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庭園での密会

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ボノと庭園を歩いたのは何年前? 遥か昔のように思えるあの頃。
今セピユロスと一緒に庭園を歩いている。
ふふふ…… もう積極的なんだからセピユロスったら。
「綺麗ですね。この花は何と言うのですか? 」
庭園には何千種類の花々が季節に合わせて咲き誇る。
私はバラやヒマワリにサクラぐらいしか知らない。興味がないのだ。
メイドが詳しく教えてはくれるのですが…… 頭に入ってこない。

赤いバラのアーチが庭園の特徴の一つ。
今の季節ではただの飾りでしかないですが。
「さあメイドに聞くとよろしいかと」
突き放す。
でも仕方がない。本当に知らないんですもの。
誤解しないで欲しい。

「ディーテ? 」
「セピユロスさん。その呼び方はお止めください」
「ディーテではダメ? 」
セピユロスの馴れ馴れしい態度。まだ続けようとするつもり?
日が経ち二人の関係が元に戻った。そう自分では解釈している。
セピユロスも村のことで掛りっきりで私のことなど忘れていたでしょうね。
それならそれでいい。彼が求めなければ私も求めない。
初めからそのつもり。だから厳しく躾ける。
ヴィーナは甘やかして育てられた。もう無理。
でもセピユロスは違う。村や家族を思う好青年。
私をたぶらかそうとするのは許せないがそれも一つの遊びだと思えば我慢もできる。
「何度も言ったでしょう。お義母様となぜ呼べないのですか? 」
これでいい。彼の気持ちが離れた今もう一度ヨリを戻そうなどと考えていない。
彼やヴィーナの為にもはっきりさせておくことが大切。

「ディーテ。何をそんなにカリカリしてるんだい」
そう言って肩を抱き寄せようとする。
生まれついての女たらし。女性の敵。
それがボノでありセピユロスなのだろう。
認めたくないが変えられない真実。
「ほらお義母様よ。言ってごらんなさいセピユロスさん」
厳しく教え込むがセピユロスは意に介さない。
「ねえディーテ。何を怒ってるんだい? 」
優しく囁きかける。生まれついての女たらし。
それに引っ掛かったのがヴィーナであり私と言う訳。
「怒ってません。ただ二人の関係をはっきりさせたかっただけです」
有無を言わせない。
もうこれ以上余計な感情を抱きたくない。
はっきり言って欲しい。興味がないと。ただのお遊びだとなぜ否定してくれないの?
これ以上はもう限界。はっきりと彼の口から聞きたい。
拒絶だろうと求愛だろうとどちらでも構わない。
はっきりさせてセピユロス。
ああセピユロス。あなたはどうするつもり?

「二人の関係? 変なこと聞きますねディーテ。ははは…… 恋人でしょう? 」
「いいえ違います。恋人の母です」
当たり前のことを熱弁するこちらの身にもなりなさい。
辛いですよ。恥ずかしいですよ。
心が痛む。分かっていても苦しい。
もうこれ以上弄ぶのは止めて欲しい。
そして何の感情もないのなら早くお義母様と呼ぶべき。

「ディーテ怒ってるんだね。でも火事ではどうしようもない」
怒ってないと言えば嘘になる。
あなたがはっきりしないから私が辛いんじゃない。
「セピユロスさん。ほらもう冗談はよいのです」
ボノに対抗したかっただけでしょう。
男はどうしてこうも競いたがる?
「そうさ僕らは世界がどうだろうと関係ない。
二人の愛は誰にも理解されないだろう。
それでも一人でもいや一つでも分かってもらえばいい」
本気なのセピユロス?
まるでどこかのお歌のよう。

「好きなんだ」
「はい? もう一度」
「ディーテ。君を忘れられない! 」
一気に体が火照る。
私自身ここまではっきり言われるとは思わなかった。
思わせぶりなことを言って私をからかっているのだとばかり。
「セピユロスさん…… 私…… 」
「好きだディーテ! 」
そう言うといきなり唇を奪う。
大胆で自分勝手でどうしようもない男。
ああ彼がどうしてこうも積極的なのか分からない。
ただこれでもまだ彼を信用できない。
こんなことは朝飯前で誰にでもやっているかもしれないからだ。
だから証拠が欲しい。
ボノやヴィーナを捨てるほどの何かが欲しい。
決して許されない恋。
燃え上がるような恋。
「結婚して欲しい! 」
ストレートなセピユロス。
ついに求婚される。

                続く
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