【完結】医師で子爵の彼にお世話になりすぎです。

朝日みらい

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 フェリックスはアネットの胸に手を当て、戸惑いを隠せなかった。

「アネット、心拍数が非常に高い。これは心臓の病かもしれません。私の病院でしっかりと検査を受けましょうね」

 フェリックスは真剣な表情で言った。

 アネットは驚きと不安で目を見開いた。

「違いますわ、先生、私はただ見蕩れて...」

「いいえ、リスクを冒してはいけません。私はあなたの健康を第一に考えていますから」

 フェリックスは断固として言った。

 彼はアネットを支えながら、彼女を自らの馬車に乗せて病院へと急がせた。



 フェリックスの馬車は、深いマホガニー色の木材で作られており、光沢のあるヴァーニッシュが施されている。馬車の側面には、繊細な金色の装飾が施され、フェリックス家の紋章が誇らしげに描かれていた。

 豪華なベルベットのクッションが敷かれた座席があり、窓には重厚なカーテンが垂れて、座席の間には小さな木製のテーブルがある。



 フェリックス・ノイロイター子爵が経営する病院は、威厳と静寂を兼ね備えていた。

 クラシックな建築様式で建てられたこの病院は、白い大理石の壁で、入り口には、高くそびえる柱が並び、その間から重厚な木製の扉があった。

 院内は清潔感に溢れ、落ち着いた色合いの内装だった。

 待合室には快適なソファが配置され、壁には穏やかな風景画が飾られている。

 廊下は広々としており、天井から吊り下げられたランプが温かみのある光を放っていた。



 病院に到着すると、アネットはすぐに検査室へと案内された。検査をして後、個室の病室へ向かった。

 病室には、高級感のある木製のベッドが置かれ、その上にはふんわりとした羽毛の掛け布団が整えられている。

 ベッドの横には、小さなナイトテーブルと、隅には快適なアームチェアと小さなテーブルが設置されていた。


 アネットは白い病院のベッドに横たわり、静かな部屋の中で窓の外を眺めていた。

 彼女の部屋には、病院が提供したシンプルな着替えが整然と置かれており、家族の面影はどこにもない。



 ある日、名目上の友人である令嬢たちが訪れた。

 彼女たちは高価なドレスを身にまとい、手には小さな花束を持っていたが、その目は空虚で、アネットに対する真の心配は感じらなかった。

「アネット、お見舞いに来たわ。早く良くなってね」

 一人の令嬢が形式的に言った。

「ありがとう、皆さんのお気遣い、感謝しています」

 アネットは弱々しく頬笑んだが、心の中では孤独を感じた。
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