なぜお義母様と呼ばないのです

異国の王子

昼過ぎボーっとするだけの贅沢で優雅な一時。
「済まぬ」
突然部屋に入って来た可愛らしいお客様。
ここには珍しい男の子。堂々とした少々生意気なお子様。
少々お太りになっており服装もしっかりしていてまるで騎士のよう。
とてもただの子供には見えないがなぜここに？
「どうしたの？　」
メイドの子だろうか。それにしては身なりがいい。
見覚えもない。そうすると新人メイドの子？

「名前言える？　」
「ご主人様。どうか僕をそばにおいてください」
お近づきのキスを受ける。
「もうダメでしょう。まったくどこの子？　」
メイドに世話を任せ親を探すように指示。
闖入者も子供なら安心だ。
ただ素性が知れないのが少し気になる。

「こら待ちなさい！　」
「嫌だよ。へへへ……　」
「そっちに行った。捕まえて！　」
メイドたちが追いかけ回すも手から手へとすり抜けていく。
屋敷内が慌ただしくなる。
所詮は子供。長くは続かない。体力の限界を迎える。

十分経過した頃には囲まれてしまう。
「ほら逃がさないように」
メイド頭が指示を送る。
うしろは壁。逃げ場を失った男の子は追い詰められていく。
どこの子かが気になる。
メイドの誰かの子に違いないのですが。まさかそれとも……
約三十人のメイドの中で該当者はいない。
本当にいないのか訳あって名乗り出ないのか？
昼はヴィーナ。午後にもう一騒動起こるとは最近皆弛んでる。
まあこの私が一番弛んでるんでしょうけど。
メイド頭と執事が聞き取りを行う。
「早く名乗り出ぬか！　」
屋敷の者たちを巻き込んだ大騒動の結末は意外なものに。
男の子の正体が分かった。

「王子様。ここにおられましたか」
息を切らした老紳士が入って来た。
何と異国の王子だとか。
「さあ行きましょう」
お供の者が大汗を掻き迫る。
「あの……　」
「これは失礼しました。王子のご無礼をどうかお許しください。
ついはぐれてしまい探していたところでございます」
王子がいると言うことは国王も近くに。
「国王様ですか？　はい外でお待ちしています」
ついに謎が解けた。
お忍びで異国の地を回っておられたよう。

国王と王子をお迎えしてささやかなパーティー。
失礼のないように。
特に子供だからと王子を軽くあしらっては悪い印象を与えてしまうことになる。
それだけは避けなければならない。
お忍びと言うこともあり国王も派手な格好は避けている様子。

「国王様。ようこそおいで下さいました。ありがたき幸せ」
「苦しゅうない」
堅苦しい挨拶は抜きにして楽しみたいとのこと。
「それでここにはどのようなご用で？　」
「ははは……　王子に世界を見せてやろうと思ってな」
僅かなお供を引き連れやって来たのには訳があるようだ。
「ははは！　良い良い」
上機嫌の王子と微笑む国王。
まさか突然やって来るとは思いもしなかった。

それから三時間程滞在してから帰って行かれた。
どうやら本当にお忍びだったらしい。親子の時間を大切にされていた印象。
王子が気付かれなければ正体を明かさずに通過するつもりだったとか。
逃げて来たのではとの噂も。
メイドの中には政変が起きたと考える者もいた。ただそれはいくら何でも考え過ぎ。
ただの王子の気まぐれに付き合ったとの見方が有力。
王子が大きくなられて他国の暮らしぶりを見せて回る。
伝統行事みたいなものだろう。

王子はまだ七、八歳と幼いが今のところ兄弟がいるとの情報がない。
噂レベルとは言え生まれれば隠す必要は無い訳だから王子は一人と考えるのが妥当。
「それで国王様は何とおっしゃられたのですか？　」
「それが……　」
奇妙なものだ。答えないのだから。
挨拶以降姿をお見せしない国王。今回の旅はあくまで王子の為。
自分はただの付き添いだと言ってのける。
「真意は分かりませんが民の心配をしてるところを見るとたぶん……　
セピユロスさんの村の者を励ましにやって来た帰りだと」
そう村は大半が火事で燃えてしまい人は追い出される形に。
異国の国王だとしても民が飢えて行くのを見過ごせないのだろう。
ただこれで民は救われた。
我が国王にその話が伝わり動かざるを得ない。
これで手厚い保護を受けることになる。

今回の訪問も心を痛められてやって来たと言うのが真相だろう。
ただ政変が起きたと勘ぐられることもある。
国王と王子に腹心の家来を連れて避難してきた。
どっちにもとれる。
それにしてもお泊りになられても良かったのでは。
急いで準備していたのに残念。

いつの間にか日が暮れてしまった。
急いでディナ―に。

　　　　　　　　　　　　　　　　　続く