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コルテオは勢いよく食事にむさぼりつき、鼻水を流していた。「美味しい……うぅ……美味しい」と泣きながら食べては、急いで食べた反動でむせ返った。食費を切り詰めねばならないほど追い込まれた者にとって、まともな食事にありつけるありがたさは例えようもない。
さて、ベランジェールはてっきりコルテオが新しい恋人(ヴァネッサ)に夢中で創作をおろそかにしているのだと思っていたので、肩すかしにあった。ヴァネッサと月に一度会うか会わないのかであれば、恋愛に大して時間を費やしていないことになる。別の問題を抱えていると考えた。
「ヴァネッサとはもっと会っているのかと思っていたわ。恋人どうしなんでしょ? 遠くに住んでいるわけでもないのに」ベランジェールはコーヒーに口をつけながら言った。
豚肉のソテーを頬いっぱいに詰め込んでいたコルテオはごくりと飲みこんだ。逆流していた血がようやく正常運転を始めたような感覚を持った。
「おいらは……もっと会いたいんですけど、しかたないんです。ヴァネッサはおいら以外の画家のモデルもやっていますし、洋服ブランドのショーにも出ているそうです。いろいろと忙しいみたいで……」
「じゃあ、あなたは会えない時間に何をしてるのよ。描けるでしょ?」
「その……本当に申し上げにくいのですが、ベランジェール様から頂く毎月の支援金100フランのうち、90フランはヴァネッサにモデル代として渡しているのです。なのでおいらの手もとには10フランしか残らず、生活もままならないので、定食屋の皿洗いを手伝っております……」
すでにセバスチャンから報告を受けていたものの、ベランジェールはあらためて頭を抱えた。モデルに支払うお金で九割の生活費を失っている。創作活動を支えるための支援金なのに、そんなことをしていては生活も乱れるはずである。コルテオの絵の才能を信じてはいるものの、裏切られたような気がして、どうしたものかと二杯目のコーヒーをすすった。
「90フランは出しすぎ。10フランも出せば普通にモデルは集まるはずよ。モデルの仕事をしていると自慢したいだけの女が大勢いるもの。ヴァネッサをモデルとして起用するのはやめなさい。私が見つけてあげてもいいのよ」
目を大きく見開いたコルテオは(そんなことありえない!)とでも言いたげに、首をおおげさに横に振った。
「ヴァネッサはおいらのすべてなんです! 彼女の神聖なまなざしが、芸術という名のろうそくに火を灯してくれます」と彼はきっぱりと言った。
「まあモデルが大事なのは理解するわよ。でも、ヴァネッサに90フランも払ってあなたが皿洗いしているなんて、本末転倒でしょ? 本当にあなたたちは恋人関係なの?」
「はい。画家として一人前になったら一緒に暮らそうっていつも話しているんです。ヴァネッサはヴァネッサでモデルの仕事を続けていきたいらしく、首都のコレクションに出るのが夢だと言っています。おいらだけが……彼女の仕事を値切るわけにいかんのです。男として……」
さて、ベランジェールはてっきりコルテオが新しい恋人(ヴァネッサ)に夢中で創作をおろそかにしているのだと思っていたので、肩すかしにあった。ヴァネッサと月に一度会うか会わないのかであれば、恋愛に大して時間を費やしていないことになる。別の問題を抱えていると考えた。
「ヴァネッサとはもっと会っているのかと思っていたわ。恋人どうしなんでしょ? 遠くに住んでいるわけでもないのに」ベランジェールはコーヒーに口をつけながら言った。
豚肉のソテーを頬いっぱいに詰め込んでいたコルテオはごくりと飲みこんだ。逆流していた血がようやく正常運転を始めたような感覚を持った。
「おいらは……もっと会いたいんですけど、しかたないんです。ヴァネッサはおいら以外の画家のモデルもやっていますし、洋服ブランドのショーにも出ているそうです。いろいろと忙しいみたいで……」
「じゃあ、あなたは会えない時間に何をしてるのよ。描けるでしょ?」
「その……本当に申し上げにくいのですが、ベランジェール様から頂く毎月の支援金100フランのうち、90フランはヴァネッサにモデル代として渡しているのです。なのでおいらの手もとには10フランしか残らず、生活もままならないので、定食屋の皿洗いを手伝っております……」
すでにセバスチャンから報告を受けていたものの、ベランジェールはあらためて頭を抱えた。モデルに支払うお金で九割の生活費を失っている。創作活動を支えるための支援金なのに、そんなことをしていては生活も乱れるはずである。コルテオの絵の才能を信じてはいるものの、裏切られたような気がして、どうしたものかと二杯目のコーヒーをすすった。
「90フランは出しすぎ。10フランも出せば普通にモデルは集まるはずよ。モデルの仕事をしていると自慢したいだけの女が大勢いるもの。ヴァネッサをモデルとして起用するのはやめなさい。私が見つけてあげてもいいのよ」
目を大きく見開いたコルテオは(そんなことありえない!)とでも言いたげに、首をおおげさに横に振った。
「ヴァネッサはおいらのすべてなんです! 彼女の神聖なまなざしが、芸術という名のろうそくに火を灯してくれます」と彼はきっぱりと言った。
「まあモデルが大事なのは理解するわよ。でも、ヴァネッサに90フランも払ってあなたが皿洗いしているなんて、本末転倒でしょ? 本当にあなたたちは恋人関係なの?」
「はい。画家として一人前になったら一緒に暮らそうっていつも話しているんです。ヴァネッサはヴァネッサでモデルの仕事を続けていきたいらしく、首都のコレクションに出るのが夢だと言っています。おいらだけが……彼女の仕事を値切るわけにいかんのです。男として……」
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