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2.思わぬ出会い

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「なぜ途中でペースを早めたんですか!!テレビの取材の期限に間に合わないからって、あまりにも横暴です!!」
「うるさい!いつまでも悠長に結果を待ってなどおれるか!!」
「だからって、最初に出した実験計画を無視して、途中でペースを変えて良い理由にならないじゃないですか!!それは、研究者としてのタブーだって……」
「うるさい!そもそも、もっと早くに実験を初めていれば良かったものを!!」
「だから!実験の開始が遅れたのは、あなたがまだ始めるなと引き伸ばしたからで……」
「またその話か!!ワシは覚えとらんと言っとるだろうが!!」
「教授が覚えてないんですよ!!他の皆だって、聞いていましたよ?いい加減病院へ行って受診して来てください!」
「何を言うか!!ワシが痴呆だとでも言いたいのか!!」
「違います!もしかしたら、脳の疾患かもしれないから早く受診して欲しいだけです!!それに自分は、痴呆なんて言葉は出してませんよ?本当は自覚があるんじゃ……」
「うるさいうるさいうるさぁいっ!!ワシは健康そのものだっ!!ワシのいう事が聞けないなら、今すぐ出ていけぇーっ!!」
「そんな…!?あなたが必要だと言ったから!わたしはこのゼミに……」
「知るかそんな事!わしの言うことに従え!!」




「んはあっ!?(ガバッ)っはぁっ…はぁっ、はぁっ、はぁ…はぁ…はぁ……夢か。」

 ここはベッドの上。汗だくで目が覚めた。痴呆のマスコットキャラクターは何処にも居ない。

「(くしゃっ)……とんだ悪夢だ。」

 わたしはアレク。前世で拷問を受けて死んだわたしは、森に捨てられた子供に転生していた。そして、心優しい人に拾われて、治療とリハビリを受けて来た。そして……この人の元で、恩を返しながら生きていこうと誓った。

 しかし、3ヶ月前………ある日を境に、あの人は訪れなくなった。

 理由はわからない。何の前触れもなく突然だった。
 わたしの治療に嫌気がさしたのだろうか?それとも、別の用事で来られないのだろうか?どちらにしろ、あの人を待っている間に薬を飲む時間が訪れた。

 そのとき………今度こそわたしは死ぬのだと思った。

 そして、わたしは……あの人を待ち続ける事を決め、自ら薬を作って飲んだ。

「さてと、先ずは……」

 そうして、自ずとこの世界での己の目標も決まっていた。

 あの人の手伝いが出来る様に、薬学を学ぶ事だ。幸い、あの人のメモや備蓄分の薬草は沢山ある。だから、あの人が帰って来るまでここで学びながら待とう。

 そして、戻って来たあの人の手伝いをしながら今世を生きていこう。今はそれしか恩返しが思いつかない。そして、そのためにも……

「(グググ…グ……)…うう……くぅ……」

 もっと体力を付けなければならない。まともに歩けない事には何も始められないからな。

「……9!……ぅぅ…(プルプル)」

 とりあえず、プランク30秒、足揚げ腹筋10回、 腕立て10回を3セットしている。

「(グッ)…10!…(ドタッ)…ふぅ……ふぅ………よし。」

 腕立ては……まぁ、こんなもんだな。

「(ゴロン)……あぁ、肩……痛い。」

 この世界に来た当初から感じてるけど、やっぱりここの重力は強いな。筋トレを初めて3ヶ月が経つのに回数が全然増やせない。それどころか、日に日に体が重くなってる気がする。重力が増すなんてありえないから単純に体が弱り続けてるって事だろう。絶えず体が弱り続けているなら、尚更辞める訳にはいかないな。

「(スクッ)よし、筋トレ終わり。(トコトコ)」

 そうしてかれこれ3ヶ月、自重トレーニングと薬の勉強に勤しんできた。気が付けば、この世界に来て半年が経過していた。

 いつもの薬を作るのにも慣れて、手際も良くなって来た。大分歩ける様になり、今じゃ走る事だって出来る様になった。

「さて、次は……(ガチャッ)」

 だが、問題は他にもある。

「(クゥゥゥッ)……残りの食糧は、これだけか。」

 生活をする上で消耗は絶えない。相当な備蓄があった薬草や食材が底を着きそうだ。練習とかで薬草を大分無駄にしてしまったからなぁ。

「………」

 よし、森に行こう。

 体を鍛え始めたお陰で、多少動ける様になった。

 あの人の手記や本によると、薬草や食糧は、この小屋の周りに広がる森で採取したものだったらしい。

 危険かもしれないが、どちらにせよこのまま小屋に篭っていればあの人が戻って来る前に飢えか病で死に至る。多少危険でも、行かねばなるまい。

 いつかは、森へ行って補給しなければならない。そう思っていた『いつか』は『今』だ。


それに、最悪死ぬだけだ。何も問題はない。

「(ガシッ)よっ…と。」

 この日に向けて、以前から準備は終えてある。

 実は、これまでは窓からの景色しか見えなかったから少し楽しみでもある。

「よし、行くか。(ギィィッ)」

 ドアを開けて初めて外に出る。

 どうやら、ここは深い森の奥の小屋の様だった。

「………」

 まぁ、森で食われたとしても仕方ないよな。

 そうして、森の奥へと歩みを進めた。

ー数十分後

 そして、森に入って食材と薬草の採取を始める。幸いな事に、豊かな森だから直ぐに集められる。にしても……

「……全然来ないな。」

 どうしたわけか獣が襲ってくるどころか、近づいて来る気配すらない。

“「(キシャーッキリリリリッキェッキェッ)」“
”「(グルゥゥゥアアァァァッ!!)」"
「……雄叫びは、聞こえるんだよなぁ。」

 正直、襲われて食われるならそれも仕方ないと思っていたから、拍子抜けといった感じだった。考えてみれば、あの人に拾われる前から襲われる感じがなかった。

「実はおとなしいのか?……ま、好都合だけど。」

 サクサク作業を進める。
 
「……ん?(ヒョイッ)」

 木の根元に沢山の石があった。明らかに不自然だ。けど、丁度良い。焼き石用に少し持って帰るか。

「(ヒョイッヒョイヒョイッ)」

 そうして、手頃なサイズの小石を数個拾った。
 
「さて……そろそろ帰るか。」

 帰りの道中も油断は出来ない。どんな獣が出てくるかわかったもんじゃないしな。




「(バタン)………帰って、来れたな。」

 驚くほどあっけなく……問題無く帰って来れた。出発前の様々な杞憂なんて頭から消える程、あっさりとだ。

「………さて、始めるか。」

 まずは戦利品の仕分けからだ。
・薬草……数十種類
・食用の野草……十分量
・木の実……たくさん
・小石……数個
                  以上
「…………」

 当然だが、肉は無い。贅沢を言える立場では無いが、やはり動物性タンパク質は欲しい所だ。干し肉が森に生えているとは思ってなかったが、やはり肉が欲しい。ネズミかカエルかヘビでもいれば食用にしようと考えてたけど、つめが甘かったみたいだな。

「まぁ、無事に帰ってこれただけ行幸…だよな。」

 まぁ何にせよ、これでしばらく食料や薬草に困らないな。無くなったらまた森から取って来れば良いし。
 そうして広げた戦利品を片付けている時、違和感を覚えた。

「……ん?」

 この小石……さっきと位置が変わってないか?一つだけ、離れている。

「(ヒョイッ)……何だ?」

 何となく、小石を手に取る。

“「(スォォォォッ)」“
「!?」

 小石がみるみるうちに色を変えていく。そして……

“「(プルンッ)」“

 手の中でそれは、何とも綺麗な半透明の緑色に変わっていた。

「………」
“「………」“
「……(つむっ)」
“「(プニュッ)……?」“
「(つんつんっ)」
“「(プルルンッ)」“

 指で押してみると、弾力がある様で沈み込むような不思議な……煮凝り?……いや、ゼリーと餅の良いとこ取りみたいな感触がした。てか、これって生き物か?

“「(プルンッ)」“
「…………」

 さっきから、敵意を一切感じない。警戒されてないのか、それともそこまでの発想に至ってないのか……どっちにしろ、この世界であの人以外で初めて見る生物って事になる。

「……(そっ)」
“「(プヨッポヨッ…)」“

 とりあえず、机に置いておく。

 さて、どうするかなこいつ。本来の居た場所に戻すのが一番だろうけど、何処で拾ったか曖昧なんだよなぁ。そもそも、ここも森の中だし…………そうだなぁ……

「………(チラッ)」

「なぁ、お前はどうしたい?」
“「?(プルン)」“
「元いた場所に戻りたいか?戻りたいなら、手の上に……」
“「!(ペタッペタッペタッ)」“

 そうして手を近付けると、跳ねながら近づいて来た。

 そして……

“「♪(スリスリスリスリ)」“

 手に擦り付いて来る。まるで甘えている様だ。

「……………」

 こいつ、野生に解き放ったら寿命……数秒で終わる様な気がする。

「……まぁ、良いか。」

 特に危険は無さそうだし、邪険にするのも違うな。

 こいつの好きにさせれば良いか。

「これからよろしくな。」
“「♪(プルンッ)」“

こうして、半透明の同居人が出来た。
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