最愛の敵

ルテラ

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真の英雄がいない世界

108話 愛した人

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「全力で反対したよ。トートは仲間に入れるべきじゃないって、でもそれだけは譲ろうとしなかった」
「ラズリは全てに置いて、完璧だった。遥か未来を見て勝利へと導いた。でも・・・その人生は余りにも残酷なものだったでしょうね」
「あんな過去誰だって・・・」
「そうじゃない。そうじゃないんだ」
 フィールさんは悲しそうに言う。
「全てが完璧なラズリは何が正しいか、このゴールには何をすればいいか、マニュアルでもあるかのように正確に導ける」
「だから早々に切り捨ててしまう。だから・・・トートに関心を頂いたことに私達は驚いた。私達でも分かった。この子は無理だって。でもラズリは聞こうっとしなかった」
「でも過去を聞いて、今を見て分かったよ」
 トートは首を傾げる。
「過去を知ってもなお、君はラズリを理解しようとしてくれたら」
 トートの目から涙が出る。
「だからって、こんな手の込んだ・・・茶番だ。それに皆さんだってラズリさんを理解し、側に・・・」
「俺らはホルスという、光を無くして、怖くなってラズリを光にしたんだ」
「そう。君と同じじゃない。私達は偽善者」
「違う!」
 トートは怒鳴るように言う。
 それを見た2人は笑う。
「お前は本当に優しいな。俺もラズリならお前に殺されたい」
「私も」
「縁起でもないこと言わないで下さい」
「ごめん。ごめん。ラズリは2つのことを同時に欲した」
「一つ目は罪の精算。2つ目は世界の平和さ。ラズリらしくないっと思う反面、あいつらしいとも思う」
「そうだね。過去を振り返るとわかるね」
『だってラズリは・・・』


「久しいな、トート」
「陛・・・リヒト様の方がいいですか?」
「もう身分なんてものはない。せめて『さん』にしてくれ」
「はい・・・点だったものが全てが線になりました」
「そうか・・・」
「ラズリさんの過去全て見たはずなのに、理解した気になりません」
「それほど壮絶な人生だったからな」
「でもすごい人っというのは分かります。ラズリさんの望んだ世界の形に成りつつありますから」
「そうか」
「でも、思ってしまう。ラズリさんが望んだ世界なのにラズリさんはもうこの世にはいない。そして世間は本当の英雄であるラズリさんを忘れていく。そんな世界に一体救う価値があったのでしょうか?」
「トート・・・」
『誰かが死ななければ学ばない』
「誰かが死ななんければ成り立たない世界を救う価値なんてあったのでしょうか?」
 トートは拳を強く握る。
「分かっているんです。これこそがラズリさんの望みだってことわ。でも」
「道理は通すやつだった」
 リヒトが話し出す。
「皇帝である、私に首を垂れることのないやつだった。最初は皇帝とうい存在を恨んでいると思った。しかし、そうではなかった。そもそも概念などなかったんだ」
「概念?」
「そう。どんなに賞賛されようと、どんなに名声を手に入れてもラズリにとっては、それはただの名詞でしかなかった。だが、それがラズリの優しさであり、才能だった。それら全てに無関心だったが為、ラズリは誰も敬わず、恨まず、憎まず。全てのものを平等に見た、本当に頭が下がる。そう、思わないか?」
「はい」

 そうだった。だって貴方はこの世界を

『愛していたから』


 貴方はずっとそうでした。貴方が感情を露わにする時はいつだって誰かが傷ついている時でしたね。貴方は死ぬことよりも生きることを幸せとしたんですね。大好きな人達が少しでも幸せに生きられるように。

『恨んでくれ』
 恨まないよ。貴方は恨まなかった。なら自分らが恨むのは筋違いです。

『どうか忘れてくれ』
 忘れないよ。忘れたら貴方の思い通りになってしまうから。

 その後、自分らはエウダイモニアで生涯を終えた。誰かがそうしようと決めた訳ではなかったが、自分らは生涯、子を儲けることはなかった。


 これはトートが心を失ったラズリとそれを取り巻く人達が辿った醜くも美しい人生の一欠片。
 これは世界を統一するまでの物語。
 これはトートがラズリを救うまでの物語

 
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