

「赤子泣いても蓋取るな、言うんコレやんな? はんごーすいはん」

「すいさん、だから~」

「飯炊いとるんやから炊飯とちゃうん?」

「飯盒炊爨はすいさんなの~、炊飯も炊爨も意味一緒だけど~」

「一緒やったらええやんはんごーすいはんで」

米係はリュウとハル、そしてシュカだ。シュカは米を洗う担当で、火などは彼らの担当だったらしく、シュカは既に食事を進めている。

「次の次の分の米も洗っちゃいましたし、後はいいタイミングで蓋開けるだけなんでやることないんですよね」

「仕事が早いとサボってるみたいに見えて損だな」

「社会に出るまでに手抜きを覚えることにします」

「はは……リュウとハルにも肉持ってってやってくれ。これとこれ。シュカのはこっちな。二人の分は食うなよ」

肉を三枚シュカの皿に乗せ、不安なお使いを頼んだ。

「み……くん」

口元にストローが漂う。エサを食べる魚の気分でパクッと食い付き、濃厚なオレンジジュースを飲む。

「んん、美味いな。冷たくってサッパリしたよ」

カンナは今ジュース係だ、氷を割ってコップに移し、ジュースを注いでみんなに配っている。俺は最後の楽しみにされていたらしく、カンナは俺の傍でコップを持ってニコニコと笑っている。

「燻製器って見てても進み具合分かんないっすね……」

「見て分かんないんだこれ、見えないから分かんなかった」

レイとサンは燻製器の前でボーッと過ごしている。アレそんなに目を離せない物じゃないだろうから肉を取りに来ればいいのに……

「鳴雷一年生、追加の肉が切れたぞ」

「ありがとうございますミフユさん、お疲れ様です。どうぞ、あ~ん」

「む……ぁ、あーん…………うむ、なかなかいい焼き加減だ。上手いぞ、鳴雷一年生」

頬を赤らめながらも褒めてくれた。

「…………な、なぁ、鳴雷……トングなら片手でも使えるし、俺手伝えると思うんだけど……どう? ダメ、かな」

「やってみるか? 車椅子座ったままは腕網に当たりそうで怖いからダメだぞ、ちゃんと立てよ?」

「……! うん!」

立ち上がったセイカにトングを渡し、様子を見る。利き手にするための訓練中の左手はまだまだ不器用だが、箸よりも簡単なトングなら操れるようで見事に肉を挟んだ。しかし網に張り付いた肉を剥がす力は出せず、肉を引っくり返すことは出来なかった。

「む……もう焦げ付くようになってしまったのか、網を変えるか?」

「ゃ、まだイケますよ。セイカ、セイカは野菜串担当になるか? 肉よりは引っ付いてないぞ」

「う、うん……!」

満ち溢れたやる気が萎んでしまったセイカに新たな役割を与えると、彼はパァっと笑顔になった。必要以上に野菜串を転がしている。

「カンナとセイカの合作ならもう俺野菜だけで生きていける……」

「……肉はミフユが切ったのだぞ?」

「お肉も食べまぁす! アーンしてくださいよミフユさん、俺もしたんですから!」

「むっ……で、では……鳴雷一年生、ぁ、あっ……あ~……ん」

声と手を震わせながらミフユは俺に一切れの肉を食べさせてくれた。美少年に食べさせてもらうと普段より美味しい気がする。

「んん……! 最高に美味いっ!」

「……貴様はずっと焼き続けるつもりか? そろそろ交代するぞ」

「いえいえ、まだまだ大丈夫です。ミフユさんはゆっくりしててください」

背が低いから火に近くて熱いだろうとか、跳ねた油が顔に当たったりして危ないだろうとか、そんな本心は言わずに微笑む。

「ネザメさんのお世話、大変でしょう?」

「……あまりそう言いたくはないが、まぁそうだな。うむ、では甘えさせてもらうぞ」

ミフユは折り畳み式の椅子に深く腰掛け、深呼吸をしながら空を見上げ、ジュースを飲み、キョロキョロと辺りを見回すと、再び肉を切りに向かった。どうやら何か仕事をしていないと落ち着かないタチらしい、休憩が苦手な人間が居るなんて怠惰な俺には想像も出来なかった。

「みっつ~ん、脂身少ないのちょーだいっ」

「水月ぃ、俺よう焼けたんがええ」

皿が二つ突き出される。俺は彼らの要望通りの肉を皿に乗せてやった。

「ありがと~。あ~サンチュ欲しいなサンチュ~、フユさ~ん、サンチュある~?」

「肉はやっぱりタレやなぁ。米に合いそうや……米はよ炊けへんかな」

ウロウロする彼氏達を眺め、背筋を伸ばして腰を叩く。あらゆる台が少し小さく、背を曲げて使わなければならないのは高身長の宿命だ。キッチンも洗面台もこのバーベキューコンロも何もかもが少し低くて使いにくい。

「水月、そろそろ変わるぞ」

同じ悩みを持っている歌見はそれを察してくれたのか交代を申し出てくれた。高身長といえばサンもそうなのだが、彼は自宅でピンと背を伸ばしたまま腕を伸ばして包丁を使っていたため、あまりそういう悩みはなさそうに思える。肘をちゃんと曲げないと細かい作業は難しいと思うのは、俺がまだまだ不器用ということなのだろうか。それともサンは細かく手元を見ることがないから胸を張っていられるのだろうか。

「ありがとうございます。セイカ、ちょっと車椅子借りていいか?」

「え? あぁ、いいけど」

今まで椅子を使っていなかった俺の分の椅子は少し遠くにある。すぐ肉を焼く役に戻るつもりなので傍にあったセイカの車椅子に腰を下ろした。

「ふぅ……」

意外と小さいな。尻が窮屈とまでは言わないが、背もたれが低いし肘置きが短い。足を置く場所も膝が曲がり過ぎてリラックス出来ない。セイカはこの車椅子で満足出来ているのだろうか。

「みぃ、くん」

「ん、ありがとう」

セイカの体温が残る車椅子、目の前にある歌見の尻、カンナに飲ませてもらうジュース……なんだここ、天国か?
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