最愛の敵

ルテラ

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真の英雄がいない世界

109話 恨まなかった人

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 『お前など産まなければ』

 初めて知った愛情は憎しみという愛情だった。
 初めから全てがモノクロだった訳ではなかった。だが、言葉も知らず、己が誰かも知らないのにも関わらず、その言葉だけは忘れず、その言葉だけは何故か理解出来た。
 それが初めての呪縛。

『No.1その力を全てお前のものにしろ』
『長かった。ここまで来るのにどれ程の歳月を要したか。今までの“失敗作”とは違い、お前は“成功作”になれる。ふむ、髪が白くなったのは予想外だったがまあいい。No.1、いや、名を授けよう「サマエル」っと言う名を授けよう』
『私の命令に背くことを許さず。敗北を許さず。守れ!お前はその為に生まれてきた。完全ではないお前に生きる価値はない!!』
 後から知った愛情は余りにも歪んでしまっていて、他人にそれを押し付けることでしか成立しない。だから私は愛情を拒絶し、否定した。
 それが二つ目の呪縛。

『今日からこいつらが武術、魔法を教える。こっちがレメゲトン、そっちがゲーティアだ』
 最初は分からなかった。それが誰なのか。いや、分かっていたのかも知れない。
 髪はガラスから反射する金色の髪を知っていたから、それが自分とレメゲトンのみが同じ髪色だったから。分かっていたのかもしれない、だが目を背けた。知ったとて何も変わらないから。
『殺し合え』
 何も驚かなかった。それが当たり前だったから。でも、今でも疑問は残っていた。何故彼らは手加減したのだろう。あの時殺させるのは・・・そんな訳がなかった。そう考えてはいけない。考えてしまえば・・・だが追い討ちをかける様に
『そいつらの仮面を外せ』
 レメゲトンは青い目をしていた。ゲーティアは赤い目をしていた。
ああ、やっぱり
『サマエル、これでお前の顔見ろ』
 落ち着け、分かっているんだ。冷静でなければなかった。
『そいつらはお前の親だ』
でも、感情は思う以上に心を蝕んだ。
 気がつくと全てがモノクロだった。

『誰だ?』
 ようやく終わらせられると思った。
『殺して下さい』
 しかし今それは余りにも浅はかな考えだった。
「ふむ、なら僕が君の主人になろう。自分自身が生きたいと思うその時まで、僕が生きる理由になろう」
 何故、彼が生きているのか分からなかった。でも、その手を握った。
 それが生きる理由だったから。

 そこからの彼は驚くほど優しかった。同一人物であるかを疑うほどに、初めての温かい愛情心地よかった。だから・・・
 彼が目の前で死んだ時、耐えられなかった。
 そして目が覚めるとモノクロの世界に血だけがはっきりと色づいていた。
 それが3つ目の呪縛。

 それ以降は何も感じられなかった。いや、何も感じたくなかった。一つを感じてしまえば全てを感じてしまうから。何も触れたくなかった。だから仮面を被り、切り離した。はずだった・・・
 人は酷い言葉でしか人を切り離すことが出来ない。切り離す為に多くの暴言吐いた。嫌われる様に突き放した。それなのに何故、彼らは離れない。

『褒美をやる』
『・・・なら一つだけ頼みがある』
 離したい筈なのに何故、手を差し伸べた?もしかしたら、同じだと勘違いしたのかもしれない。
 皇帝の頼みで行った授業で
 『では、講義を始める』
 君を見た時、同じ目していると思った。救わなけれいければと思った。それが偽善でどれ程烏滸がましいか分かっていながらも、こうなるのは私一人で十分だと思ったから。だが、お前には辛い思いをさせてしまった。
 私を人と思ったが為にお前に背負わなくてもいい十字架を背負ってしまった。すまない。欲が出てしまった。救われるのならトート、君がいいと。
 これで作戦は順調に進むと思っていた。
しかしアタナシアナに出会うまでは。
『殺して』
 声を聞いた時から
『ヴィラク』
 その名を聞いた時から、もう諦めの様に確証してしまった。だが、目を背ければよかった。しかし、一度芽生えた疑問を消すことは出来なかった。
 プレートの中に入った液体の上に1滴垂らすと、緑色から赤色へと変貌した。
『やはりか』
 そう言った瞬間ラズリはそのプレートを握りつぶす。
『あいつは生きてる』
 この実験はアタナシアと私の血縁について調べるものだった。それだけの筈だった。だが予想は凌駕された。アタナシアナと私が同一人物であるという、結果が出た。
 自身を客観的している様で、でも自身と余りにも掛け離れた存在に背徳感を覚えた。だから、突き放した。私ではない存在になって欲しかったから。私になってしまえばそれは悪夢っと表現するには余りにも生優しい、そんな残酷な人生が待っているから。
 アタナシアナだけではない。セイレもだ。もしホルスがソロモンであったっと、気づいた時点で忠誠を誓っていれば、ホルスが死んだと思わず探し側で使えて入れば、お前達は生まれずに済んだ。苦しまずに済んだ。
 いや、そもそも私が生まれてさえいなければ。
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