【完結】医師で子爵の彼にお世話になりすぎです。

(2)

　ある10才の夜、幼いアネットは過労から高熱にうなされてベッドに横たわっていた。

　部屋の灯りは暗く、ただ彼女の荒い呼吸だけが静かな部屋に響いていた。

　そんな中、主治医であるフェリックス・ノイロイター子爵が静かに部屋に入ってきた。

「また熱を出してしまったのですね。アネット、無理は禁物ですよ」

　フェリックスは優しく彼女の額に手を当て、心配そうに顔を覗き込んだ。

　アネットはフェリックスの声に安堵の息をつき、彼の手の温もりに少し力を取り戻した。

「すみません、先生。私、ルーデン様に好かれたいだけ…」

「アネット、あなたはそのままで十分魅力的です。無理をして体を壊しては元も子もありませんよ」

　フェリックスの言葉に、アネットは涙ぐみながら微笑んだ。


　フェリックスはいつも彼女の側にいて、支えてくれた。

　彼がいる限り、どんな困難にも立ち向かえると感じていた。

　フェリックスはアネットに安静を促し、彼女が眠れるように部屋の灯りを落とした。

　アネットはフェリックスの優しい眼差しを最後に見て、安心して眠りについたのだった。
　



　婚約者ルーデン・ホールディングスは、公爵家の令息としての風格を備えていた。

　彼の外観は、黒くつややかな髪と、鋭い眼差しを持つ碧眼が特徴的で、その姿は貴族の中でも一際目立つ存在感を放っていた。

　身長は高く、筋肉質でありながらもスリムな体型をしており、彼が身に纏う衣服は常に最高級の素材で仕立てられていた。



　しかしこのパーティーで、アネットの幸せは突然終わりを告げる。

　ルーデンが静かに彼女の前に現れ、深刻な面持ちで言ったのだ。

「アネット、僕たちの関係について話さなければならないことがあるんだ」

　アネットの心臓が跳ね上がった。

「どうしたの？　何か問題があるの？」

　ルーデンはため息をつき、彼女の手を取った。

「申し訳ないが、僕たちの婚約はここで終わりだ。僕はメリッサ・ローソンと結婚することになったんだ」



　メリッサ・ローソンは、男爵家の令嬢である。

　髪は柔らかな栗色で、瞳は暖かい琥珀色をしており、その優しい眼差しは人々を惹きつけた。彼女の肌は磨き上げられた真珠のようだった。



　アネットの世界が崩れ落ちた。

　彼女の目から涙が溢れ、声は震えていた。

「なぜ？　私たちは愛し合っていると思っていたのに...」

　ルーデンは彼女の目を見ることができず、周囲の視線を感じながら答えた。