最愛の敵

ルテラ

文字の大きさ
上 下
109 / 115
真の英雄がいない世界

107話 今だから

しおりを挟む
「その目的とは“戦争後の未来”だった」
「じゃあ、分かっていたんですか?どうなるのかを」
 皇帝は頷く。
「それを叶える協力をしてやるからこちらにも協力しろっとな」
「そうですか・・・」
「あっさり、受け入れるな」
「受け入れたわけじゃありません。ただ、何を思おうともう意味をなしません」
「最初は利害の一致にしか過ぎなかった。だがラズリに言われたことがある」

『人は愚かにも最強の武器ではなく、最弱の武器を選んだ』

「それはどう言う意味でしょうか?」
 皇帝は話してくれた。大切な本の1ページを捲るよに優しく、静かに。

『人は愚かにも最強の武器ではなく、最弱の武器を選んだ』
「それは?」
『言葉は武器よりも先に生まれた。長い間紡がれた物はそれだけの価値と理由がある。だが人々は愚かにも後に生まれた武器を選んだ。血で血を覆う、そんな世界が生まれてしまった。皇帝、どうかこの先、武器ではなく言葉で争う世界にしてくれなか?傷つけるのは良くないが、少なくとも救いようはあるだろう』
 皇帝は懐かしむように語る。
「ノーネイムっというのは?」
「人生はその者を形成する。その者の人生分かれば、どんな者か自ずと分かる。だがラズリはそれが分からなかった。いや隠し続けた。多くの名を与えられた、生き続けた。恐らく本人するらも理解しきれてなかっただろう。何も分からない存在ノーネイム。」
「ラズリさんは何故、そこまで隠したのでしょう」
「それは・・・」

「トート、どうしたの?」
 自分はライの元を訪れていた。
「ライ・・・」
「ん?」
「君だったんだね」
「何が?」
「皇帝に情報を流したのは」
 その言葉にライの笑顔が少しだけ曇る。
「どうしてそう思うの?」
「ラズリさんは自分の目的を外部に徹底的に隠した。だからこの作戦が上手く行ったんだ。でも何故か、皇帝はラズリさんに合う前からラズリさんの目的を知っていた。何故知っていたのか?そんなのライが情報を皇帝に流したからじゃないっかて考えるにが筋だろう?」
 参った、っと言わんばかりにライはため息を吐く。
「そうだよ。僕が流した。ラズリの目的をより確固たるものにする為に。気づいているんだろう?僕が好きだった人のこと」
「ラズリさん・・・」
「そうだよ」
「好きなら・・・」
「好きだったからこそ、止められなかった。それがどんな結末になるのか知っていても。だって、ラズリの初めての我儘だったんだから」
 ライは自分の方をチラッと見る。
「恨むかい?」
 自分は首を振るう。
「ラズリは気づいていたよ。でも言わなかった。優しすぎる。この作戦だって・・・でも仕方がないか、ラズリは・・・」

「トート」
 自分はラズリさんのお墓に来ていた。
「レオさん」
 そこにレオさんが現れる。
 自分らは特に話すことがなかったからなのか黙ったまま、景色を眺める。
「レオさんとセリアさんは契約婚だったんですね」
「まあ」
 レオさんは少し斜め上を向いて言う。
「すい・・・」
「別に怒りませんよ。セリアは貴族の令嬢でしたから、無理やり結婚させられそうだった所に俺から条件を出しました」
「条件?」
「ラズリの体の管理をする代わりに偽造結婚をします。っと、ラズリの背中の傷は見たことありますか?」
「はい」
「前は俺の母が見てくれたんですが母は病気で死んでしまい、ラズリの管理をする人がいなくなってしまったんです。ラズリは大丈夫だって言ったんですが心配でしたから。でも・・・」
 レオさんは真っ直ぐ前を見る。
「いつの間にか好きになってしまいました。だからこれからは本当に愛そうっと思います」
「はい、それがいいですね」
「・・・ラズリはある意味全ての者を愛していたのかも知れません」
「どう言う・・・」
「自身が悪役になってでも世界を平和にしたかった。それ程ラズリはこの世界を・・・」


「どうした?」
 トートはフィールとアイシャに会いに来ていた。
「お2人も全て知っていたんですよね?」
 今更確認することでもないが、どうしても確認したくなる。
「ああ」
「ええ」
「今だに分かりません。何故自分だったのか」
「俺らは・・・」
 フィールさんは静かに語り始める。
しおりを挟む

処理中です...