医師で子爵の彼にお世話になりすぎです。

(3)

「これは家の意志なんだ。メリッサの父親は金持ちだし。僕の感情は関係ないんだ。それに君は伯爵家だが病弱だろ？」

　その言葉に、アネットは息をするのが辛くなり、周囲がぼやけ始めた。

　彼女は過呼吸になり、力なく床に崩れ落ちた。

　会場は騒然となり、人々が彼女の周りに集まったが、アネットの心にはもはやルーデンの裏切りへの悲しみしか残っていなかった。



　会場のざわめきの中、フェリックス・ノイロイター子爵が静かにアネットのそばに膝をついた。

　フェリックスは、落ち着いた銀髪と鋭い視線を持つ、スプリング伯爵家の主治医である。

　フェリックスはアネットより12才年上で独身だった。

　彼の目は深い森のように暗く、知性と慈悲を同時に映し出していた。身長は高く、姿勢はまっすぐで、どことなく貴族的な威厳が漂う。

　社交界のパーティでは、フェリックスはダークな色合いのテーラードスーツで、彼のスマートな体型を際立たせている。

　シャツは純白で、カフスには家紋が刻まれたカフリンクスが光り、ネクタイはシルク製だった。



　フェリックスは医師としての冷静さを保ちつつ、彼女の状態を確認し始めた。

「アネット。私です、主治医のフェリックスです。深呼吸をしてください。落ち着いて」

　彼の声は優しく、安定感があった。

　アネットはフェリックスの顔を見上げた。

　彼女の呼吸はまだ速く浅かった。

「先生…助けて…息が...」

「大丈夫。ここにいて、あなたを守りますから」

　フェリックスは彼女の手を握り、彼女が落ち着くのを助けるために呼吸を合わせた。

　周囲の人々が心配そうに見守る中、フェリックスはアネットに呼吸をゆっくりと深くするよう促した。

　彼女の呼吸が落ち着くにつれ、彼女の意識もはっきりとしてきた。

「ありがとう、先生。あなたがいてくれて...」

　アネットの声は感謝に満ちていた。

　フェリックスは微笑みながら答えた。

「いつでも、アネット。友人として、また医師として、あなたのそばにいます」

　フェリックスの存在が、アネットにとっての灯台のように、暗闇の中で光を放っていた。

　アネットはフェリックスの顔を見つめ、改めて彼の美しさに心を奪われた。

　だが、そのせいで彼女の心拍数はさらに高まってしまった。