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ヤバい系? (水月+レイ)

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俺のバイトの後輩になる予定の少年は、スマホの壁紙に盗撮されてバズった俺の写真を使っていた。

(この子が盗撮犯? いえ、ハル殿はJKのアカウントだと……まぁSNSで自称する年齢性別なんざ信用なりませんが)

しかしシャッター音が聞こえたあの日、JKはいた気がするが少年はいなかった気がする。目深にフードを被っていても、ピンクの髪を晒していても目立つ子だ、視界内にいれば俺なら分かる。

(盗撮犯と別人だとすると、バズった投稿を見てわたくしに惚れ、店を特定し、会いに来るどころか後輩になろうとしているヤベェ野郎の可能性がありますな)

スマホの壁紙について聞いてみようか、いや俺の想像しているタイプのヤバい子だったら刺激しない方がいいのか?

「書き終わりました! よろしくお願いします!」

「はい、ありがとう。今日は帰ってもいいよ」

店長は履歴書を持って奥の部屋へと引っ込んでしまった。名前も年齢も見る余裕がなかった、悔やまれる。
フードを脱いでピンク髪を晒している少年は爬虫類のように予備動作なく立ち上がり、ぎょろっとした大きな目で俺を見上げた。

「はじめまして! 木芽このめ れいっす! よろしくお願いしますせんぱい!」

「よろしく。先輩って言っても数日だけだけど……えっと、木芽くん?」

「レイって呼んでくださいせんぱい!」

「え、ぁ、じゃあ……レイ」

ニコニコ笑っているし声も大きく雰囲気も明るい、だが目だけが黒く濁っている。

(ま、可愛いからいっかぁ!)

異様な雰囲気に攻略を一瞬迷ったものの、童顔で可愛らしいレイに俺はコロッとやられてしまった。

「えへへ……色々教えてくださいね、せんぱい」

心の声は──

(下のことまでみっちり教えてあげますぞ~ぐへへ)

──だが、もちろんそんなことは言わない。最初から好感度が高そうでもそんな真似しない。

「あぁ、何でも聞いてくれ」

「じゃあ、使ってるシャンプーとリンスとボディソープ教えてください! トリートメントとかも使ってたら教えて欲しいっす!」

意図は分からないが教えて損はないので俺は素直に使っている石鹸類を答え、レイは何故か熱心にそれをメモした。

「教えてくれてありがとうございますせんぱい!」

満面の笑みで礼を言うレイは可愛らしく、覚えた違和感を忘れてしまう。

「俺からも質問いいか? ピアス、もう穴塞いじゃってるのか?」

「せんぱいピアス好きっすか?」

質問を質問で返すなと言ってみたいところだが、俺は「好きだ」と答えた。

「教えてくれてありがとうございますせんぱい!」

あれ? 俺が質問しなかったっけ? まぁいいか。
そんな微かな違和感のある会話を何度か交わし、俺は仕事に戻りレイはおそらく自宅に帰った。




勤務時間が終わり、店長に挨拶をして「歌見は帰ってこなかったな」なんて残念に思いつつ裏口から出る。

「お疲れ様ですせんぱい!」

「へっ……?」

裏口の脇に黒いパーカーを着たピンク髪の少年、レイが立っていた。

「お前、帰ったんじゃ……まさかずっと待ってたのか!?」

「はいっす」

「……俺に用事か?」

「用事はないっすけど、せんぱいのお供しようと思ったんで待ってました!」

ぶんぶんと激しく揺れる犬の尻尾を幻視してしまう。彼はいわゆるワンコ系だが、そんな平和な響きには似合わない違う属性も持っていそうだ。

「……待つならバックヤードにいればよかったのに。外よりは快適だろ」

まさか、まさかだが、まさかだぞ? その属性は……ヤンデレじゃないよな? だとしたら大喜びするぞ、ツンデレに並ぶ魅力的な属性だ、是非ハーレムに欲しい。

「お前後ろ髪伸ばしてるんだな」

昼間は服の中に入っていて気付けなかったが、今はゴムでまとめた腰まで伸びた後ろ髪がパーカーの上に垂れている。

「はいっす、せんぱいこういう髪型はお嫌いっすか?」

「いや、好きだよ」

「……! ありがとうございますせんぱい!」

ヤンデレかどうかはまだイマイチ分からないが、どちらにせよ厄介そうな子であることは確かだ。だが、可愛い。童顔の美少年が無い尻尾振って懐いてきてるんだぞ? 手放せるか!

「俺電車乗るけど」

「俺も乗るっす!」

「俺ここで降りるけど」

「俺も降りるっす!」

可愛いからと甘やかしていたら家まで着いてこられてしまった。駅と電車では離せなかったけれど、流石に「俺もここに帰るっす」とか言わないよな?

「俺の家ここなんだけど」

「……! 教えてくれてありがとうございます!」

「教えたつもりはないけどさ、お前……家近くなのか? もう暗いし、送ってってやるぞ」

「いえいえ、電車で何駅も行くんで申し訳ないっす」

俺が申し訳ないんだが。

「そっか、気を付けて……いや、ちょっと待ってろ」

彼が勝手に着いてきたとはいえ、自宅まで遠いのに俺の家まで付き合わせた罪悪感を抱えた俺はレイを玄関前に待たせ、自室を漁った。

(あったあった、これをお土産に……シャッター音? わぉ、家の外観めっちゃ撮ってる、表札も……おぉ、自撮りまで。出るタイミング迷いますな)

シャッター音が途切れた瞬間を狙って外へ出ると、レイは慌てた様子でスマホをポケットに突っ込んだ。一応バレたくない行為のようだ。

「これ使ってくれ」

「……懐中電灯っすか?」

「あぁ、アメリカの警察が警棒代わりにしてるって話もあるいいやつだ。カッコよかったから買ったんだけど使い道なくてな、お前にやるよ。夜道帰る時に使いな」

「…………」

あれ? 反応薄いな、何あげても喜ぶタイプだと思ったんだけど。

「せんぱい……せんぱいっ、ありがとうございますせんぱい! せんぱいにもらった、せんぱいに物もらっちゃった、せんぱいにっ……! せんぱいが僕の心配した、せんぱいに心配してもらえた、せんぱい、せんぱいせんぱい…………大切にしますっ!」

「お、おぉ……気を付けて帰れよ」

溜めがあるタイプだったか。予想以上の大喜びだ、こんなに喜んでくれるならまた何かあげたいな。
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